だからジョブズは子供にスマホを持たせなかった…著名人が次々とやっている「スマホ断ち」の正しいやり方
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次々とホーム画面にSNSの通知が届く。気がつくとあっという間に1時間……脳が危ない。でもスマホは手放せない。どうする⁈ 気鋭の科学ジャーナリストが考案した、4週間でスマホ依存から抜け出す方法を紹介する。 ※この記事は、キャサリン・プライス著、笹田もと子訳『スマホ断ち 30日でスマホ依存から抜け出す方法』の内容を要約、再編集したものです。
ご褒美が50回に1回でも その行為をやめられない
スマホは生活に不可欠な存在だが、多くの科学的データがこのデバイスには依存性があり弊害も大きいと示す。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツが、自分の子供をスマホやデジタル機器から遠ざけていたのは有名な話だ。ジョブズはニューヨーク・タイムズ紙の取材に答え、自分の子供たちが「家のなかで使うデジタルテクノロジーは制限している」と答えている。ビル・ゲイツ夫妻は、自分の子供たちに14歳になるまでスマホを持たせなかった。
ある調査によるとアメリカ人のスマホ利用時間は1日平均4時間以上、1年に換算すると60日になる。また、約80%の人は起床後30分以内にスマホをチェックする。約半数は夜間にスマホをチェック。80%以上は“起きている間中”スマホを手元から離さない。10人に1人は、なんとセックス中にスマホを見るというのだ。
“スマホ依存”は脳の構造と機能を変質させる。このことが、記憶力や集中して何かに取り組む能力を低下させていると科学者たちが警告している。
なぜスマホ依存が起きるのか。スマホは、不意に良い知らせを届けてくれる(好きな人からの予想外の誘いなど)。こんなとき、脳内ではドーパミンが分泌される。予想不可能な状況で報酬を得ることを心理学用語で「間歇強化」という。実はスマホ以外にもこの「間歇強化」を引き起こす強力な機器がある。それはスロットマシーンだ。いったん、脳内で行為と報酬が連結すると、たとえご褒美が500回に1回でも、人はその行為をやめられない。
スマホは新着情報で感情を掻き乱す。現代人はスマホから目を離すたびに、何かを見逃すのではないかという、FOMO (Fear of Missing Out)と呼ばれる不安に支配されている。スマホを確認して一瞬気が晴れても、スマホを置くとまた不安に襲われるのである。
アメリカではiPhoneが登場した2007年から10年までの10年間で、10代の飲酒、ドラッグの摂取率が下降した。専門家は依存対象がスマホに移ったと見ている。「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌に掲載された報告は「『いいね』をつける、リンクをクリックする、どちらの行為でも、身体的健やかさ、メンタルヘルス、人生に対する満足感がその後低下すると予見できる」と伝える。多くの研究がSNSの使用時間が増えるほど幸福感が減少すると警告している。若者への影響はダイレクトで、スマホの登場以来、10代のうつ病、自殺率が増加している。
スマホは本質的にユーザーを依存させるために設計されているといっても過言ではない。「いいね」を押すと送りこまれるクッキーというファイルにより、「DNA誕生以来、最大級の個人データ」がFacebook、Google、Amazon、Appleに集積されている。リンクや広告を目にするたびに、脳はクリックすべきか否かの一瞬の判断を迫られる。それを繰り返すと、脳は疲弊し、集中しにくくなるように回路を強化していく。
本来、人間には、一見無関係な物事の共通点を発見し思考を深める力がある。これが“閃き”を生む。だが、スマホに没頭していると周囲で起こることへの認識も処理もできず、“閃き”も生まれにくくなる。また、一般に言われているマルチタスクは実は不可能であり、その実態は断続的に集中が途切れる状態であることが科学的に理解され始めた。さらに、スマホが発するブルーライトは脳内でのメラトニンの分泌を阻害するため、就寝前の使用は睡眠を妨げる。本来必要な7~8時間を下回る睡眠時間が10日続くと、脳は24時間不眠時と同等に機能低下するという研究もある。
心理学者のミハイ・チクセントミハイは、一つの物事に集中して時間感覚がなくなる状態を“フロー”と名付けた。スマホに依存する人はこの“フロー”を体験しにくくなる。本来、人間に備わっているはずの創造性をも失ってしまうのだ。スマホを完全にやめてしまえというのではない。本来あるべき良好な関係を築くことが大切なのだ。筆者が試行錯誤の末に考案したそのためのメソッドを抜粋し紹介する。