なぜ「スーパーの店内」はどこも似ているのか…鮮度を優先する「インストア加工」を広めた兵庫のスーパーの名前
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スーパーの食品売場のレイアウトには定番がある。流通アナリストの中井彰人さんは「生鮮品の売場が建物の壁づたいに、青果、鮮魚、精肉の順で並んでいて、ぐるっと回った右側に惣菜売場のパターンが多い。背景には日本型スーパーの仕組みがある」という――。 ※本稿は、中井彰人・中川朗『小売ビジネス 消費者から業界関係者まで楽しく読める小売の教養』(クロスメディア・パブリッシング)の一部(中井彰人氏執筆部分)を再編集したものです。
なぜスーパーのレイアウトはだいたい同じなのか
スーパーの食品売場に行くと、レイアウトには定番があって、左側から入口を入ると、生鮮品の売場が建物の壁づたいに、青果、鮮魚、精肉の順で並んでいて、ぐるっと回った右側に惣菜売場、というパターンが多いのではないかと思います。そして、売場の中央部にチルド商品や飲料、一般食品各種(いわゆる工場で生産された加工食品)が集められている、というのが一般的なイメージでしょうか。
実は、こうした売場のレイアウトは、日本型スーパーという独特の仕組みが背景となっています。生鮮品がなぜ壁に沿ってあるのか、というと壁の向こう側に、生鮮品を小分けにしたり、パック詰めする(流通加工といいます)ための作業場が設置されているからです。売場の壁がガラス張りになっていて、その向こうで店のスタッフが作業している姿が見えるので、言われてみれば、と思い出される方も多いのではないでしょうか。
本来のスーパーの仕組み(チェーンストア理論といいます)では、こうした流通加工の作業工程は、物流センターや加工センターといった専用の施設で、複数店舗のパック詰めなどを一括で処理して、各店舗に配送するというのが効率的です。しかし、日本のスーパーでは各店舗で作業する方式がスタンダードとなっています。これは50年ほど前に、兵庫県の関西スーパー(現H2Oリテイリング・グループの関西フードマーケット)が生み出した「インストア加工」という手法が、全国のスーパーのスタンダードとなったことによります。
日本型スーパーの標準になった「インストア加工」
関西スーパーは、当時の日本の消費者が生鮮品の鮮度に敏感であることに注目し、店舗で切り分けることで鮮度劣化を防ぎ、また、それを売場の壁面をガラス張りにして、今パック詰めしているという様子を見せることで、消費者に鮮度を視覚的にもアピールしたのです。この手法は阪神間の消費者に大いに支持され、関西スーパーは一躍、繁盛スーパーとして全国的に有名になりました。そして、ここからが凄いのですが、関西スーパーはこのノウハウを、教えを乞う全国各地の同業に無償で伝授するという驚くべき行動に出ました。その結果、このインストア加工は、全国のスーパーに拡散し、やがて日本型スーパーといわれるデファクトスタンダードとなったのです。