失敗を「恐れる・避ける・隠す」は三流である…二流は成功だけを追い求める、では本当の一流はどうする?
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失敗を成長につなげられる組織は何が違うのか。ハーバード・ビジネススクール教授のエイミー・C・エドモンドソンさんは「エリートが集まる組織では『失敗は成功のもと』とわかっていてもプライドが失敗の邪魔をすることがある。私の知る企業のCEOは常に『早く成功するために速く失敗しろ』と言っていた」という――。 ※本稿は、エイミー・C・エドモンドソン『失敗できる組織』(早川書房)の一部を再編集したものです。
失敗を褒める企業は珍しくなくなった
世界中の企業がイノベーションを生み出せるかどうかは、いかに失敗するかにかかっている。今日では失敗を褒めたたえる企業はかつてほど珍しくなくなった。だが私が2002年秋にマサチューセッツ州チャタムで開かれたデザイン業界のカンファレンスで失敗について講演したときには、聴衆からどんな反応を受けるか予想できなかった。
ステージを降りると、もの問いたげな表情の参加者が近づいてきた。デザイン会社IDEO(アイディオ)のデザイナーで、ボストン支社長だったダグラス(ダグ)・デイトンだ。真面目そうで思慮深い人物に見えたが、明らかに何か引っかかっているようだった。40代半ばのデイトンは黒髪に中肉中背、穏やかで言葉を選びながら話した。
支社のあるチームが老舗マットレスメーカーのシモンズから請け負ったプロジェクトを進めているが、うまくいっていないようだ、という。自分とチームがそこからどんな教訓を学ぶべきか、理解するのを手伝ってくれないかとダグは尋ねた。喜んでお引き受けするし、ハーバード・ビジネススクール用に正式なケーススタディを書かせてもらえたらなおありがたい、と私は答えた。
自社の失敗について調査し、文章にしたいという私の申し出にダグが「イエス」と答えた事実そのものが、IDEOという会社について多くを物語っている。失敗を研究したいという私に門戸を開く経営者はさほど多くない。私の知るかぎりIDEOほど賢い失敗の精神を体現している企業はない。