「政府がメディアを操作している」と恥ずかしげもなく騒ぐ人の正体…野党支持者が「陰謀論」を信じやすい理由

「政府がメディアを操作している」と恥ずかしげもなく騒ぐ人の正体…野党支持者が「陰謀論」を信じやすい理由

支持率の低い首相はわざと危機を煽るのか

近年、北朝鮮をはじめとした一部の近隣諸国による軍事的威嚇・挑発が増加している。実際に、2023年4月から24年9月までの1年半ほどの間だけでも、有事において発信される全国瞬時警報システム(Jアラート)は5度も発令されている。幸いにも、具体的被害は出ていない。しかし、だからこそ、とりわけソーシャルメディア上では「政府は、自分に都合の悪いことから国民の目をそらすために、わざと危機を煽っているだけなのではないか?」という意見も散見される。

もちろん、こうした意見がすべて「陰謀論」というわけではないが、真偽の検証が難しいという点では陰謀論的な要素が含まれた言説だとも言えよう。

このように、事態の重みにかかわらず、陰謀論の蔓延が国内外で問題となっていることを踏まえて、政治学や社会心理学などの分野でも陰謀論をめぐる研究が急速に増加している。また陰謀論研究の動向において、とりわけアメリカにおける党派性と陰謀論に着目する一連の研究は、比較的安定した知見を見出しているように思われる。

たとえばアメリカの共和党支持者の間では、陰謀論(的な言説)を堂々と社会的に表明できるレベルにまで浸透していることが明らかになっている(e.g. Graham and Yair, 2024; Hata and Ogura, 2024)。日本でも、与党・野党支持者にかかわらず、支持政党に有利な言説であれば、陰謀論(的)であっても信じる傾向にあることが指摘されている(秦、2022)。

このように特定の政党を支持する人は、自身の支持政党を悪く言う言説には反対するし、逆に支持政党にポジティブな情報であれば(その真偽を横において)受容しやすくなるという傾向は、比較的共通して見られる現象のようにも思われる。とはいえ、「陰謀論の信じられ方」は、国や時期などによって多様であり、陰謀論受容に関する「通説」と言えるようなメカニズムや、陰謀論に対処する特効薬はいまだ明らかではなく、発展途上である。そこで今回は、筆者を含む研究グループが20年に実施したオンライン世論調査※1(実験)のデータを用いて、日本人を対象とした「党派性と陰謀論受容の関係」について考察してみたい。

※1:本調査(実験)は、龍谷大学・人を対象とする研究に関する倫理審査委員会の承認(2020-15)を得ている。また別の設問では、そもそも設問文をきちんと見て正確に回答したかどうかのチェックを行っており、このチェックに合格した回答者のみを分析対象とした。

筆者らは、20年10月31日〜11月13日にかけて、安全保障上の危機に関する陰謀論への受け止め方に注目した実験を行った。この実験は、楽天インサイトのパネルモニター1509人(国勢調査にもとづいて人口比率を割り付けて配信)を対象に実施した。この実験では、次のような設問について回答してもらった。なお、選択肢は、そうは思わない(0)・あまりそうは思わない(1)・どちらともいえない(2)・ややそう思う(3)・そう思う(4)・答えたくない(欠損値)としている(各選択肢後のカッコ内の数値を分析で用いた)。

〈設問内容〉

政治の不正やスキャンダルによって政治のリーダーや与党の支持率が低下すると、国際的な危機に関するニュース(たとえば、尖閣諸島への中国船の接近)が増えて、政治リーダーや与党の支持率が大きく回復すると言われることがあります。

【処置群のみ:たとえば、以下は民主党政権時代の10〜12年頃に、尖閣諸島での中国船との衝突事故が見られた際の、菅および野田首相(当時)の支持率の関係を示したものです(筆者注:図は紙幅の関係で割愛)】

こうした現象について、あなたは首相がメディアに働きかけて、国際的な危機のニュースを増やしていると思いますか、それともそうは思いませんか。

この設問では、「首相(政府)は、自身や政府に不利な報道から世論の目を遠ざけんとするために、裏でメディアを恣意的に操作して情報をコントロールしている」といった陰謀論的言説を信じるかどうかを尋ねた。またこの設問では、〈設問内容〉中にある【処置群のみ】と書かれた部分が含まれるパタン(処置群)と、含まれないパタン(統制群)の2つを用意し、いずれかのパタンについて回答してもらった。

処置群に含まれる文章には、「尖閣問題が表面化した時期に民主党政権の支持率も上昇した」という図を呈示することで、この陰謀論と民主党を関連付けるようにフレーミングしている。

つまり、民主党と陰謀論を絡ませる処置群の内容は、現在の立憲民主党支持者にとっては都合が悪く、自民党支持者にとっては敵失と感じられるはずである。したがって、民主党政権の問題とされた処置群では、そうされていない統制群に比べたとき、リベラル野党支持者は「首相はそんなことをしていない」と考えて同意度が低下し、自民党支持者は「民主党政権はメディア操作をしていたのではないか」と考えて同意度が高まることが予測される。

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2024.12.04

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