子どもの呼吸マネジメントは親の課題。呼吸を鍛えるコツ

子どもの呼吸マネジメントは親の課題。呼吸を鍛えるコツ

2020.12.10

Profile

今井一彰

今井一彰

内科医/東洋医学会漢方専門医/NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長

内科医・東洋医学会漢方専門医・NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長。1995年山口大学医学部卒業。同大救急医学講座に入局し集中・救急治療への従事を経て2006年みらいクリニック院長に就任。あいうべ体操(息育)、ゆびのば体操(足育)の2つの「ソクイク」で病気にならない体つくりを提供。メディア出演や、講演など幅広く活躍するメディカルエンターテイナー。著書に、『健康でいたければ鼻呼吸にしなさい あいうべ体操と口テープでカラダがよみがえる!』(河出書房新社)がある。

新しい生活様式が呼びかけられ、マスク着用が習慣化している現在。幼い頃からマスク生活を強いられる現代の子どもにとってどのような影響があるのでしょうか。口呼吸がもたらす子どもの成長への弊害と口呼吸の危険サインについて分かった中編。後編では、口呼吸から鼻呼吸へ改善する実践法についてみらいクリニック院長の今井一彰先生に解説してもらいます。

新型コロナウイルスの流行に伴い、マスク着用が当たり前となった現在。このような「新しい生活様式」が子どもに重大な弊害を及ぼすというみらいクリニック院長の今井一彰先生。

前編では呼吸の重要性、中編では子どもの口呼吸が顔や表情などの見た目にも影響するということを教えてもらいました。

子どもの7割が口呼吸。マスク生活で見落としがちな呼吸の重要性

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マスク生活が子どもの見た目に影響。口呼吸の危険サインとは

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後編では、子どもに口呼吸の危険なサインがみられたとき、子どもの健康を保つために、家庭内で実際に実践できる方法について聞きました。

呼吸や咀嚼は学習行為

「呼吸って無料のもの。24時間常にしていることだからこそ、なかなか気を払うことは難しい。

呼吸や咀嚼は、生きていく上で必要なことですよね。ところが、どちらも多くの人にとってはできて当たり前のことのように考えられていてますが、これは“できて当たり前”ではなく、“学習”なんです。

鉛筆を持つ、お箸を持つという行為には、それらを習得するための練習の道具がたくさんありますが、呼吸や咀嚼には教える道具がありません。そのために、鼻での呼吸や咀嚼といった本当に基本的なところがおろそかになっているんです。

たとえば、ロウソクを消せない子どももたくさんいます。なぜかというと、上唇が育っていないために、目の前にロウソクがあるのに空気が上にいってしまう。ケーキをデコレーションすることも楽しいですが、誕生日やクリスマスにはロウソクが消せるかどうかということを確かめることも重要です。

iStock.com/Hakase_
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他には、ある程度の年齢になったら口笛が吹けるかどうか、舌でパンパンという音を出せるかどうかといったことも確認しましょう。これらの口の使い方も非常に大切なことなのですが、目を逸らされがち。なかなか気づいていらっしゃらない保護者が多いように思います」

咀嚼を鍛える身近な食べ物

呼吸だけでなく咀嚼もまた、自然とできるようになることではなく“学習”であると今井先生。子どもの咀嚼力を鍛えるためには、噛み応えのある食べ物を与えるのがよいといいます。

「未就学児のお子さんが食べやすいものだと、一番いいのが昆布ですね。イノシン酸がたくさん含まれているので、咀嚼だけでなく味覚も鍛えられると思います。

根昆布は、大きいので喉に入って詰まることもないですし、噛んでも噛み切れないのでずっと噛むことができます。昆布は手軽ですし、すぐに手に入れることができる。さらに、板の昆布をちょうどいい大きさに切っておくと便利です。噛めるだけでなく、舐めることで味覚も育ちます。

iStock.com/y-studio
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また、食べ物を食べるときは必ず口を閉じ、足を床につけた状態で咀嚼することが非常に大切です。足をぶらぶらさせてしまうと、噛む力も弱くなってしまいます。食事の際は、足がつくベビー用の椅子や、台を置くなどしてきちんと足がつく状態を作ってあげてください。

そうやって、しっかり噛めるようになると顔や舌の筋肉が動き、舌の位置が上がります。舌が上がると自然と口が閉じ、鼻呼吸をすることができます」

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口を“閉じる”でなく“鍛える”

「口呼吸になっているときは、舌が下がっている状態になっています。なぜかというと、口の周りの筋肉、舌やあごは重く、口輪筋という口の筋肉や皮筋という皮の筋肉は薄いので、閉じ続ける力がありません。

舌が落ちると舌の分まで唇を上げなければいけなくなりますが、唇の力で締め付け続けることは難しいので、疲れてすぐに落ちてしまう。子どもに何度『口を閉じて』と言っても開いてしまうのは、ここに原因があります。

逆に、人間の体は舌が上がるとそのまま口がついていくので、下あごが完全に閉じる仕組みになっています。ですから、子どもには『口を閉じよう』ではなく、『舌を上げよう』と声をかけることが大切です。

舌の力は結構強いので、口が開きそうになっているときは『舌を上げるよ』と呼びかけるとよいでしょう」

今井先生が考案した、「あ」「い」「う」という母音を発音するときの口の動きと、「べー」と舌を出すときの動きを組み合わせた”あいうべ体操”は、口呼吸を鼻呼吸へと改善し、健康を保つための習慣として取り入れるとよい、口と舌の体操。

日本語では、「あ」「い」「う」を発音するときの口の動きが、あらゆる口の動き(発音)の基本となっているため、「あー」「いー」「うー」の3つを行うことで、口の動かし方のすべてができるようになっています。

あいうべカード

「この体操によって鍛えられるのが口の周りにある口輪筋という筋肉やあごや頬、目もとなどの筋肉。そして、それらの筋肉といっしょに舌筋を鍛えるのが「べー」という舌を出す動き。

毎日繰り返すことで、鼻呼吸の前提となる“口をしっかり閉じること”と“舌を本来の位置に引き上げること”ができるようになります。

お子さんの場合はどうしても早くしようとしてしまいがち。特に3,4歳より上のお子さんにとっては簡単な体操なので、最初のうちは興味をもってやっていても、飽きてしまってしっかりやってくれないこともあります。

その場合は、『あ、い、う、べー』ではなく、『ああ、いい、うう、べー』というように、2回ずつやるといいですよ。2段階に広げるんです。

iStock.com/fizkes
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たとえば、『きらきら星』のメロディーにあわせて、『ああ、いい、うう、べー』と2音ずつ行うと、”あいうべ体操”を12回やったことになり、効率的に舌を鍛えることができます。

なにより明るく穏やかな曲なので、あわせて行うと気分も明るくなりますよね。誰でも知っているメロディーにあわせれば、子どもも早くやりすぎません。『森のくまさん』でもいいですね。いろんな歌にあわせて、お父さんお母さんもいっしょにやってみましょう」

子どもに“呼吸を教える”のも子育て

「保護者の方たちは決して子どものことを考えていないわけではありません。いろんな食事をさせてあげたいとか、どのようにしたら健康に育ってくれるかとか、とてもよく考えていると思います。でも考えてほしいのは、その“手間”が果たしてどういうことなのかということ。

たとえば、ものを喉に詰まらせないようにと食材を小さく切る、食卓に水を置いておくという保護者の配慮。実はこれらの子どものために親が行っていることが、よく噛まない原因になっています。

口呼吸をもたらす環境や習慣は、身の周りに溢れています。ものを口に入れる動作を汚いからといってやめさせる、食べる時間を短縮するために手づかみ食べをさせずに親がスプーンであげることもそのひとつ。子どもにとっては絶対に必要な学習機会が、現代の時短主義や、効率が優先される風潮によって少なくなっていると感じます。

iStock.com/damircudic
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呼吸や咀嚼に関しても、子どもの体への影響を考えて、正しい知識を子育てに活かしていく必要があります。ただ、それは簡単ではありません。呼吸ひとつにしても、普段の生活の一部に過ぎないですから。

子どもが育つには“手間をかける”ことが非常に重要なんです。ぜひ、家庭で子どもたちの呼吸の見直しを意識し、向きあってみてください。その”手間”は10年後、20年後にはその子が元気に生活するための”学習”になり、健康な体作りにつながっているはずです。

今の社会情勢からも共働き世帯が増え、“手間”をかけることがなかなか難しい部分もあると思いますが、そういった10年後、20年後といった先を見据えるという視点を持って子どもと接する。その”ひと手間”が親からの大きなプレゼントになると思います」

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今井一彰

今井一彰

内科医・東洋医学会漢方専門医・NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長。1995年山口大学医学部卒業。同大救急医学講座に入局し集中・救急治療への従事を経て2006年みらいクリニック院長に就任。あいうべ体操(息育)、ゆびのば体操(足育)の2つの「ソクイク」で病気にならない体つくりを提供。メディア出演や、講演など幅広く活躍するメディカルエンターテイナー。著書に、『健康でいたければ鼻呼吸にしなさい あいうべ体操と口テープでカラダがよみがえる!』(河出書房新社)がある。

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