なぜ算数の勉強をしないといけないの?算数嫌いを克服する効率の良い勉強法

なぜ算数の勉強をしないといけないの?算数嫌いを克服する効率の良い勉強法

予測不能な時代を生き抜くためには、これまでの常識とは異なる「〇〇力」が重要になってくるだろう。そんな「〇〇力」を子どもが身につけるためには、親はなにをしてあげられるだろうか。今回のテーマは、算数力。なぜ算数を勉強する必要があって、それは将来どのように役に立つのだろうか。

昨今は非認知能力の注目が高く、基本的な算数力や読み書き能力はあまり注視されていない傾向があるかもしれません。また、算数力は他の勉強にも通じる力だから大切だとは思っていても、どのような場面で役に立つのか、具体的にはイメージがつかない子どももいるでしょう。

算数力はなぜ必要で、そのためにどのような勉強方法があるのか。『算数をできる子を育てる』『役に立たないと思っていた数学で人生の難題もかなり解ける』等を著書にもつ数学教育ライターの鍵本聡先生にインタビューしました。

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どうして算数の勉強をしないといけないの?

ーー小学一年生の娘が「どうして算数や計算問題をやらないといけないの?」と聞いてくることがありますが、納得するような説明をしてあげられません。

鍵本さん:算数はラクチンをするための勉強です。勉強しておいたら将来ラクになるし、先にやっといたほうが得なんですよね。

ーーそうですよね。なんとなくイメージはできるのですが、娘が理解できるのか心配です。実は隣の部屋にいるので、呼んできてもいいですか?

鍵本さん:いいですよ(笑)。

一年生女子:こんにちは。

※写真はイメージ(iStock.com/maroke)
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鍵本さん:あ、こんにちは。ちょっとお話しましょう。算数は好きですか?

一年生女子:好きじゃないです。

鍵本さん:そうですか(笑)。勉強は算数以外も嫌いなのかな?学校の勉強じゃなくてもいいけど、なにか好きなことはありますか?

一年生女子:学校では図工でなにかを作るのが好きです。

鍵本さん:いいですね!それならまずは図工を追求してみましょうか。そしたら、算数と国語も必要になるときがくると思いますよ。

たとえば難しいものを作ってみたくなったら本を読んで調べたり、インターネットで調べたり。そのときに難しい漢字が出てくるかもしれないけれど、好きなことをやるためだったらきっと覚えられます。あとは、「このパーツが何個ほしい」とか、「合計で何センチ必要」とか、そのようなことを考えるには計算が必要だよね。

将来、好きなことを仕事にしても、きっと国語と算数は必要になりますよ。図工の他にはなにが好き?

一年生女子:うーん、ママの料理を手伝うのが好き。

鍵本さん:いいですね。じゃあ、たとえばパン屋さんになったとして、小麦粉はどれだけ必要なのか。どんなオーブンがあったら、商品をどのくらい作れるか。たくさん計算をする場面が出てきますよ。そういうときに、算数が苦手じゃないほうがやっぱりいいのかなと思うな。

※写真はイメージ(iStock.com/ljubaphoto)
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鍵本さん:だから、まずは好きなことを追求してみてください。他の人がやってないくらいやってみる。図工や料理だけはクラスで一番得意、誰にも負けないというくらいになったら、きっと算数も国語もどんどん伸びていくと思いますよ。

一年生女子:うーん……。

鍵本先生:ちょっと難しいよね(笑)。でも、今は好きなことをしていたらいいということです。好きなことを楽しくやるから伸びるんです。今は算数は嫌いかもしれないけど、好きな図工を追求していったら、きっと算数につながって、そうしたら今度は算数にも興味を持ってもらえたらいいかな。

一年生女子:わかりました!

ーー好きなことをしていたらいいと言われて、ちょっと嬉しそうでした(笑)。先生、ありがとうございました。

鍵本さん:いえいえ。「先生、うちの子を算数好きにしてください」などと言われることがありますが、それはけっこう難しいんですよね。それより好きなことを追求することを入口にして、どこかで算数につながるのを待ってみてもいいと思います。娘さんはまだ一年生だから全然大丈夫ですよ。小学生のうちは、嫌だと言ってもまだ好きの範疇ですからね。

ーー安心しました。実際に日常生活で算数が役に立つ場面ってどのようなことがありますか?

鍵本さん:算数ではなく数学で習う範囲になってしまいますが、このような問題は面白いですよ。

※写真はイメージ(iStock.com/anutr tosirikul)
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鍵本さん:「雨が降りそうだったので傘をさして出かけました。最初に郵便局に行って、次に病院に寄って、最後にコンビニに行って帰ってきました。帰ってくると傘がないことに気が付きました。どこかに立ち寄ったときに傘を忘れる確率が1/2とすると、どこで忘れた確率が高いでしょうか?」

ーー3ヵ所に立ち寄ったということは、1/3の確率なので、どこも同じではないんですか?

鍵本さん:多くの方はそう答えます。でも正解は、最初の郵便局で忘れた確率がいちばん高いのです。

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鍵本さん:なぜかというと、最初の郵便局で忘れる確率は1/2。次の病院で忘れる確率というのは、郵便局では忘れなかった確率1/2、そして病院で忘れる確率が1/2なので「1/2×1/2=1/4」となるのです。同様にコンビニで忘れた確率は「1/2×1/2×1/2=1/8」です。

このように何か所か立ち寄った後で忘れ物に気づいたのであれば、基本的に最初の場所で忘れた確率が高いことを知っておくと便利かもしれません。

算数の成績が上がる!効率の良い勉強法

ーー面白いですね!では、算数を勉強するにあたって、おすすめの方法やコツはありますか?

鍵本さん:文章題をたくさんやるのが効率いいと思います。計算はできるけど文章題ができない子がとても多いのですが、それは文章題には国語力が必要だからです。文章題を訓練していると国語力もつくし、計算力もつくし、一石二鳥です。

※写真はイメージ(iStock.com/yamasan)
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ーーたしかにそうですね。

鍵本さん:あとは自分がよく使う計算は覚えておくとよいです。九九は日本人の素晴らしい財産ですが、たとえば13×13とか20×20などのかけ算を覚えている国もあると聞いたことがあります。現在はどうかは分かりませんが、でも覚えていたら有利なのは事実ですよね。

よく使うのは、12のかけ算。12×18とかはよく問題に出てきます。あとは円周率3.14も「3.14×2=6.28」「3.14×3=3=9.42」と覚えておいたら便利です。問題に出てくるたびにひっ算していたらひと手間増えるし、計算間違いする確率もあがりますからね。

あとは、「この計算はあらかじめ準備しておく」という知識も大事だと思います。たとえば高校生になってパン屋さんでアルバイトを始めたとします。128円のパンが5個だったらいくらになるか、8個だったらいくらになるか。よく使う計算がきっとあるでしょう。その場合は、簡単に表を作っていつでも見られる状態にしておくこともひとつの手ですよね。

ーーなるほど。よく使う計算に気付き、要領よく準備をすることが重要なんですね。算数の単元では、どこでつまずく子が多いですか?

鍵本さん:多いのは分数ですね。それまでは物を「1個、2個…」と数えるのが普通だったのに、いきなり1/3とか1/4と言われてもピンとこないようです。

ただ、普段から親御さんが分数を口にしていたりすると、子どもも理解しやすいかと思います。たとえばケーキを切るときに「これは1/3だね」などと言いながら切る姿を見せる。6等分にして、そのうち2つを取り分けて「これは2/6だね、実は1/3と同じなんだね」と、日常から分数を身近に感じてもらうとよいのではないでしょうか。

※写真はイメージ(iStock.com/AndreyCherkasov)
※写真はイメージ(iStock.com/AndreyCherkasov)

鍵本さん:あとは、比もつまずく子が多いですが、これも普段の会話の中で「私は40歳で、〇〇ちゃんは8歳だからだったら5倍長く生きてるなー」などと言ってみるとか(笑)。子どもにはまだ理解できないと思うかもしれませんが、大人が普段の会話の中でチラッと出してあげるだけで、習ったときに吸収できる力が違うと思うんですよね。

ーーなるほど!意識してやってみたら、いろいろ身近なことでも算数を取り入れられそうです。

鍵本さん:そうですね。日々の生活の中で大人が主導して、算数的な物の見方を教えてあげること。その積み重ねが、算数力のある子どもを育てていくのだと思います。

ーーありがとうございます!後編では、AI時代に果たして算数力が必要なのかどうか、というテーマでお話をお伺いします。

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AI時代に計算力は必要?
後編を読む

Profile

鍵本 聡

鍵本 聡

数学教育ライター、学習塾運営、大学講師 1966年兵庫県西宮市生まれ。京都大学理学部、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科卒、工学修士。 「株式会社KSプロジェクト」代表取締役、総合教育学院「1223KSP」代表講師。 関西学院大、大阪芸術大、大阪女学院大などで非常勤講師。 ローランド株式会社(楽器開発)、浜松市の聖隷学園高校教諭、大手予備校数学科講師、大学進学専門塾「がくえん理数進学教室」代表を経て現職。 大阪鶴橋にて学習塾や語学学校などを含めた総合教育学院「1223KSP(旧「KSP理数学院」「KSPコリア学院」)」を運営中(www.ksproj.com/1223KSP/)。 豊富な経験をもとに、生徒の立場からの学習法を実践的に探求しているほか、人生から見た数学や勉強の意義を説くスタイルには定評がある。 Instragram:@kagichan1966

2023.03.16

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