AI時代を生きる子どもに算数力は必要?算数で「先を読む力」を鍛える

AI時代を生きる子どもに算数力は必要?算数で「先を読む力」を鍛える

予測不能な時代を生き抜くために必要な「〇〇力」。前回は、「なんで算数を勉強しないといけないの」という子どもの問いへの答え方のヒントや、効率のよい勉強方法などを教えてもらいました。今回はさらに「AI時代にも算数力が必要なのか」という疑問や、算数力がもたらす生きる力について、お話を聞きました。

前回は、子どもの「どうして算数の勉強をしないといけないの?」という疑問への答えや、効率のよい勉強方法を教えてもらいました。

今回のテーマは、AI時代にも算数力が必要なのかどうか。引き続き、算数に関する著書を数多く持つ鍵本聡先生に話を聞きました。

「24」は人気者の数字?数に隠されたキャラクターとは

ーー前回のお話では、算数を無理に好きになろうとするのではなく、好きなことを追求することによって、算数につなげていくのがよいと教えてもらいました。では、算数が得意な子どもには、どのような特徴があるのでしょうか?

鍵本さん:算数が得意な子は、数字を身近な存在に感じていて、数字そのものが好きですよね。少し先の話になってしまいますが、「512」という数字を聞いたときに、すぐに「2の9乗」だと分かる子もいます。それが分かるか分からないかは、すごく大きな差なんです。

※写真はイメージ(iStock.com/Hanasaki)
※写真はイメージ(iStock.com/Hanasaki)

鍵本さん:僕がよく泊まるホテルはカードキーに部屋番号が書いていないのですが、僕は部屋番号を忘れることはあまりありません。部屋番号が「2047」だとしたら、「2の11乗の一つ下だな」といったように覚えることができます。

数にはキャラクターがあって、たとえば九九で「24」という数字がよく出てくるのですが、それに気付き「24は人気者だ」と感じる子もいれば、なにも気付かない子もいます。逆に、全然登場しないので「53はレアな数字だ」と感じたり。1から100くらいまででいいので、数のキャラクターを感じることができれば成長しやすいし、楽しいと思いますね。

そのためには誕生日や住所、電話番号など身近な数字を分析してみるのも面白いし、とにかくいろいろな角度から数字を眺めてみることが大事です。算数が苦手だと感じているのであれば、まずは好きな数字を探してみるとよいかもしれません。

ーー数のキャラクター、なんとなく分かるような気もします!では、数字に苦手意識がある子が数字を身近に感じるためには、どのような方法がありますか?

鍵本さん:トランプで遊ぶことはおすすめです。最初はババ抜きや神経衰弱など、計算を必要としないゲームでもいいですよ。

実はトランプは、数字を身近に感じるほかにも、先読み力を身につける目的があります。自分がこう出したら、相手はどうするのかなと思考すること。ババ抜きだったら、5枚持っているうちの1枚だけをピッと上に出してみたりしますよね(笑)。相手はその裏を考えて、あえて違うカードをひいてみたり、駆け引きがあります。

※写真はイメージ(iStock.com/Jorge Aguado Martin)
※写真はイメージ(iStock.com/Jorge Aguado Martin)

鍵本さん:先読み力は算数の基本ですから、このように鍛えることは意外と重要です。算数の文章題を解くうえでも「なんでこんなことを聞いてるのか」と意図を読むことが大切だし、それが分からないとなにを計算したらいいのかわからないですよね。

だから、トランプのアプリやゲーム機でコンピューター相手にやるのも意味がないとは言いませんが、状況判断力や先読み力を鍛えるには人間同士でやるのが一番ですね。アプリでは1枚だけをピッと上に出してきたりしないので(笑)。

数字に慣れてきたら、今度は数の大小関係が出てくる大富豪がおすすめです。さらに、ブラックジャックなどの足し算が必要なゲームも楽しめるようになったらしめたものです。遊んでいるうちに自然と算数力、先読み力がついてきているはずです。

ーー数字を身近に感じることはもちろんで、先の展開を読んだり、相手の意図を読んだりすることが大事ということですね!

鍵本さん:そういうことです。もっとレベルが上がると麻雀や囲碁・将棋になりますが、これらのゲームが好きな人は大体数学が得意ですよ。でも、まずはどこでも手に入るトランプから始めてみましょう!

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ーー分かりました!「先読み力」というのはどのような力なのでしょうか?

鍵本さん:先読み力とは文字通り先のことを見通す力で、僕は算数力とほとんどイコールだと思っています。さらに先読み力は他の教科を勉強するときにも重要だし、社会に出たらそれが人間力になり、仕事力にもなるし、全部ベースは同じ力なんです。

※写真はイメージ(iStock.com/SelectStock)
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鍵本さん:算数にかぎった話ではないのですが、すべての勉強は「記憶と思考」から成り立ちます。つまり覚えることと、考えること。聖書にも「知る力と見抜く力を身につけて」という文章があるのですが、これは「記憶と思考」のことを指していると思っています。

たとえば、「東大阪市ではものづくりがさかんである」、これは記憶です。では「なんで東大阪でものづくりが発展したんだろう」と考えるのは思考。そして、「ものづくりをするメリットがあったのかな、歴史をひも解いてみよう」と、学びへと発展していきますよね。

算数も同様に、記憶と思考から成り立ちます。日本人は九九を習うので、たとえば「6×7=42」は誰もが記憶しています。でも、「16×7」となると計算をしないといけないですよね。大体の人はひっ算でやったり、そろばんの考え方でやったり、思考をしないといけません。

しかし、思考が入ると途端に速度が落ちるのです。だから本当は「16×7」も答えを覚えておくといいのですが、実際覚えてる人は少ないですよね。でも、もしこれを覚えていたらすごく便利です。つまり、記憶の量を増やすというのが、計算力をつけるポイントのひとつだと思います。

※写真はイメージ(iStock.com/miljko)
※写真はイメージ(iStock.com/miljko)

鍵本さん:他の例をあげると「16×0.75」と見たときに、やはりひっ算で計算する人が多いのですが、「0.75は3/4」だと記憶していたら「16×3/4=12」だと答えもすぐに導き出せます。つまり、問題文をパッと見たときに、答えまでの道筋が見えるということは先読み力がついているということ。

だから先読み力を鍛えておくと算数に強くなるし、数学の難しい問題もとけるようになるのです。普段から先読みをする癖を意識していくとよいでしょう。

AI時代に本当に算数力って必要?

ーーなるほど。先読み力の大切さがよくわかりました。話は変わりますが、「計算機があるから計算練習はしなくてもいい」という子に対しては、どのように説明したらよいでしょうか?

鍵本さん:まずひとつは、計算機は便利だから使うのはもちろんいいけれど、普段から思考をする癖をつけていないと、思考力が鍛えられないということを伝えましょう。

もうひとつは、小学生の算数くらいの計算は計算機でできるかもしれないけど、中学生くらいのレベルになってくると、計算機に入れるための計算や思考が必要になるということ。

「お菓子屋さんを始めました。5千円だったら10人が買うし、千円だったら20人が買います。定価をいくらにしたらよいでしょうか。」このような問題があったときにこれを計算機でやろうと思っても、知識がないと何をどのように計算したらいいのかも分からないですよね。

※写真はイメージ(iStock.com/sharaku1216)
※写真はイメージ(iStock.com/sharaku1216)

鍵本さん:そのうえ、もし机の上ではうまく計算機を使って計算ができたとしても、現実世界はそんなに単純ではないですよね。たとえば最初は千円で売って、その人たちにSNSでシェアしてもらって、一定期間後は5千円にするとか、商売をする人はいろいろな戦略を考えることかと思います。

でも、そういう戦略を立てようと思っても、普段から思考をしていない人にはきっとできないし、計算機を使うにしても計算機を使うための計算がやはり必要です。

ーーなるほど。考えてみると計算機でできることって意外と限られているんですね。では、今後どんなにAIが発達したとしても、算数力はやはり必要なのでしょうか?

鍵本さん:そうだと思います。20年前には誰もがスマートフォンを持っていたり、インターネットが当たり前に普及した時代がくるとは想像できなかったし、それを先読みして実現したスティーブジョブズは本当にすごいですよね。

このような予測不能な時代だからこそ、先読み力つまり算数力は必須だといえます。「全部AIがやってくれるから、人間はなにもしなくていい」と考える人が増えたら世の中まずいことになりますよね。AIに使われる人が9900万人がいたら、100万人だけが9900万人をあやつるような世界になってしまいます。

※写真はイメージ(iStock.com/JGalione)
※写真はイメージ(iStock.com/JGalione)

鍵本さん:だから、便利な機械やAIを使いこなすことはもちろんいいことだけれど、むしろそれをどのように使うかを考える思考力が必要な時代です。これからのAI時代をうまく生きていけるよう、うまく算数力を身に着けてほしいと思います。

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Profile

鍵本 聡

鍵本 聡

数学教育ライター、学習塾運営、大学講師 1966年兵庫県西宮市生まれ。京都大学理学部、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科卒、工学修士。 「株式会社KSプロジェクト」代表取締役、総合教育学院「1223KSP」代表講師。 関西学院大、大阪芸術大、大阪女学院大などで非常勤講師。 ローランド株式会社(楽器開発)、浜松市の聖隷学園高校教諭、大手予備校数学科講師、大学進学専門塾「がくえん理数進学教室」代表を経て現職。 大阪鶴橋にて学習塾や語学学校などを含めた総合教育学院「1223KSP(旧「KSP理数学院」「KSPコリア学院」)」を運営中(www.ksproj.com/1223KSP/)。 豊富な経験をもとに、生徒の立場からの学習法を実践的に探求しているほか、人生から見た数学や勉強の意義を説くスタイルには定評がある。 Instragram:@kagichan1966

2023.03.30

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