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創造力を育み幸せを運ぶツールとしての料理【栗原心平×瀧靖之③】
Profile
料理は日常的な活動ですが、実は子どものクリエイティブを育むことができる身近なツールです。KIDSNA Academy 第三回では、料理家の栗原心平さんに旬のトマトを使った視覚的にも美しい子どもも喜ぶレシピを教えていただきました。また、料理を作ることで得られる創造力と脳の発達について、瀧 靖之教授のお話をご紹介します。
料理の視覚的な美しさは芸術的
加藤
栗原 心平さん
色々あるとは思いますが、最も重要なのは「美味しそうに見えること」と「実際に食べて美味しいこと」だと思います。
美味しそうに見えるためには器に対しての色味、色合い。もっと言うとテーブルに対しての調和を考える必要があると思います。
そう言うと難しいように思いますが、「盛り付け」は経験数です。だからこそ最初は、料理写真を見て真似てやってみることが大事です。
天性の才能を持つ方ももちろんいるとは思いますが、一般的には感性でやってみてもうまくはいかないものです。色々な盛り付けを真似ていくことで、自分なりの盛り付けができあがっていきます。
加藤
確かに、最近はWEBやSNSなどでも盛り付け例を見ることができますものね。瀧先生がよくおっしゃられる「模倣」ということにお話が近いのかな、と思います。
瀧 教授
スポーツでも楽器演奏でも文章を書くことなども同様だと思うのですが、知識をインプットしないとアウトプットはできません。
ファッションや絵画なども基本をインプットしたうえで、自分なりのオリジナリティを作り上げていくことがベストな流れだと思います。
私は料理がまったくできないのでこんな偉そうなことを言っていて恐縮なんですが、料理もそういう点で似ていると思うのです。だからこそ学んでアウトプットすることが大事だと思います。
栗原 心平さん
僕は早い時期から父親の食事係でした。もちろん最初のころはそんなに上手くはできませんでした。
そんなときに父親から「“学ぶは真似る”だから、最初は色々真似ていけ。いきなり自分のオリジナリティを出してもバシッと決まるわけはない。だからまずは味の基礎を学びなさい」と言われたのを覚えています。ケーススタディですね。
加藤
心平さんは小学2年生くらいからお料理をされていたんですよね。
栗原 心平さん
本格的ではありませんが、週末に家族の朝食係をさせられました。
加藤
最初はどんなものから作られていったんですか?
栗原 心平さん
コンビーフのキャベツ炒めとスクランブルエッグを作って、みんなが起きてきたらトーストを焼いてというふうに3種類を用意しました。
瀧 教授
すごいですね。いまの私がそのレベルにいくかという感じです。(苦笑)
加藤
小学2年生でそこまで作るのはすごいですね。
栗原 心平さん
両親はもちろん来客の際には僕が料理担当でふるまってはいたのですが、実は大学生になっても料理を仕事にしようと思ってはいなかったんです。
当時、料理を美味しく作れるようにはなったと思うのですが、盛り付けの手段がわからなくて、そこで見出したのがかつおぶしで料理を隠したり、ねぎ盛りにしたりなど、ちょっと雑なんですが見た目に「わっ」と驚くような盛り付けです。
また提供の仕方、大皿なのかひとり分でなのかによっても盛り付け方がかわってくると思います。それもケーススタディですね。
加藤
いろいろ試されて今になっていったんですね。
栗原 心平さん
そうです。
幸せを運ぶ料理の魅力
瀧 教授
料理が苦手な代表という立場で言わせていただくと、料理が難しいと思う点は調理だけでなく見せ方もあり、味の良さもあります。
調理の過程はピアノ演奏で、見せ方は絵画的でありながら、そこはきちんとした段取りが必要であり、クリエイティブな作業だと思います。
だからこそ、トライアンドエラーの繰り返しなんでしょうね。
栗原 心平さん
僕はわりと自然に料理に向き合うことができたので、恥ずかしながらそこまで考えたことはなかったです。でも、料理も継続しないとうまくはならないと思います。
趣味の世界は、他者と一緒に楽しめることはあっても自己満足に陥りがちです。
料理は食べないと生きていけないわけですから、日常です。
美味しいものができたらみんなで共有して食べられて「美味しかったね」「ありがとう」って言ってもらえます。
加藤
ほんとうにそうですね。そう言ってもらえると自己肯定感もあがりますし、さらに上手になると思います。
瀧 教授
自己肯定感や主観的幸福感は、子どもたちの成長にとっても大人の認知症リスクを減らす傾向を保つためにもすごく重要なんです。
自身の主観で効果を高めるよりは、他者の効果を高めてあげる方が結果的に自分に返ってくる。つまり、人を助けたとき、「あとでやってよかったな」と思うのと一緒です。人のために何かをやってあげることが、結果的に自分の幸せに帰ってくると言われています。
料理をふるまうことで、他者の主観的効果を高めながらも結果的に自分を高める、料理の素晴らしさを今回、改めて実感しました。
栗原 心平さん
僕が結果的に料理の仕事についたのもそこが大きな要素です。
僕の今の仕事は作って食べさせることではなく、作ったレシピを多くの方に利用してもらい、各家庭で作ってもらって家族にふるまってもらうことです。
だからおこがましいかもしれませんが、もしかしたら僕のレシピがその家の味になる可能性もあるんです。そう考えたらこんな幸せなことはないと思うのです。
嫌らしいいい方かもしれませんが、良い仕事だなと最近つくづく思っています。
加藤
ほんとにそうです。わが家でも実は心平さんのレシピで定番になっているものがあるんです。だからこそ、作ったレシピが広がっていくことはとても素敵なことだと思います。
瀧 教授
私も心平さんの『男子ごはん』を見て、いろいろ勉強しないと。(苦笑)
身近な家族のコミュニケーションツール
加藤
「料理をすることで人を幸せにすることが自分に帰ってくる」というお話がありましたが、これが日常になることで子どもが優しい人に育つと思います。
今はデジタルの普及だけでなく、コロナ禍ということもあって、リアルなコミュニケーションを取りづらくなっています。そういう意味でも日常的に料理を行うことで優しい心を育むことができる良い機会だと思います。
瀧 教授
おっしゃるとおりで、コミュニケーションをとる上で言葉以外、文字以外の情報が実は多いんです。言葉のコミュニケーションよりも「しぐさ」や「表情」の割合の方が多いと言われています。
だからこそ、夫婦や子どもと言葉や文字以外のコミュニケーションツールをいかに持つかが重要です。そういう意味で、料理はもっと普遍的な家族でface to face(フェイスツーフェイス)でできるコミュニケーションツールですよね。
加藤
コロナ禍になって社会的にはよくない状況ですが、家にいる時間が増えたこともあり、家族が向き合う良いきっかけにもなったようには思います。
栗原 心平さん
そうですね。仕事柄会食が多く、コロナ禍以前は土日を含め週2〜3回程度しか家で食事をしていなかったので家族間の会話も抜けていたんです。
でも、コロナ禍になってからは家族に食べたい料理の希望を聞いて自分で買出しに行き、作ってふるまうことで日常的に会話が断片的ではなく、「昨日のテストどうだった?」と聞けるようになりました。
子どもも聞いてもらえることが楽しみになり、「昨日のテストは●●だった」と自分から話してくれるようになりました。
瀧 教授
わが家は、楽器がひとつのコミュニケーションツールになっていますが、料理は一緒に作って食べて、気持ちを共有して会話が弾むといったさらなる広がりが生まれることが魅力ですね。
栗原 心平さん
楽器は何をされているのですか?
瀧 教授
私はピアノとドラムで、息子はピアノとウクレレで、妻はピアノです。以前は、3人で発表会をやっていました。
加藤
素敵ですね。
栗原 心平さん
それは料理よりもずっとすごいと思います。
瀧 教授
いやいや、私は料理をがんばろうと思いましたので良い刺激になりました。
試行錯誤と創意工夫を育む
加藤
今回の対談前に思ったのですが、料理をすることが実験や作業といった体験を通じて興味と好奇心を育む第一歩に通じると思ったのですが、心平さんはどう思われますか?
栗原 心平さん
当てはまる部分は多分にあると思います。
ただ作業工程が様々なジャンルで重なっていることで理解しづらいとは思います。
例えば、調理そのものは科学に基づいているのですが、割と本能的に実施しているので「科学」という感じがしないんです。
でも紐解いて、考えてみると結合することによって旨味が倍増することが多分にあるし、分量に数学も入ってきます。割って、掛けていくという要素はたくさんあります。
加藤
確かに、言われてみると「ああ、そうだな」とは思うのですが、日常的に行う料理と科学は、結びつきづらいですね。
瀧 教授
私は、「なぜここで水を入れて蓋をすることが良いのか」「ここで塩を少々とはどういうことか」をすぐに考えてしまいます。だから料理は、まさにSTEAMだと思います。
ここで面白いと思うのが「A」のArtです。リベラルアーツでもありますが、クリエイティブな分野だと思うんです。
つまり、料理をしていくことで様々なことが派生していきます。だからこそ、ロジックとクリエイティビティが混じっていることを考えても「STEAM」なんでしょうね。
私はロジックしかないですが、そこからやっていくことで多くのクリエイティビティが派生して産まれていくのだろうと思います。
栗原 心平さん
先に塩をすることであとの食材と結合する意味がわかると料理が面白くなりますね。
瀧 教授
ハマると楽しくて仕方なくなるでしょうね。今は、水面下でモヤモヤしている感じです。いつか克服したいと思っているのが料理なんです。なので、心平さんの話を伺っていてすごく自信になりました。
加藤
瀧先生は1年後にはめちゃくちゃ料理ができるようになっていたりするかもしれませんね。(笑)
※STEAM教育…Science(科学)Technology(科学技術) Engineering(工学・ものづくり)Art/Liberal Arts(芸術/リベラルアーツ:文化や生活、経済などを含めた広い知識)Mathematics(数学)の5要素の頭文字を組み合わせた造語
クッキングタイムの日常と非日常を分けて楽しむ
瀧 教授
心平さんの先ほどの話、「料理は人を幸せにする」っていう言葉がとても心に響きました。そこがとても素晴らしいですよね。
加藤
お子さんは心平さんの料理を食べられていてどうですか?
栗原 心平さん
なんでしょうね。僕も考えてみたら母に対してそうだったと思うのですが、日常のことなので平気で「あんまり好きじゃない」というんですよ。(苦笑)
職業柄、色々な食材を使いますが、なるべく旬のものを食べさせたいと思うんです。例えば春になると山菜がでますが、旬のものはえぐみが強かったりします。
でも、経験のためにとりあえず食べさせてみるんですが、平気で「美味しくない」というんです。なので、次は違う工夫や加工をして出すのですが、そのようなことも本人にとっては普通のことと思っているようです。
また、わが家では夫婦揃って料理をしますので、父親が料理をすることにも違和感がないです。
加藤
それが教育になっていますよね。
瀧 教授
先ほども言いましたが、子どもは基本大人を模倣します。ですから、お父さんが料理をする姿を見ることで、将来自分も料理をするのがあたりまえ、そして子どもと一緒に料理をするのもあたりまえになります。
ポジティブな連鎖、スパイラルが起こります。
加藤
人は経験した感覚値で考えるので、良い教育になっていると思います。
栗原 心平さん
そう信じて続けたいと思います。
瀧 教授
今回は、料理とクリエイティブティの話ですが、実は創造力は「知的好奇心」とつながっています。だからこそ、その学びを楽しむためにも、前回お話をしたアウトドアなどに出かけることが良いと思います。
加藤
なるほど。料理が日常であるために、どうクリエイティブにつながるかわからないという声があったのですが、そういった親の考えが機会損失につながるのだと思いました。
瀧 教授
月に1回でも機会があればいいのだと思います。
加藤
そうですね、週末などの時間があるときにちょっといつもと違う料理を子どもと一緒にすることが大切なのかもしれませんね。
栗原 心平さん
日常に追われていると、なかなかそう考えられなくなっちゃうんですよね。
料理が「追われる作業」になってしまうことも不幸です。
仕方ないとは思うんですが、追われていると感じている方の前提が、「きちんとしないといけない」と思っているんです。自分が自分に課すものが高いんです。
そうすると急いで帰宅して、「あっ、タイマーかけるの忘れた」みたいなことだけでも、ストレスになると思うんです。だからこそ、僕はインスタント食品や出前もいいと思うんです。
月曜日はインスタント食品にしちゃおう、火曜日は味噌汁だけつくっておかずは買ってくる。水曜日は、炒め物だけ作ってご飯と味噌汁。そんなふうに自分でリズムを作ってあげれば苦しくないはずです。
瀧 教授
完璧を求めてしまうと苦しくなってしまうので、手を抜くときとそうでないときと差をつければいいんですね。
加藤
確かにそうですね。そう考えることで日常の料理も楽しくなります。何より、瀧先生も共感されていましたが「料理が幸せを人を幸せにする」お話は、素敵だと思いました。
また、子どもと一緒に料理をする上で、視覚的な美しさを考えて盛り付けをし、さらに食器やテーブルウェアまで考えることへの興味が私自身にも広がりました。
料理は作る経験をすることができますが、創作して演出するという観点でもたくさんの学びがあると思います。料理から得られるクリエイティブなスキルはどんなことが考えられますか?