こちらの記事も読まれています
ルッキズムをはねのけ活躍するバービーの育った環境とは?【前編】
体型や容姿などで人をジャッジし、人の価値に優劣をつける「ルッキズム(外見至上主義)」という言葉をよく聞くようになりましたが、ルッキズムに対し、ボディポジティブ(そのままの自分の体を愛そう)というメッセージを発信するお笑い芸人のバービーさん。今の彼女を形作った幼少期のこと、芸人としての容姿いじりに対する考え方、そして自分の体との向き合い方と下着プロデュースにいたった経緯などについておうかがいしました。
「小学生時代は、男の子に混じってタンクトップ一丁でサッカーをして、スカートもまったくはかなかったけど、それについて誰からも何も言われませんでした」
「大学に進学してからは容姿が人の価値に直結するという現場を初めて目の当たりにして、“いかに個性を消すか”という作業をしましたね」
こう語るのは、現在お笑い芸人としてだけではなく、文筆業、下着プロデュース、地域創生などさまざまな分野で活躍するバービーさん。
「ボディポジティブ」のメッセージをさまざまな形で発信する今の彼女を形作った幼少期のこと、芸人としての容姿いじりに対する考え方、そして自分の体との向き合い方などから、子育てにおけるボディポジティブの伝え方のヒントを紐解いていきます。
北海道の大自然の中、タンクトップ一丁で自分のことを男だと思っていた子ども時代
ーーバービーさんのご自身の体にすごくポジティブに向き合ってハッピーに生きている姿は、多くの女性から共感を呼び、支持を集めています。子ども時代はどんなお子さんだったのでしょうか。容姿について悩んだり、周囲からなにか言われてコンプレックスを感じることはありましたか?
子ども時代は、北海道のすごく田舎の地域で、周囲がみんな親戚みたいな場所で育ちました。時代も地域も今の東京とはまったく違ったので、容姿について揶揄するような目線を感じることはほとんどなかったです。
私個人の性質として、周りの目線や声がそもそも入ってこないタイプだったので、誰かと自分を比べることはなかったですね。
実は私、小学4~5年生くらいまで、自分のことを男だと思ってたんですよ(笑)。だから普通にタンクトップ一丁で乳首もちょろっと出るような恰好で男子とサッカーをしたり、スカートもまったく履かなかったけど、それについても誰からも何も言われませんでした。
外では男の子のように元気に遊びつつ、家ではお母さんのお化粧道具でデヴィッド・ボウイのようなグラムロックテイストのメイクをしたり、姉たちの影響ですごく細眉にしたりして美容も楽しむ小学生時代でした(笑)。
中学くらいからは肌に吹き出物ができてきたので、自分の容姿について少し考え始めたかもしれませんが、そのことで他人からひどく傷つけられたという経験はなくて。
はじめてダイエットをしたのは男子にからかわれたのがきっかけでしたが、「太っている」「背が低い」など身体的特徴を口にする人がいたとしても、事実を口にしているだけで、それが誰かを蔑んでいる言葉だと感じませんでした。
「女性」としてランクづけされることを目の当たりにした大学時代
ーー思春期が終わり、そこから大学進学のために上京されるわけですが、価値観の違いなどでびっくりしたことはありましたか。
びっくりしましたね。大学に入ってからは、「ブスはすっこんでろ」というノリや空気があったり、ファッションが変わっていたら悪目立ちしたり、容姿が人の価値に直結するという場面を初めて目の当たりにした気がします。だから大学時代は、「いかに個性を消すか」ということに力を注いでいたように思います。
他にも、お酒を提供するお店で女性が男性に接客をするアルバイトをしようとしたこともあったのですが、友だちは受かって私は落ちるということもありました。
そのときに、女性性はお金にすることができて、自分の女性性としての価値がランクづけされるということ、そして女性性という意味では自分はわりと下のほうに位置づけられるということを知り、リアルにショックを受けたんです。
「きれい」や「かわいい」という土俵で競わなくてもよかったお笑いの世界
ーー大学生になって容姿が価値基準になるという価値観があることにはっとさせられて、そこからさらにお笑いの世界に飛び込んだバービーさんですが、容姿や外見についてどんな経験をされてきましたか?
それが意外にも、お笑いの世界に入って「自分の個性を消していかなくていいんだ!」と感じられたんです。
これまで、若い女性というだけで「“きれい”や“かわいい”で競わなくてはいけない世界の土俵に勝手に乗せられている」という焦燥感があったので「きれいやかわいいで競わなくてもいい世界にきた」というのは、私にとってはすごく開放感でラクだと思ったんですよね。もうきれいになる努力もしなくていい、ダイエットも頑張らなくていいんだなと。
「容姿いじり」に関しては、お笑いの文脈の中で言われることも多かったですが、その一方で「女性だからこれ以上言っちゃダメ」ではなく、「芸人として男性と同じようにいろいろといじられること」が快感でもありました。
この部分については、私自身いまだに言語化が難しいんですが、女性性を切り売りするアルバイトを経験しながらも、男性から「女性」として見られることへの嫌悪感もあったんですよ。
お笑いのネタとして私はよくお尻を出していたんですけど、「このお尻はエロスのためではなく、笑いのために出しているもの」という意識は強くありました。
理解されないかもしれないけれど、そういう意味では、私にとってお笑いの世界は「女性性を盾に制限されず自由でいられる」と思える場所だったんです。
ーー「芸人」というフィルターが、バービーさんが「女性」として見られることの嫌悪感から守ってくれた、という感じでしょうか。
もちろん、20代後半くらいでちょうど仕事も忙しくなりつつ、コンプライアンス的にもまだまだいじりのきつい時代はしんどいなと思う時期もありました。
ただ、私がきついと感じたいじりというのは、テレビやステージなどのオープンな場でのものではなく、裏でお笑いのルールをわきまえていない人にやられる、アンオフィシャルな場での、いじりという名の度を越えたセクハラのことです。
当時はバービーという仮面を外して、別人格の大人の女性として楽しめる場を持つようにして発散していましたね。
自分の体や容姿にコンプレックスを持ち、傷ついている人たちに手を差し伸べたい
ーーお笑いの世界を生き抜き、今では下着のプロデュースなど女性をエンパワーメントする立場になられているわけですが、発信をしていくモチベーションは何でしょうか。
私自身、昔から自分に合う下着がないという悩みをずっと抱え、いつか自分にピッタリのブラジャーを作れたらいいなと考えていました。とくにサイズの合わない下着によるワイヤの締め付けに悩んでいて、締め付けによって出来たあざをSNSに公開したんです。すると共感する声が殺到し、「みんな言いたかったけど言わなかっただけなんだ」と気が付きました。
「下着を作るからお悩みを聞かせてください」とInstagramで発表したときも、過去最高数のコメントが届き、自分の体にコンプレックスがあったり、体に対する他人の言葉に傷つけられてきたというコメントがたくさん寄せられて、「他人の価値観に振り回されたり傷つけられたりする人がこんなにも多いんだ」ということに驚きましたね。
ました。
たとえば、胸が大きい人は隠したい、または合うサイズがないという声がすごく多かったし、何もしたくなくてスポーツブラにしているという人もいました。
胸やお尻ってどうしても女性性の象徴として結びつきやすいから、そこに「大きい」「小さい」「形が悪い」といった、勝手にカテゴライズされた良し悪しの価値観が加わって、自分の体の一部なのに恥じて心が硬くなって、結果下着に対してもネガティブになっている人たちがたくさんいるんだなあと。
ーー思春期は誰もが自分の体の変化に戸惑いますが、それが共有されてこなかったからこそ、「自分だけがおかしいの?」と思ってしまいがちですよね。さらに、本当はそんなものはないのに、胸の大きさや形には美しいとされる正解があるように刷り込まれてきているから、そこから外れると余計に自分の容姿を受け入れられなくなる。自分が「欠陥品」のような気持ちを持ったまま大人になってしまったから、わが子に自信をもってボディポジティブを教えられないというジレンマがあるように思いました。
私も胸が膨らみ始めたときは嬉しい反面、「女になるんだ」とか「女として見られるんだ」みたいな気持ち悪さがどこかにあったので、その気持ちも分かります。
でも今は、自分の身体を責めるようなことはやめてほしいし、自分に合う下着をつけることで傷ついている人たちに少しでも前向きになってほしい、手を差し伸べたいなという気持ちが強いですね。
ーーバービーさんの発言に勇気をもらった誰かが、自分のお子さんに伝えていくことで、次の世代はもっと自分の体に対して前向きに受け入れられる女性が増えていきそうですね。
私の価値観とあなたの価値観は違う、それでいい
ーーエッセイなどでもたびたびボディポジティブについて発信されていますが、自分の体や容姿を受け入れたり、他人から攻撃的なことを言われても「私は私」と思えるようになったきっかけはありますか。
そもそも私には「体がこうだから(こうでなければ)価値がない」という価値観はないんです。
だからこそ、そのことで私を傷つけようとしてくる人の執拗に攻撃してくる態度には腹が立つけど、言葉の内容自体には「それはあなたの価値観ですね」でシャットダウンできてきました。
「容姿のことで誰かが傷つけられるべきではない」と思う一方で、「人は異なる価値観を持って生きている」ということに変わりはないと思うんですよね。
これは大学時代、インド哲学や心理学を学んできて、「人はそれぞれの宇宙の中で生きているから、それを私が壊す必要はないし、壊される必要もない」という考えが根底にあるからかもしれません。
――自身もコンプレックスを抱えながらも哲学を拠り所にして、己の道を切り開いていったバービーさん。後編では、容姿に対する価値観が変化していく時代の真っ只中で、保護者が感じる子育てへの不安に対してのバービーさんからのアドバイス、理想の子育て観を語っていただきました。
バービー(フォーリンラブ)
1984年北海道生まれ。2007年、お笑いコンビ「フォーリンラブ」を結成。
男女の恋愛模様をネタにした「イエス、フォーリンラブ!」の決め台詞で人気を得る。現在ではTBSラジオ「週末ノオト」パーソナリティを勤め、TBSひるおびコメンテーターや地元北海道の町おこし等にも尽力。著書には「本音の置き場所」講談社より発行。バービーのプロデュースで話題を生んだピーチ・ジョンコラボ下着が好評につき第3弾を発売。YouTube「バービーちゃんねる」では320万視聴回数を超える動画もあり好評配信中。
You Tube「バービーちゃんねる」https://m.youtube.com/c/barbie0126
<取材・執筆>KIDSNA編集部