【外育】自然の恐ろしさから子どもを守る「防災術」を知っていますか?
家庭学習の時間が増えている今、アウトドアでの自然体験を通して子どもが遊びながら学べる「外育」が注目されている。なんとなく外へ連れ出し、遊んでいる姿を見守るだけではなく、その効果を知り、よりよい学びにするためにはどうしたらいいのか?さまざまな専門家にその極意を聞いていく。第3回は、気象予報士・防災士の正木明さんに、アウトドア中の命の守り方を聞いていく。
自然の中での遊びを通した学び、「外育」。
これからの季節は外育に最適なシーズンだろう。大型連休に向けてアウトドアの予定を立てている家族もいるかもしれない。
しかし、外育の舞台は毎日、毎時間、毎秒、絶えず変化し続ける「自然」だ。外育を楽しむためには、自然の変化を敏感に察知し、危険を判断する力が必要であることを忘れてはいけない。
たとえば、アウトドア中に雨が降ってきたとする。その雨は、「まだ遊んでいてもよい雨」なのか「すぐに避難すべき命に関わる雨」なのか。その場にいる大人の判断力が求められる。
気象予報士で防災士の資格を持つ正木明さんに、保護者が子どもを守るための知識と、子どもが自分の身を守るためにとるべき行動を聞いていく。
僕は気象予報士で、日々気象の変化に接していますが、近年異常気象が原因と考えられる自然災害が頻発しています。
これには地球温暖化との関係が指摘されており、地球の平均気温が上昇することで、大雨、台風、洪水、熱波や寒波など、極端な気象変動が起こりやすくなっているのです。
2015年の国連サミットで採択されたSDGs13番目の目標で「気候変動に具体的な対策を」と示されている通り、世界中が努力目標を立てて対策を講じています。しかし、残念ながら地球温暖化の傾向はしばらく進行し続けるでしょう。
これが何を意味するかというと、自然は厳しい環境になりつつあるということ。この傾向の中にいることを念頭に置き、アウトドアを楽しむ術を身に付けなければなりません。
長年アウトドアを楽しまれていて、自然に詳しい方でも、気象の変化においては、これまでの経験が通用しなくなっています。
日本の国土は、位置や地形、地質、気象などの自然的条件から災害が起きやすいとされていて、災害への備えとして防災の知識を身に付けることは、アウトドアをする際にも役立ちます。
防災上、最も重要な考え方は「自助」。自分の身を自分で守ることです。
その後に、近隣や周囲の人と助け合う「共助」という考え方が続きますが、大前提として自分の身の安全を確保することができなければ、周りの人を助けることはできません。
だからこそ、大人も子どもも防災の知識を身に付けておいたほうがいい。
保護者がケガを負ってしまっては、我が子を助けられないかもしれません。
子どもは子どもで、自分の身を自分で守る必要があります。保護者が動けない状況になったら、助けを呼び行かなければなりませんから。
だから、普段の生活から子どもの手を取り足を取り、何でも保護者がしてしまうのではなく、自分のことはなるべく自分でできるようにしておいたほうがいいと思います。
長時間、屋外で過ごすアウトドア中、さっきまではよい天気だったのに、天気が急変して大雨に見舞われた……こんなことがあるかもしれません。
この急な空の変化の原因は「積乱雲」。
発達した積乱雲は、大雨や落雷、竜巻などの現象を引き起こします。大雨によって、川が氾濫したり土砂崩れも想定されるため、気象情報に目を光らせましょう。
また近年では、超巨大積乱雲「スーパーセル」も話題です。
大きさは直径10キロから40キロの巨大な積乱雲の塊で、雲の中の複雑な風の流れによって、寿命が長く数時間にわたり、同じ場所で「ゲリラ豪雨」「雹(ひょう)」「強い竜巻」をもたらす非常に怖いものです。
落雷
発生件数が多いにも関わらず、実はあまりニュースになっていない「落雷」。どこに雷が落ちるかという知識を持っておかないと外で遊ぶことは非常に危険なので、アウトドアの前に、落雷条件や、避雷方法を知っておきましょう。
気象庁の「落雷害の月別件数」によると、2017年までの12年間で1540件、そのうち約65%が太平洋側で発生しています。30%が8月に発生しており、夏場が最も発生しやすい季節ですが、日本海側では冬場の方が多いです。
雷は、突き出た棒や電信柱、街路樹など、高いところに落ちます。
もし雷がゴロゴロ鳴ったり、気象庁から雷注意報が出た場合、注意が必要です。もしくはそういった情報が屋外で得られなければ、たとえば暑い夏に急に空が曇り、真っ黒い雲がでて少しひんやりとした風が吹いてくるといった現象もサインです。
そういう状況に遭遇した場合、まず一番安全なのは建物の中です。キャンプ場ではテントでは強度が足りず守り切れないので、できれば管理棟などに早く逃げ込みましょう。
もし周囲に何もなければ、高い木の下、あるいは鉄塔の下がよいでしょう。ただしあんまり近づきすぎたり、細い高いところの近くにいると、その木に落ちた衝撃を受けてしまう、いわゆる「側撃」の恐れがあります。
側撃を受ける可能性があるとされている範囲は4メートル。45度の範囲内となると「高さ4メートル以上の木」ということになります。大体、大人の身長の2倍から3倍の木が目安です。
万が一、乗っていた車に落ちたとしても、電流は車の外側を通って地面に逃げます。
大体は強い雨を伴いますが、雨が止んでも、雷が止んだとは思わないようにしてください。雨が止んでもしばらくは雷がゴロゴロなってる場合ありますし、落雷する可能性もありますからスマートフォンでリアルタイムの雷情報を確認し、確かな安全を確認してからアウトドアを再開しましょう。
川の氾濫、土砂崩れ
入道雲などの積乱雲は多くの雨を伴い、大雨がもたらす自然災害として、川の氾濫や土砂災害が挙げられます。
川沿いでアウトドアを楽しむ場合は、川の上流の天気を予測しましょう。今いる場所で降っていなくても、川上で雨が降っていれば当然増水します。
川の上流に黒い雲や稲光が見えてきたら要注意です。また、アプリで上流の雨雲レーダーの様子を常に確認しておくことも大事です。
川遊びを始める前に、危険があることを認識しておくこと、そして高い場所への避難経路を確保しておくことが大切です。そして、いざというときに逃げ場のない中州(川の中間で土砂が堆積して生まれた陸地)は、あらかじめ避けましょう。
また、傾斜の急な山の多い日本は土砂災害が起こりやすいです。土砂災害には種類に応じて、いくつかの兆しがあります。
まずは崖崩れ。崖にひび割れができ、その崖から水が湧き出たり濁り始めます。
次に、地面の一部か全部が斜面下方に移動する、地すべり。地面がひび割れたり陥没し、斜面から水が噴き出します。井戸や沢の水が濁ることもある。
土石流では、時速20~40kmという速さで、山の中腹や川底の石が一気に流されます。急に川の水が濁り、流木が混ざり始める、土の臭いが強くなる、雨が降っているのに川の水位が下がるといった兆候が見られるとされています。
アウトドア中に大雨が降ってきたら、その時点で撤収したほうがよいですが、なかなか撤収が難しい場合もあるかもしれません。即行動をとれるようにしておいてください。
竜巻
積乱雲の強い上昇気流が激しい渦を巻き、竜巻となることがあります。竜巻が起こりやすいのは平地。周りに高い山や建物のない牧場や平原で起こるとされています。
陸地だけでなく、海も平坦ですよね。時として、海で起こった竜巻が海水浴場まで到達することもあります。
時期としては、これから春先にかけてと、夏場のアウトドアシーズンが発生しやすい時期ですが、冷たい空気と暖かい空気がぶつかり合う時期も、条件が重なれば積乱雲は発達しやすくなります。
竜巻は一度起こってしまったら回避するのは難しいので、気象庁が発生場所や時間などの「竜巻注意情報」を出すようになっています。この情報が出たらほぼ間違いなく竜巻が発生していると考えてください。
風速は新幹線並みか、それ以上になることもあるため、竜巻の場合は自動車の中でも危険です。
すぐにアウトドアを中断して安全な屋内に退避してください。竜巻によってガラスが割れると危ないので、必ず窓とカーテンを閉めます。なるべく屋内の奥で身を小さくして頭を守りましょう。窓のない地下やトイレ、浴室なども安全です。
竜巻が近づいていて屋内に退避できない場合でも、テントは強度が足りず危ないのと、周囲の状況が分かりにくいため出るようにしてください。風を避けられる窪地や洞穴を探して、竜巻が通り過ぎるまでやり過ごすことが屋外にいる場合の最善策です。
竜巻と混同されやすいのが「つむじ風」。専門用語では「旋風」といい、竜巻とは構造が異なり局地的に起こります。旋風は人を吹き飛ばすほどの威力はありませんが、ベビーカーごと乳幼児が飛ばされる可能性は十分にあります。
また、テントや空気で膨らませて遊ぶ遊具などが飛ばされることが考えられます。旋風は規模が小さいので、進む方向もある程度目視でわかります。旋風の進む方向が確認できれば、慌てずにやり過ごすか、違う方向に逃げれば問題ないと思います。
噴火
アウトドアで登山をする人口も増加していると聞いています。科学技術的に予測することが難しいため、注意しようがないのですが、アウトドア中に遭遇する危険があるのが「噴火」です。
2014年9月、長野県と岐阜県の境に位置する御嶽山が噴火し、火口付近にいた約60名の方が命を落としました。
危機的状況ではありますが、もしも登山中に山頂がモクモクと煙を上げ始めたら、まず噴石を避けなければならないため、なるべく大きな岩陰に隠れます。
そして火山灰に当たったら火傷をするので、なるべく風を受けないところに避難しましょう。
気象庁によると活火山の数は111。噴火に遭遇する確率は低いかもしれませんが、自然はさまざまな表情を持っているということを、覚えておいたほうがいいと思います。
また、自然災害ではありませんが、アウトドア中に子どもがいなくなってしまった場合にも防災の知識は役立てられます。
アウトドアを始める前に、子どもと「はぐれたらその場から動かないこと」を約束しておいてください。子どもは「帰りたい」と思って行動したくなるようなものですが、その場から動かなければお父さんお母さんが来てくれると、そういう確信を持たせるように伝えてください。
そうすれば、日が暮れても戻ってこない、となった場合でも捜索の範囲を広げなくて済み、発見しやすいです。
あとは居場所を知らせるために、子ども用のスマートフォンを持っていれば携帯すること。持っていなければ、笛など音がなるものを身に付けさせておけば、より早期に発見される可能性が高まります。
幼い子どもたちに「危ないから覚えておいて!」といっても実感が湧きませんよね。だからこそ、普段から「遊び感覚」で危険がないか見て回り、防災知識を身に付けるのがおすすめです。
たとえば、家の近所の公園に行くだけでも、川がどこに流れていて、向こう岸に渡るためにはどの橋を使ったらよいのか。山があれば、その地盤はどうなっているのか。崖があれば、子どもたちにとって恰好の遊び場となりそうですが、その崖は本当に遊んでもよい場所なのか。
遊び始める前に、こうした地図を片手に、子どもといっしょに探検さながら、土地の状況をチェックしてみましょう。
その土地の自治体がハザードマップを出していますし、関係各機関が作成した防災情報をまとめて閲覧できるハザードマップポータルサイトを国土交通省が出しています。
まずは自分の街、自分の周囲の環境に対する知識を深めることで、キャンプや海、山などでのアウトドアを始める前にも、周囲の状況や土地の特徴を掴むことができ、自然災害が起こってしまったときの対応も取りやすくなると思います。
東日本大震災の例ですが、津波に弱い土地に建っていた幼稚園がありました。そこでは幼稚園の運動場から高台までのかけっこを日課にしていて、震災発生時も被害が少なかったそうです。この幼稚園では、遊びのなかに訓練を取り入れていたのですね。
災害がどれほどの被害をもたらすのか、知識のない子どもたちはなかなかイメージしずらく、核心を突いた防災意識を持つことは難しいかもしれません。そうだとしても、子どもに伝え続けることが重要です。
自然の中で、ときに人間は無力です。平等な自然の中で、どのような判断をして、のような行動を取るかということが問われます。
雨をはじめ、変化は常に起こっています。まだ遊び続けるか、それとも切り上げるかの判断はどうしますか?その行動ひとつが結果として、生死を分けることになるかもしれません。
自然の中で起こる不測の事態のために防災知識を備えていることは、自分や子どもの命を守ることになります。
防災の基本は、まず自分の身を守ることです。いざというときに大切な家族を守るための行動をとれるよう、防災知識を備えておきましょう。
<取材・執筆>KIDSNA編集部
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