【食品添加物の真実#02】科学的に安全な理由と「無添加」表示の罠

【食品添加物の真実#02】科学的に安全な理由と「無添加」表示の罠

2020.12.10

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「体に悪い」というイメージで、なんとなく避けてしまう食品添加物。子どもに少しでも良いものをと、無添加やオーガニックの表示を意識することも大切だけれど、その判断は果たして正解なのか?私たちの知らない食品添加物の真実を、東京大学名誉教授であり、公益財団法人食の安全・安心財団の理事長を務める唐木英明さんに話を聞いた。

第1回では、なぜ私たちが食品添加物を避けるようになったのか、食品添加物がどのようにして生まれ、社会環境の変化とともに安全になっていったか、そして、人間に備わった本能や性質によって「なんとなく」怖がる原因がわかった。

今回は、なぜ科学的に食品添加物が安全と言えるのか、「無添加」と表示されている食品の実態も含め聞いていく。

【食品添加物の真実#01】食品添加物は「危険」という固定概念

【食品添加物の真実#01】食品添加物は「危険」という固定概念

生涯にわたり毎日食べても安全な量しか入っていない

――すべての添加物は厳しい試験を行って、一生の間食べ続けても何の問題も起こらない微量しか使っていないとのことですが、科学的にどう安全なのですか?

私たちが毎日のように口にしている食塩を例に挙げます。

iStock.com/arto_canon
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食塩は「NaCl」(塩化ナトリウム)という化学物質で、実は長期間多量に摂ると病気につながります。

塩化ナトリウムは、がんや心筋梗塞、脳出血、腎臓病を引き起こすため、厚生労働省は1日に男性7.5g、女性6.5g以上食べないほうがいいと言っています。また、体重50kgの人が200gを一度に摂取すると死んでしまうのです。

そう聞くと、食塩は毒だと思うでしょう。でも、それは量と作用の関係を無視しています。

味付けや保存のためにほぼすべての食品に含まれている食塩を世界のどの国も禁止していないのは、体重50kgの人が200gの塩を一度に食べることなんてあり得ないからです。厚生労働省の摂取基準を守れば、一生の間毎日食べ続けても何の問題も起こらないのです。

このようにすべての化学物質には、多量なら危険、少量なら無害という性質があるのです。酒も砂糖も同じですね。毎日適量を食べていれば体に何の害もないほど、微量にしか入っていないということです。

世の中に流されている情報は、実験動物に超多量の食品添加物を食べさせたときに起こるような症状や病気が、超微量の食品添加物でも起こるように誤解させて、私たちを怖がらせているのです。

唐木英明(からき・ひであき)1964年東京大学農学部獣医学科卒業。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長、内閣府食品安全委員会専門委員などを務めた。2008~11年日本学術会議副会長。11~13年倉敷芸術科学大学学長。著書に『不安の構造―リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム)『牛肉安全宣言―BSE問題は終わった』(PHP研究所)などがある。
唐木英明(からき・ひであき)1964年東京大学農学部獣医学科卒業。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長、内閣府食品安全委員会専門委員などを務めた。2008~11年日本学術会議副会長。11~13年倉敷芸術科学大学学長。著書に『不安の構造―リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム)『牛肉安全宣言―BSE問題は終わった』(PHP研究所)などがある。

――今売られている食品に用いられる化学物質は、一生の間毎日食べ続けたとしても人体に影響が出ないよう計算されているということですね。

急速な産業や科学技術の発展に社会的環境の整備が十分に対応できず、さまざまな公害が起きたことから、1970年前後から食品添加物の規制は非常に厳しくなりました。

種類の制限は、発がん性があるものと身体に蓄積するものはすべて禁止され、それ以外の安全性が確認されたものしか使えないようになりました。

量の制限は、「生涯にわたり毎日食べ続けても何の影響もない量」を守ることと決まりました。これを一日摂取許容量(ADI値)と呼びます。

すべての化学物質は多量であれば毒性がありますが、量を減らしていくと毒性のない量が見つかります。動物実験により見つけたこの量を「無毒性量」と呼びます。

動物を人間に置き換え、さらに人間の個体差も考慮した上で、無毒性量の1/100の量を一日摂取許容量(ADI値)として定めます。

食品に食品添加物を入れるとき、さまざまな食品を同時に食べてもADI値を超えないように、食品ごとの使用基準を決定しています。ですから、実際に各食品に入っている食品添加物の量は、ADI値をはるかに下回る微量なのです。

細胞の受容体に化学物質が結合するために必要な量を「いき値」といい、いき値に満たない食品添加物や農薬は受容体と結合することはなく、体外に排出される。薬は無毒性量より多い、体に確実に影響が出る多量を飲むので、副作用が出ることがある。
細胞の受容体に化学物質が結合するために必要な量を「いき値」といい、いき値に満たない食品添加物や農薬は受容体と結合することはなく、体外に排出される。薬は無毒性量より多い、体に確実に影響が出る多量を飲むので、副作用が出ることがある。

――ADI値は乳幼児向けの食品にも適用されているのですか。

もちろん、離乳食用のレトルト食品やお菓子などにも適用されています。

ADIは体重1kg当たりの摂取量で決められています。たとえばADIが1㎎/kgであれば、体重50kgの大人は1日に50㎎ですが、体重10kgの小児は1日に10㎎と、摂取できる量は少なくなります。そこで基準は乳幼児が食べてもADIを超えないように計算して決められているのです。

離乳食時期が終われば大人と同じ食事を食べ始める幼児もいますが、その場合でも、ADIを超えないように考えられています。

具体的な例として、代表的な保存料のひとつ、ソルビン酸の摂取量をみていきましょう。

ソルビン酸のADIは1日に体重1kg当たり0.25㎎です。平均体重が16.5kgの1~6歳の小児であれば、一生の間毎日食べ続けても安全な量は、1日に1人当たり413㎎になります。

厚生労働省が行ったマーケットバスケット方式による調査では、私たちが毎日の食事から実際に摂取しているソルビン酸の量は、1日に1人当たり3.24㎎です。この量は、1~6歳の小児の安全な量の1/100以下の0.78%でしかありません。

その他の年齢についても、ソルビン酸以外の多くの食品添加物についても、同様の調査結果があります。

iStock.com/ArtEvent ET
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また、食品事業者は食品の見た目や香りをよくするために食品添加物を入れ放題入れているという誤解がありますが、実際には、量の違反が発覚すれば商品は回収廃棄となり大きな損害が出ます。そもそも食品添加物は高価なものが多く、たくさん入れれば損をしてしまう。

ですので、食品事業者は規則を厳しく守っています。規制が厳しくなったことと食品事業者の意識の高まりによって、食品添加物の安全性は飛躍的に高まりました。昔は安全性に問題のある食品添加物の混入が多少ありましたが、現在は完全にゼロと言えます。

こうした科学的根拠に基づいて、子どもたちの食の安全も守られているのです。

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科学的に安全な食品添加物のメリットを知る

――食品添加物は、現代の私たちにメリットがあるという視点が必要かもしれないですね。

食品添加物は味や色やにおいを良くすること、そして食品の製造と保存のために使われ始め、テクノロジーの進化とともに保存や流通が便利になった今では、ますます必要とされています。

その理由は、私たちの現代の便利で豊かな食生活を続けるためには、食品添加物が必要不可欠だからです。

iStock.com/miodrag ignjatovic
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その必要性を考えるために、食品添加物がないとどんな生活になるか想像してください。

お弁当、おにぎり、パン、菓子、即席食品、レトルト食品、アイスクリーム、清涼飲料……ほとんどすべてが食品添加物を使っています。

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食品添加物がなければこれらの商品はスーパーやコンビニから消えます。みんなが嫌う保存料も、使用をやめれば食中毒が一気に増加するでしょう。私たちは野菜や肉、魚などの生鮮食品を買ってきて、自分で調理する生活に戻らなくてはなりません。

さらに、「無添加食品」の中には、添加物を置き換えることによってそのように謳っている商品もあります。食品の表示の見方にも、気を付けていただきたいと思います。

無添加食品は添加物の「置き換え」が多い

――とはいえ、「無添加」と表示のある商品は良いものだと思ってつい手に取ってしまいます。

無添加表示には行政で定められたルールがないことをご存知でしょうか。

「無添加」や「保存料不使用」と書かれているだけで「体にいい食品」と誤解している方も多いと思います。

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食品添加物は、長期保存を可能にさせ、味や色、においをよくするために使われています。その中でも保存料は特に大切です。短期保存であれば不要ですが、保存料を使わないで長期保存すれば必ずカビが生え、細菌が繁殖して食中毒や食品廃棄の原因になります。

保存料を添加しないとなれば、パッケージを開けたらすぐに使わなければいけない。消費者にとって、どちらが得なのでしょうか。本来ならば無害の保存料が入っていて、パッケージを開けても長期間使い続けられたほうが、経済的には絶対によいですよね。

安心安全と謳われている無添加食品ですが、実はスーパーやコンビニなどの全商品数の中の割合で見ると、実は少ないのです。

なぜなら、完全に無添加の食品をつくるのはとても難しく、大変だから。そのため、「なんちゃって無添加食品」もあるのが実態です。

iStock.com/zoranm
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先ほど例に出した代表的な保存料のひとつ、ソルビン酸は食品添加物の中でも一番の嫌われ者です。食品スーパーに並ぶ無添加食品の多くはそれを添加していません。

でも、「保存料不使用」と表示しながら、それ以外の食品添加物で代替している商品が多いのです。

たとえばソルビン酸の代わりの保存料として置き換えられているのが、pH調整剤です。でもこのような表示を見ても、それが保存料の置き換えであるとはすぐにはわからないですよね。

商品に使われている原材料の種類や食品添加物などは量の多い順に表示することが義務づけられている。このとき、原材料と食品添加物は/や改行、線引きなどで表示される。
商品に使われている原材料の種類や食品添加物などは量の多い順に表示することが義務づけられている。このとき、原材料と食品添加物は/や改行、線引きなどで表示される。

――確かに無添加と書かれた食品でも、パッケージ裏の原材料表示を見ると、知らない材料が書かれていることはあります。

これも、食品の安全を守るために各企業が工夫と苦労を重ねた結果です。

本当は食品業者も、消費者が嫌う食品添加物はpH調整剤でさえ添加したくないはずです。でも、保存料を使用しないで保存期間を伸ばすことは難しい。賞味期間中だけでも安全に食べられる状態を保つために、仕方なくpH調整剤を入れている企業は少なくありません。

そしてもうひとつ、保存料と並び消費者に嫌われているのが人工甘味料です。ちなみに「人工」や「合成」という言葉がついているからいやだという消費者も多く、消費者庁は、食品表示の基準から「人工」と「合成」という言葉を削除しました。

甘味料は砂糖に置き換えられることが多く、そうすると糖分の過剰摂取が懸念されます。糖尿病を患う人などは、甘味料によって糖分摂取を抑えている場合も多い。

保存料を使わなければ食中毒のリスクが高まり、甘味料を砂糖に置き換えれば健康面で困る人がいる。『食品添加物は危険』『無添加は安全』のいき過ぎた価値観は、実害に及んでしまうこともあるのです。

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お母さんたちの中には「〇〇無添加」と書いてあると「少しでも少ない方がいい」と思い、それを選ぶ人もいるでしょう。でもその判断は間違いかもしれません。大事なことは無添加を信じきるのではなく、その実態を知ったうえで判断することです。

食品添加物を排除すれば、一種の安心を手に入れることはできるかもしれません。ですが、原始時代のような生活を送ることになります。

そして食品添加物を排除したいと考える人々が安全だと信じている野菜やフルーツといった自然のものこそ、人体に有毒な物質が入っていることは意外と知られていません。

――次回、最終回では、野菜やフルーツ、子どもが好むお菓子などに含まれるトランス脂肪酸やソーセージは実際どうなのか?私たちの身近にある食べ物と、それらを選ぶ時の考え方について聞いていく。

【食品添加物の真実#01】食品添加物は「危険」という固定概念

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<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

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