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【食品添加物の真実#01】食品添加物は「危険」という固定概念
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「体に悪い」というイメージで、なんとなく避けてしまう食品添加物。子どもに少しでも良いものをと、無添加やオーガニックの表示を意識することも大切だけれど、その判断は果たして正解なのか?私たちの知らない食品添加物の真実を、東京大学名誉教授であり、公益財団法人食の安全・安心財団の理事長を務める唐木英明さんに話を聞いた。
お菓子やパン、スーパーに売っているお惣菜、コンビニのお弁当、ファーストフード……手軽で便利、おいしい食品の数々だが、おなかの赤ちゃんや子どもの成長に影響がないか、不安になる親も多いだろう。
「さまざまな機関が消費者アンケートを行うと、『食品添加物は不安』という答えが半数以上。しかしスーパーやコンビニに並ぶ食品がすべて無添加になるかというと、数は意外と少ない。食品添加物を廃止する運動も起こりませんよね。
つまり、あったら無添加を選ぶという程度で、『みんなが怖いと言っているから避けた方がいいのかな』と、なんとなく避けている人がほとんどだと思うのです」と話すのは、東京大学名誉教授の唐木英明さん(以下、唐木さん)。
なぜ私たちは食品添加物=悪ととらえてしまうのか。第1回から全3回に渡り、食品添加物の真実を紐解いていく。
食品添加物のルーツ。「夢の物質」から「嫌われる物質」へ
どうして食品添加物が世界中で嫌われ者になったのか。まず第一に、社会環境が非常に大きく変化したことが挙げられます。
そもそも食品添加物は、食品を加工し、味をおいしくし、色やにおいをよくし、保存するために使われるもの。その始まりは、狩猟採集時代まで遡ります。
当時の人々は、お腹が空くたびに目の前にある食料を採って食べていました。でも毎日食料が手に入るとは限らないから、できれば保存しておきたい。
そこで注目されたのが、塩の添加です。もともとは味を良くするために使われていた塩に食料を漬けておけば、肉も魚も数日持たせることができる。これが食品添加物の始まりです。
そこから食品加工の知恵は多方面へ広がりますが、漬け物に使用したシロップから鉛が溶け出し鉛中毒を起こしたり、天然色素として広く使用されていたアカネ色素に発がん性の可能性がわかったりと、重大な問題も次々と発覚します。
科学が発達する以前は、長期間使用した後に出てくる毒性については気が付かずに使用していた側面があったのです。
第二次世界大戦が終わると科学技術が進歩し、食品添加物として使用される化学物質も次々に作り出されるようになります。当時の人々は化学物質を「生活を豊かで便利にしてくれるもの」として好意的に受け入れていました。
しかしその後、短期毒性だけでなく長期間食べ続けた後に発現する慢性毒性の研究も進み、いくつかの食品添加物に発がん性があることがわかって使用禁止となりました。
ちょうどその頃、社会では水俣病、四日市ぜんそく、光化学スモッグなど多くの化学物質による公害が起こり、人々は次第に化学物質に不安を感じるようになります。
1970年前後から、使える種類と量の両方を制限するなど添加物の規制が非常に厳しくなり、安全性が高まりました。
しかし化学物質は目に見えず、科学者や行政がどんなに厳密に安全性を管理しても消費者自身がそれを確認することはできません。公害の発生により不安はますます増大し、どんなに検査を繰り返し安全性が認められたと情報を発信しても、自分で確認できない限り不安は消えない。
食品添加物が嫌われ者となった最も大きな原因は、社会や生活環境が変わり、化学物質に対する不安が非常に大きくなったことが大きいのです。
こうした社会背景から、環境保護運動が始まり、世界的に大きな環境保護団体の活動が始まります。彼らはわかりやすい敵を作りみんなの注目を集めます。その敵となったうちのひとつが、食品添加物として使われる化学物質です。農薬や遺伝子組み換えに反対したり、オーガニック食品を推進する人々が次々出てきました。
こうして食品添加物は”夢の物質”から”嫌われる物質”へと変わっていったのです。
教育される「食品添加物は危険」という固定概念
さらにもうひとつ問題があります。文科省が定めている学校給食衛生管理基準です。
この中には「有害若しくは不必要な着色料、保存料、漂白剤、発色剤、その他の食品添加物が添加された食品は使用しないこと」と書かれていますが、今実際に販売されている食品に有害な食品添加物が入っているかというとゼロなんです。
この管理基準は戦後の混乱期に学校給食の安全を守るために作られたもので、それ以来改定されていないのです。つまり、今の食品の実情にそぐわない基準ということです。
この文章を見て、学校の先生方も学校給食の栄養士さんも「食品添加物は危険なもの」という認識を持ちます。
実際、教諭向けの参考資料にも「食品添加物は危険だ」と載っていて、中学生くらいになると食品添加物を使った実験を授業に取り入れます。試験管の溶液の色が変わったり、白い布に色がついたりする実験を通じて、子どもたちにも「食品添加物は危険なんだ」という固定概念を植え付けてしまう。でも、科学的には間違った教えなんです。
私はこうした表記を改めようと20年ほど文科省と交渉していますが、その担当者も食品添加物は怖いと思っています。だから今でも変わっていません。こうして、『食品添加物は身体に悪そう』という先入観が世代を超えて受け継がれてしまっているのです。
人間の本能が便利だったはずの添加物を遠ざけた
――でも、実際には「安全」だからこそ、これだけ広く使われているのですよね?
実際には、食品添加物の安全性は国際基準に則って厳しく守られており、健康被害は平成以後一切出ていません。厚生労働省、食品安全委員会、消費者庁、地方自治体などの行政はみな「食品添加物は安全です」という情報も発信しています。
みんな信じないのです。
危険を知らせる情報を信じて、自分が危険と信じるものを安全と言っている人を怪しいと思う。それが人の本能なのです。
――人間の本能が、危ないものを遠ざけるということですか?
私たちには、原始時代から変わらない危険回避本能というものが備わっています。
生き残るためにその場の状況を判断するとき、危険情報と安全情報があったらどちらを信じるかというと、100%の人が危険情報を信じます。
これは個人差ではなく、危険情報を信じたから生き残ってこられた人間の本能なんです。実際、動物の社会では敵が来た時に警告を発する係は存在するけれども、『安全だ』という情報を発する動物はいません。安心情報は無視してもなんのデメリットもないんです。
ですから、我々は危険情報はすぐに目について、すぐに信じる。
安全だという情報は存在していても、ほとんど見られず消費者の耳に入らない。こうした背景から世界的な食品添加物は危険という認識ができてしまったのです。
心の働き「認知バイアス」による偏見
――添加物は目に見えないから安全と言われても信じにくい、その上、人間の本能で危険な情報を信じてしまう……。食品添加物が“なんとなく”避けられる理由が分かってきました。
実は人間の性質としてはそれ以外にも、私たちの持つ2つの認知バイアスが先入観を拭えない原因となっています。
我々は誰もが先入観や偏見を持っていて「見慣れないものや危険情報があるものは避けるべき」と考えています。
科学技術というのはそもそも、一般の人が見るとわかりにくいことばかりなんです。
食品添加物、農薬、遺伝子組み換え、すべて自分では安全性を判断も確認もできない。そうすると不明瞭な分野となるため、避けることが危険を回避するために一番有効な方法なんですね。危険を避けるために先入観や偏見が差別行動になっていくのは、人間がもつ本能なんです。
確証バイアスというのは、たとえば「食品添加物は危険」という先入観を持つと、「食品添加物が安全だ」という情報はおかしいと考えます。
「自分は危険だと思っているのになぜ安全だと言うのか、きっとあの人は科学的な知識がないのだろう」と反発してしまう。そうして同じ先入観を持つ人同士で集まって安心し、反対の人と敵対する。そんな同調バイアスも人間の特性なんですね。
食品添加物の危険性を伝えるメディアやニュースはたくさんあります。その声の大きさと、家庭や学校でも食品添加物は危険と教えられて育った親御さんたちが、子どもたちの食事に気を遣うのも当たり前だと思います。
ですが、正しい知識を学び、科学的根拠を信じたうえで自分なりの選択基準を設けることができれば、きちんと理由を持って、買うものを選べるようになると思うのです。
添加物は科学的に安全性が証明されていること、添加物を入れなければ、おいしさと品質の保持がむずかしいことから使われています。もし使わなければ、短期間でカビが生えたり、腐ったり、味が変わったりしてしまい、安全性の問題が起こってしまう。
すべての添加物は厳しい試験を行って、一生の間食べ続けても何の問題も起こらない微量しか使っていません。だから実際には、身体に悪い添加物はありません。添加物が入っていた方が安全なのです。
――次回は、なぜ食品添加物が科学的に安全と言えるのかを聞いていく。
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部