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「短い時間でも、重要度を伝えてあげること」紫原明子さん流、働く親が子どもと絆を深める方法
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ライターのカツセマサヒコ(@katsuse_m)です。KIDSNA(キズナ)で初めて書きます。よろしくお願いします。
突然ですが、みなさん、「親子の絆」についてどう思います?
ただ血がつながっているだけではうまくいかないことも多々あるし、正解がないぶん、戸惑うことも頻繁にあるじゃないですか。同年代の友人にも子どもを持つ人が増えてきたんですけど、「専業主婦家庭で育ったのに自分は共働きだから、子育ての勝手が違いすぎて焦る」と言っていて、それがやたらと印象的でした。
たしかに共働き家庭は、幼い子どもと一緒にいる時間が短くなりがち。そのなかで親子の絆を深めるには、どうするのが正解なの……?
疑問を解決するため、今回は、シングルマザーとその子どもたちへの取材経験が豊富なフリーライター・紫原明子さんに話を伺ってみました!
紫原さんは、専業主婦を経て初めて就職した経験の持ち主でもあります。専業と兼業、どちらも経験した視点からのご意見が聞けそうです!
紫原明子(しはら・あきこ)さん
エッセイスト。1982年福岡県生。13歳と11歳の子を持つシングルマザー。著書に『家族無計画』(朝日出版社)『りこんのこども』(マガジンハウス)。WebではProject DRESS、ウーマンエキサイトなどで連載中。Twitter ID:@akitect
子どもの重要度が高いことをきちんと伝えてあげること
――紫原さん、今日はよろしくお願いします!
紫原さん:はい、よろしくお願いします!
――さっそくなんですが、専業主婦の方たちと比較すると、ワーキングマザーの方たちは子どもと接する時間が短いのは間違いないと思うんです。そうなると、必然的に専業主婦の方たちの方が親子の絆は深くなるんじゃないかって思うんですけど、紫原さんはどう思いますか?
紫原さん:私の友人にも、「母が働きに出ていて、自分はおばあちゃんに育てられた。当時は寂しかったし、親とギクシャクした時期もあった」と言っている人がいました。だけど、"一緒にいる時間を増やせば無条件に絆は深まるのかって言うと、必ずしもそんなことはない"と思うんです。
――え! どうしてですか?
紫原さん:そもそも絆については客観的な定義が難しいのですが、たとえば「子どもが3歳になるまでは、母親が子育てに専念しないと、子どもの成長に悪影響を及ぼす」と言われていた「三歳児神話」は、明確な根拠がないため学者たちから否定されています。
むしろ一緒にいる時間が長いからこそ育児ストレスが発散できず、悪い結果を産んでしまうこともありえますし、「一緒にいる時間が長いから絆が深まる」とは、言いにくいんですね。
私自身も専業主婦、兼業主婦、両方経験しているので、どちらのメリット、デメリットもわかります。だから結局、"子育てには、一緒にいる時間の「長さ」よりも「質」が重要だ"と思っています。
――なるほど! でも、短い時間で質を高めるって難しいと思うんです。コツとかってあるのでしょうか……。
紫原さん:私自身、試行錯誤の最中なので偉そうなことは言えませんが、大切にしていることは"「あなたの存在は私にとって重要度が高いよ」というメッセージを、一回一回のコンタクトにできるだけ込めること"です。
たとえば、話の聞き方を工夫したり、少し大げさにでもリアクションしてあげたりと、その話に興味があるよ、と示すこと。こちらから話しかけてあげて、「気にしているよ」と暗に伝えてあげること。
当たり前のことのようですが、結構大変です。だって、働いていると、日中散々人と会って、へとへとになってるときもあるじゃないですか(笑)。
――あります、あります。
紫原さん:うちの子なんか歴史マニアなので、だいたいいつも世界情勢や歴史の話をするんですよ。1時間も、2時間も延々と(笑)。
――さすがにしんどそうです、それ(笑)。
紫原さん:疲れているときにはつい「そうなんだ~、アメリカは真珠の首飾りを狙う可能性があるんだ~」とかってオウム返しで済ませてしまうことが多いんですが(笑)、生返事を続けているとやっぱりバレるんですよね。「もう!ちゃんと聞いてよ!」と怒られたりして。(笑)
だから、体力に余裕があるときに多めに保険をかけておこうと思ってます。元気なときは「え、それはこうなんじゃない?」って浅い知識でも反論して、見事に論破されてみたり。とにかく、あなたの話に興味があるぞ、という姿勢を全力で見せるんです。逆に疲れ切ってそれができないときには、「ちょっと疲れてるので休ませて」って言います。長いスパンで帳尻が合うようにしてますね。なかなか難しいですが。
――確かに、一見簡単なようですが、難しいときもありそうですね……。実際にいくつも母子家庭を取材された中で、そういった「質」の向上に努めている方っていらっしゃいましたか?
紫原さん:忙しくてなかなか子どもと会話できないお母さんが、子どもと絵日記の交換をしている家庭がありました。その子たちはもう中学生になったんですけど、今でも大事にその日記帳を保管していて、私にも見せてくれたんです。取材中でも嬉しそうに話してくれるくらい印象的なことだったみたいで、ああ、これは重要度の高さがきちんと伝わっているんだなって思えました。
――めちゃくちゃいい話!!
母親の愛情だけがすべてじゃない
――でも、いくら「質」を上げても、共働き家庭だと、夫婦だけでは育てられないときがあるじゃないですか。たとえば第三者に預けるとして、それによって子どもの気持ちが親から離れていく可能性もあると思うんですけど……。
紫原さん:子離れできない人のセリフですね、それ(笑)。
私は、お父さんお母さんの愛情だけが重要なのかっていうと、一概にそうとも言えないと思っていて。親子関係に限らず信頼できる人がたくさんいたほうが、子どもも安心できるのではないでしょうか。
たとえば、私の友人の川崎貴子さん(※株式会社ジョヤンテ代表)は、お子さんが小さいとき、自分・父親・おばあちゃん・叔母さん、シッターさんふたりの合計6人でチームを作ったそうなんです。メーリングリストを作って、全員でその日の出来事を共有しあったりして。
――すごい! 超システマチックですね!?
紫原さん:そうそう。そうやって育てられた娘さんは、とってもいい子に育っていますよ。信頼できる何人かで、子どものケアを分散するっていう手法はアリだと思いました。
――海外では、ベビーシッターも当たり前のように普及していますよね。
紫原さん:そうですね。欧米では乳児のころから両親と子どもで寝室を分ける習慣がありますし、親は親、子は子、とあらかじめ距離を置いているぶん、シッターさんに預ける精神的な垣根も低いのかもしれません。日本だと未だに三歳児神話が幅を利かせていたりして、親(特にお母さん)と子の関係は密な方がいいという人が少なくないですね。
でも、日本でもすでに共働きは当たり前になっているので、人の手を借りないとどうしようもないですよね。家族だけで子育てを完結しないで、家に外の大人を迎え入れたり、外に自分の子を預けたり、そうやって、家と外の垣根を低くすることが大事なんじゃないかと思います。
――紫原さんも働きながら育児をされていますが、複数人で育てているんですか?
紫原さん:うちの場合は、専業主婦のママ友やフリーランスの友人が手伝ってくれたり、お金を払ってシッターをお願いしたりしていました。あと、私は家に人を招くのが好きなので、よくホームパーティを開いていたんですよ。ちょうど元夫と別居するタイミングで、子どもたちに寂しい思いをさせないように、家を賑やかにしようという思いもあって。そうすると、うちの子たちを自分の子どものように可愛がってくれる方も増えてきて、助けてもらえる機会も増えました。
――とはいえ、可愛い自分の子どもじゃないですか。周りに任せることに不安を覚える親もいると思うんです。
紫原さん:どういう気持ちでいるかは人それぞれですが、私は、"自分の子ども半分、社会の子ども半分"のような気持ちでいました。たとえば、外で自分の子どもが遊んでいて、近所の迷惑になるようなことをしたとき、正しい理由で誰かに怒られていたらしょうがないというか、子どもも社会の一員だしなと思えたり、それが子離れできるきっかけになったりするんじゃないかなって。
――なるほどなるほど。親が子離れできていないことも、問題のひとつかもしれないですね……。
紫原さん:特に母子家庭だと、子育ては負担でもあるけど精神的な支えにもなるので、依存関係になりやすいかなって思うんです。うちの長男は体もがっしりしていて、精神状態も安定してるので、つい頼りそうになるけど、当然ながら彼氏や夫とは違うぞ、と(笑)。子どもに依存しないようにとしよう思ってます。
余裕を持って子どもと暮らすため、自分の時間をつくる
――周りの環境にも力を借りながら、限られた時間で子どもに「あなたの存在は大切だよ」と伝えていく。言葉にはできても、なかなか難しいことだなと思いました。
紫原さん:どういうアプローチをとるにしろ、質の高いコミュニケーションに大切なのは結局、親自身に精神的な余裕があることかもしれませんね。
私の場合は、子どもがある程度大きくなったときに、週末の習い事や部活が始まって、その間だけ「自分の時間」が生まれるようになったので、かなり楽になりました。そこで私も息抜きができるようになって、余裕が持てるようになった気がします。
――紫原さんの息抜きって、どんなことをされるんですか?
紫原さん:こっそり日帰り旅行に行ったりするんです。この前は、子どもが学校に出ていった直後に車を飛ばして、一人で檜原村まで登山に行きました。子どもの帰宅時刻に合わせて帰ってくるんですけど、「そういえば今日、こんな花咲いてたよ」「え、そんな花、どこに!?」「檜原村」「どこそれ!?」みたいなやりとりをして(笑)。
――想像以上にアクティブでした(笑)。
紫原さん:疲れって人から余裕を奪いますけど、癒すにはいろいろと方法があって。単純に体を休めてもパワーが回復しないときってないですか? 特に精神的な疲労は、家でじっとしていても回復しないなと思うんです。
日々のいろいろな役割に疲れてるんだから、たまには「ひとりの人間」「ひとりの女」になれたらいいんじゃないか、と思って。だから、わざと遠くまで行って海を見たり、山に登ってみたりする。ちょっと物悲しい顔をしたりして、女の一人旅に浸ります(笑)。そういうことで、私は結構元気になりますね。
――非日常的な体験をするってことですね。
紫原さん:そうそう。何しろいつも日常に追われてますからね。あれやらなきゃ、これやらなきゃっていう焦りとか、あれをしてあげられてないなっていう罪悪感とか。たとえば、家に帰ると子どもがソファーに腰掛けて、ぼーっと無表情でテレビを見ている。それを見ただけですごく不安になってしまうときがあるんですよね。
――うわぁ、ありそうです……。
紫原さん:でもね、考えてみたんですけど、それって私も小さいころにやってたんです。そのときのこと思い出してみると、別に寂しくもなかったし、むしろ、あのひとりの時間を楽しんでいたなあって思うんです。
――え、そうなんですか。
紫原さん:たぶんそれって、"自分は間違いなく重要な存在なんだ"っていう、確信があったからなのかなって。「孤独の時間」ではなく「自由な時間」と思えていた。
そもそも、誰と会話をするでもなく、ぼーっと天井の模様を見たりする空白の時間だって、子どもにも結構大事なことかなと思います。子どもの頃、親が死んだらどうしよう、とか考えて泣いてたことってないですか? そういう風に思考を暴走させるのが空白の時間だと思うし、その暴走こそ、感性を養ってくれそうじゃないですか。だから結局、大人にも子どもにも、一人になる時間は大切なんだと思います。
――子どものためにも、自分の時間をつくる。その時間をつくるのにも周りの協力が必要かもしれませんが、やってみる価値はありそうですね! ありがとうございました!
おわりに
「環境によっては周囲の力を借りられない家庭もあるでしょうし、日々の生計を立てるのに必死な家庭もある。今回の話がすべてのご家庭で通じるものではないけれど、こういったケースもあるよ、という範囲で、参考にしてもらいたいですね」と話す紫原さん。
著書の「りこんのこども」にも書かれていたのですが、「家族の数だけ、ドラマがある」のは間違いないこと。ひとつひとつの家庭にさまざまな外部環境と、実に多様な考えを持った子どもたちがいて、今日も必死に暮らしているのだと思います。その日々は、まさにドラマのように劇的な日もあれば、全く退屈で平穏な日もあるのでしょう。
でも、いかなる日にも「あなたは、私にとって大切な存在だよ」と、子どもに重要度を伝えられる家庭を育むことができれば、きっとそれは将来、子どもにも自分自身にも満たされた気持ちをもたらしてくれるのではないでしょうか。紫原さんのお話を伺って、そんなことを思いました。
新年が明けて仕事初めや新年会、家の行事などに忙殺されているパパ・ママの皆さん。この記事を読んで思うところがありましたら、ぜひお子さんに想いを伝えてあげてください! それではっ!