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産婦人科医が解説。妊婦が新型コロナワクチンを打つべき理由
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医療法人浅田レディースクリニック理事長
医療法人浅田レディースクリニック理事長
日本でも有数の体外受精成功率を誇り、愛知・東京でクリニック展開する「医療法人浅田レディースクリニック」の理事長を務める。海外での体外受精研究実績を持ち、顕微授精の第一人者。妊娠という“結果”を重視した「浅田式」不妊治療を行っている。
妊婦や妊娠を検討する人は、新型コロナワクチンを接種すべきかどうか。メディアやSNSでもワクチンに関する情報が飛び交い、接種に対して慎重になる人もいる。今回は産婦人科専門医・生殖医療専門医の浅田義正先生に、妊婦や妊娠を検討する人にとっての新型コロナウイルスの脅威や、ワクチン接種についての見解を聞いた。
新型コロナワクチンの接種が進む中、妊娠中の女性や妊娠を検討している人の中には、ワクチン接種に対し慎重な考えを持つ人もいる。実際に、どのようなことを不安に感じているのか、現在妊娠中の女性からは下記のような思いを聞いた。
東京都/30代/妊娠6カ月
東京都/30代/妊娠9カ月
妊娠が分かった当初は、妊婦のワクチン接種に対する信憑性が曖昧だったことから「後で後悔するかもしれない」と思い、接種は控えていました。ですが第5波の勢いや、新型コロナ感染者の濃厚接触者だった妊婦さんが病院に受け入れてもらえずに死産してしまったニュースを見て、結果的にはワクチンを打つ決断をしました。妊娠中の人はワクチンを打つ、打たないどちらの選択をするにも大きな葛藤があると思います
新型コロナワクチンが胎児に悪影響を及ぼすという報告はない
厚生労働省は「日本で承認されている新型コロナワクチンが妊娠、胎児、母乳、生殖器に悪影響を及ぼすという報告はない」と発表している。また、妊娠のどの時期でもワクチンの接種を推奨し、同居するパートナーについてもワクチン接種を奨めている。
今回は産婦人科専門医・生殖医療専門医/医療法人浅田レディースクリニック理事長の浅田義正先生に、妊婦や妊娠を検討する人にとっての新型コロナウイルスの脅威や、ワクチン接種についての見解を聞いた。
「ワクチン=妊婦には危険」の誤解。各ワクチンの特性を解説
ーー妊娠中の方の中には、新型コロナワクチン接種に対する不安を抱えてる方も多いようですが、浅田先生はワクチン接種についてどのような見解をお持ちでしょうか。
「私は妊娠初期・中期・後期に関わらず、妊婦さんには、それから妊娠希望のすべての女性にワクチン接種を推奨しています。
一部の人が「妊娠中のワクチン接種は危険」と考えてしまっているようですが、それには大きく2つの原因があると思います。一つ目は、妊娠中の接種を避けるべきワクチンも実際にあり、それと混同してしまっている可能性。
ワクチンにはさまざまな種類のものがあります。最も知られている生ワクチン、不活化ワクチンは体内にウイルスを入れる性質のワクチンであり、妊娠中に打つのは危険とされているものもたしかにあります。
現在日本で使われているファイザー、モデルナ製の新型コロナワクチンは「メッセンジャーRNAワクチン」であり、生ワクチンや不活化ワクチンとは全く異なる性質をもつワクチンです。
メッセンジャーRNAワクチンはウイルスを構成する一部分のタンパク質のDNA情報を投与し、体内で抗体を作らせるものであり、非常に高い安全性を持ちます。実用化したのは新型コロナワクチンが初めてですが、20年以上臨床研究を続けてきた安全なワクチンです。」
「ですが、従来の「ワクチンとは身体にウイルスを入れるもの」という印象から、ワクチンを危険なものと一括りで考えてしまう方がいるようです。
二つ目に、今年1月に産婦人科関連の3学会が、妊婦の新型コロナワクチン接種に懸念があると一度発表してしまったこと。学会は6月に発表を撤回し、現在はワクチン推奨としていますが、一度誤った発表をしてしまったことが混乱を招いたと考えています。」
新型コロナの後遺症で無精子症になったケースも
ーー妊娠を検討する方の中にも、「ワクチン接種によって不妊になる」という情報を聞き、不安に思っている方もいるようです。
「アメリカの生殖医学会は「新型コロナワクチンによって不妊になることはない」と発表しています。ですが、これが日本語で誤訳され「ワクチン接種によって不妊になる」という事実とは正反対の内容がSNSで拡散されたようだと推察されています。
むしろ「新型コロナにかかった人が無精子症になった」というデータがイタリアの研究で出ています。昔から、おたふく風邪などで熱が続くと精子に異常が出ると言われてきましたが、新型コロナの後遺症でも高率に無精子症になるケースがあるという衝撃な報告がありました。」
出典:Semen impairment and occurrence of SARS-CoV-2 virus in semen after recovery from OVID-19C/M Gacci, M Coppi, E Baldi, A Sebastianelli, C Zacaro, S Morselli, A Pecoraro, A Manera, R Nicoletti, A Liaci, C Bisegna, L Gemma, S Giancane,SPollini, A Antonelli, F Lagi, S Marchiani, S Dabizzi, S Degl’Innocenti, F Annunziato, M Maggi, L Vignozzi, A Bartoloni, G M Rossolini, S Srni
Hum Reprod
妊婦は感染リスクが高く、従来の感染対策では不十分
ーー妊婦さんの中には「万全の感染対策をしているから、妊娠中はワクチン接種はしない」という方もいるのですが、それだけでは不十分なのでしょうか。
「アルファ株は通常の感染対策をして濃厚接触に気を付けていれば、感染の可能性は高くはなかったかもしれません。ですが、デルタ株の感染力はより高く、どれだけ注意したら防げるのかよくわかっていません。
妊婦さんは免疫力が通常よりも低くなるため、感染した場合の重症化率が非常に高いです。また、お腹が大きくなってくると肺が圧迫され、呼吸が浅くなります。もしその状態で肺の病気にかかってしまうとすぐに低酸素になり、赤ちゃんに酸素が回らずに赤ちゃんが死んでしまう可能性もあります。妊婦さんこそ、できるだけ早くワクチンを打つべきです。」
ワクチンによる副反応は気にしている場合ではない
ーー妊娠中はただでさえ体調が万全ではないので、ワクチン接種の副反応を避けたいと考えている方もいるようです。また、ワクチンの異物混入も大きな話題になりましたよね。
「ワクチン接種後に発熱などの副反応が出る方も多いですが、解熱鎮痛剤を飲み、熱が下がるのを待つしかありません。不安があるかもしれませんが、感染したときのリスクと比べると、副反応を気にしている場合ではないです。
今回のメッセンジャーRNAワクチンは筋肉内の細胞で反応をおこします。熱がでるのはより強く反応して抗体を産生している、よく効いている証拠とも言えます。
また、ワクチンの異物混入についても話題になり、不安に思った人も多いかもしれませんが、医療現場の立場からみると、心配する必要はありません。
新型コロナワクチンに限らず、薬剤の処置の過程で容器の破片などの異物が液体の中に入ってしまうケースはゼロではありません。ただ、万が一体内に入ったときに危険な物質は、初めから医療には使われません。また、処置の際には目視して確認していますし、もしも注射針よりも大きな異物があったとしたらそれは当然針では吸えないため、あまり不安に思うことはありません。」
守りたい人へ、ワクチン接種をどう伝えるべきか
「ワクチンを打ちたくない人はどの世界にもいるし、色々な考えがあるのは当然のことだと思います。もし大切な人へワクチン接種を奨めたいときは、アメリカの生殖医学会が発表した「もし、あなたが私の身内だったら」などの枕詞を添えて、伝えてみるのはいかがでしょうか。
「もし私だったら 」“If it were me…”
「もしあなたが私の身内だったら 」 “If you were my relative…”
「個人的に言わせてもらうと 」 “Let me speak personally…”
「私にとってワクチン接種が 大事だった理由は 」
“It was important for me to get the vaccine because…”
こうした言葉で、あくまで相手を尊重し、声をかけてみるのもよいかもしれません。」
出典:ASRM COVD-19 Task Force Issues Update No. 17/アメリカ生殖医学会から一部抜粋
ワクチンについて正しい理解と接種を
「妊婦さんは特に、新型コロナ感染のリスクを考えるとワクチンを打つメリットはあってもデメリットは無い」「データに基づいた正しい情報を知り、ワクチン接種についてよく考えてほしい」と浅田先生は話した。
また今回のようにワクチンをよく知る機会に、「HPVワクチン」についても再度知ってほしいと話す姿も印象的であった。妊婦だけではなく全ての大人がワクチンに対する正しい知識を持ち、理解が進んでいくことを願う。
監修:浅田義正(医療法人浅田レディースクリニック理事長)
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浅田義正
日本でも有数の体外受精成功率を誇り、愛知・東京でクリニック展開する「医療法人浅田レディースクリニック」の理事長を務める。海外での体外受精研究実績を持ち、顕微授精の第一人者。妊娠という“結果”を重視した「浅田式」不妊治療を行っている。
<取材・執筆>KIDSNA編集部
もし妊娠中でなかったら、ワクチンを打って早く安心したいという気持ちが強かったと思います。ですが、新型コロナワクチンはまだ新しいワクチンだと聞いているので、本当に産まれてくる子どもに対する影響はないのか、データが揃っていないうちに打つのは不安です。とはいえ、感染リスクももちろん怖いので、なるべく外出しないように過ごす毎日です……