これから必要な新時代の「お金教育」【横川楓】

これから必要な新時代の「お金教育」【横川楓】

2022.03.18

電子マネーをはじめとするキャッシュレスに、資産形成。今の時代、日常的に耳にするようになった言葉だが、これらの新時代の「お金教育」を子どもに教えることができる保護者はごく少数ではないだろうか。しかし、明らかに今がお金にまつわる価値観が大きく変わる過渡期といえる。親として、未来を生きる子どもたちのためにまずは価値観をアップデートする必要があるだろう。

2022年から高等学校の授業に資産形成として投資の内容が盛り込まれることが決定し、お金の管理や運用について学ぶことの重要性に注目が集まっている。

先進国ではすでに金融教育が当たり前になりつつあるが、親世代はまだまだお金問題に対して意欲的とは言えない。

日本で暮らす若い世代は、長引く不況、少子高齢化、社会保障費の増加など、生まれたときから彼らを取り巻く社会が上り調子だったことはなく、どこか諦念感すらある。

お金を取り巻く現実の過酷さが、彼らを諦めの気持ちにさせたのだ。

しかし私たちにとっても他人事ではない。これは10年後、20年後の子どもたちの姿ともいえるのではないだろうか。

そこで今回はこの状況を変えようと立ち上がり、「やさしいお金の専門家」として活動している横川楓さんに、未来を生きる子どもたちに今伝えるべきお金との付き合い方についてお伺いした。

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横川楓プロフィール:やさしいお金の専門家・金融教育活動家 1990年生まれ。明治大学法学部を卒業し、明治大学専門職大学院グローバルビジネス研究科へ進学。24歳で経営学修士(MBA)を取得。「お金のことを誰よりも等身大の目線でわかりやすく」をモットーに活動。2022年、一般社団法人日本金融教育推進協会を代表理事として立ち上げ、「誰もが平等に金融リテラシーを身につけ、活用できる社会に」を目標に金融教育の普及に努める。著書に「ミレニアル世代のお金のリアル」

子どもたちに新しい時代のお金教育を

ーーまず、私たち親よりも子どもたちに近いミレニアル世代の横川さんに、われわれを含む世代がお金教育に向き合えない理由について、お考えをお聞かせください。

 

横川楓さん(以下、横川さん):まず、お金教育について世間ではにわかに盛り上がりをみせていますが、今の若い世代の実感として、行動に移したいとは思いつつ、踏み出せていないという人もたくさんいます。

 

給与は上がらないのに、社会保険料や税金、物価が上がり、今は思っている以上に手元に入るお金が少なくなっている時代。

 

「毎月2、3万円、貯金をしなさい」

「年金が足りないから2000万円、用意しなさい」

 

など、一般的に提示されているお金の価値観と、若い世代との実態に乖離があり、「自分には無理だ」という気持ちが芽生えてしまう人も多いように感じます。

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iStock.com/Stas_V

ーーこともなげに「2、3万貯金しよう」と言えるのは、それ自体が今の若者の現状を理解していないともいえますね。

 

横川さん:はい、世の中で求められているものと、現実の自分のギャップが大きすぎる、そういった伝え方にも問題があるように思います。

 

多くの若者が奨学金の返済をしなければならなかったり、年収300万円がいちばん多いゾーンといわれている現状では、この金額が現実的ではない人も多いはず。

 

節約をして、多くの金額を貯金に回しているという人もいますが、節約自体が目的となってしまい、今使うべきお金すら惜しむというマインドになってしまうのはあまり良い状態とは言えません。

 

たとえば、収入アップを目的に転職を目指し、そのために資格をとろうとした場合、学校に通ったり参考書をそろえるなど、事前にそれなりのお金が必要な場合もあります。

 

でも、今お金を使って資格をとるのと、今は節約のためにお金を使わず、ある程度お金に余裕がでた10年後に資格をとるのでは、自分のキャリアの状況もまったく異なりますよね。

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ーー「老後資金2000万円」という数字は、いい意味でも悪い意味でもインパクトが大きすぎて、「無理だ」と感じる人は多いでしょうね。

 

横川さん:あれは、夫65歳以上・妻60歳以上の高齢夫婦無職世帯での試算です。

 

内訳をみると、二人合わせて月の年金収入が約19万程度。

 

2000万円と聞くと、その金額が貯まるまで程遠く感じてしまうかもしれませんが、実際にあの試算を深堀りすると、決して全員にあてはまるものではないこともわかります。

 

また、これまでおさめた年金額に対して将来いくら年金が支払われるかは、日本年金機構の「ねんきんネット」から、実は調べることができます。

 

情報を鵜呑みにせず、そこから自分に本当に必要な金額を調べたり考えたりして、自分ごとに落とし込むことがいちばん大切だと思います。

金融リテラシーの差が格差をさらに大きくする

ーー「自分で情報をとりに行き、自分ごと化することが大切」というお話がありましたが、自分の力ではたどりつけない人も多くいます。横川さんはそういった人たちの知識を底上げすることも含めて活動されていますよね。

 

横川さん:制度や仕組みのことってどうしても難しい。必要な知識にたどり着くまでに挫折してしまう人も多いです。

 

また、自分から申請するなど動かないと、ほとんどの場合支援が受けられなかったりすることもあります。

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ーーリテラシーの差もあると思いますが、還付金などの申請って分かりづらいものが多いですよね。

 

横川さん:そうなんです。ひとり親だったり、困りごとを抱えていて誰にも相談できない状態だったりと、追い込まれている人は能動的に動く体力が残っていないことが多いんですよね。

 

能動的になれない人や、今「体力がない」人も、きちんと必要な知識にたどり着けるような環境を整える必要があると考えます。

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また、もっとしっかりと義務教育で体系的にお金の知識を教える環境を整えることも大切だと考えています。

 

今の若い世代が環境問題に関心が強いのは、こどもの頃からCO2削減ということが教科書でも盛んに書かれていて、環境問題に向き合わなければならないということが、無意識に根付いているからだと思うんです。そこに、義務教育の影響は大きいと感じます。

 

お金についても子どものうちに受動的に学ぶことで、自然と問題意識や当事者意識が芽生え、環境問題のように自分から取り組むべきものと認識できると思います。

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お金教育の第一歩は「お金の話をタブーにしない」

ーー「義務教育で教えるべき」という話が出ましたが、それが整備されるまで、家庭でも並行して教えていく必要があると思います。家庭ではどのようにおこなうのが望ましいですか?

 

横川さん:いちばんはお金について「一緒に考えてあげる」ことだと思います。

 

ただお金を渡すだけではなく、使い道や残ったお金をどうするか、それを記録するところまで、お子さん主導で一緒に楽しんで考えてあげてほしい。

 

たとえば、「1000円もらって400円で漫画を買う。600円は来月アクセサリーを買うために残そう」とか、自分で考えて目標だてができるようになることってすごく大事ですよね。

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iStock.com/simon2579

こうした積み重ねがリテラシーとなり、自然とお金とどう向き合っていくかを考える習慣がついていきます。

 

お金の話をタブーにしないのがいちばん簡単にできる金融教育ではないでしょうか。

 

ーー子どもの頃、親になんでもほしいものを買ってもらっていたせいで、大人になっても買い物欲求を抑えられずカードで先取りばかりしてしまうという相談があります。親のお金の価値観次第で、子どものお金に対する価値観を破壊しかねないのだと思いました。

 

横川さん:親の価値観は大きく影響すると思います。

ただ、今親の持っているお金と、将来子供が大人になって持つようになるお金は全く同じというわけではありません。職業も、そのときの経済環境も違うからです。 

 

だからどういった状況だとしてもまずは「お金のことを考えさせる」という習慣づけが大切なんです。

 

たとえば、銀行に一緒に行くとか、ICカードにチャージさせるとか、普段からいろいろと体験させてあげることが子どもには一番効果的です。

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iStock.com/LumineImages

大人の場合は、まずお金について向き合うにあたり、必ずはじめてほしいのがお金の管理。

 

仕事で忙しい…という人は家計簿アプリなどで貯金などをすべて自動化するのがいちばんです。最初に少し頑張れば、あとはアプリが勝手に計算してくれますからね。

 

実は私自身も、基本的には全てキャッシュレスで家計簿アプリに紐づけています。

 

いつ何にいくら使ったかすべて記録に残るので、管理するなら絶対キャッシュレスのほうが便利です。

 

大人になると習慣づけが難しいので、自動化できる仕組み作りを最初にまず頑張りましょう。

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ーー子どものお金の使い方に関して、デジタルコンテンツに対する意識の違いなどがよく見聞されます。この世代間の価値観の違いをどう埋めていけばよいでしょう。

 

横川さん:下の世代になるほどデジタルとリアルの境目はすごくフラット。

 

実態があるかないかは彼らにとってあまり重要ではなく、服やお菓子にお金を使うのとゲームコンテンツやアイテムにお金を使うのは同じ感覚。

 

理解できないから頭ごなしに「ダメ」と言ってしまうと、親に見つからないように手に入れようとするなど、悪い方向に意識が向いてしまいます。

 

金額の範囲やルールを決めるなどして、親のほうが価値観をアップデートすることも大切です。

 

親が強く押し付けるとその考え方に影響されたり、逆に親には内緒でSNSなどで繋がった人に騙されたりする可能性もあるので、価値観の差があるのは当然と受け入れる必要があります。

 

親の意見が絶対ではなく、親自身も新しい価値観を取り入れて子どもがしっかり考えられる環境を整えてあげることも大事ですね。

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お金の知識は知って活用しなければ意味がない

ーー横川さんはお金の知識を広げるための活動を続けてこられて、最近​一般社団法人日本金融教育推進協会を発足されていますが、活動を始めたのは子ども時代の実体験が大きく影響しているそうですね。

 

横川さん:小学生のときに両親が離婚し、親子3人暮らしのマンションから、しばらくは母方の裕福な実家に暮らしていたのですが、中学になって母が家計として独立し、二人で古いアパートに移り住むことになりました。

 

子どもながらに「家族のカタチやお金があるのとないのでは住める場所がこんなに違うのか」と衝撃でした。

 

その後、母子家庭の支援制度を使い、今度はきれいな公営住宅に住めることに。

 

母子家庭で選択肢が限られても、制度を使うことで住む家も変わる。リテラシーの大切さを実感した瞬間でした。

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それもこれも、母方の実家が会計事務所だったことも大きいですね。

 

母親自身がお金にまつわる知識を身に着けることに抵抗がなく、制度の申請もできたことで、私にも制度を使うことで得する、使わなければ損をすることがあることをシェアしてくれました。

 

お金の知識は、「知っているだけでなく、活用しなければ損をする」ということを身をもって知りました。

 

でも日本の義務教育ではなかなかお金についてじっくり学ぶ機会がなく、大人になってから知ろうとしても、難しい言葉や複雑な制度を前に、理解する前に知識を得ることを挫折する人も多い。

 

周りを見ていても、お金に関する知識がある私と違い、お金のことは難しいからと敬遠してる人もたくさんいました。

 

知識を知らない、活用できないことで人生の選択肢を狭めてしまっている人も多いのではないかと感じ、もっと実践的で、等身大の目線の知識をわかりやすく伝えていかなければと思い今の活動を始めました。

大きな目標より、小さく始めて成功体験をつむ

ーーお金の知識を知り、活用することが人生の「選択肢を増やす」という考え方は、親として子どものために切に願うことです。

 

一方で、「選択肢が増えなくてもいい」という諦めを持つ若い世代の声も聞き、不景気といった社会全体の影響はあるにせよ、子どもたちの未来の姿ではないかと危機感を覚えました。横川さんの周囲の同世代の方はどうでしょうか?

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横川さん:たしかに、悲観的で刹那的な生き方をしている人もいるのですが、それはお金を貯めたり計画的に使ったりすることを、結婚、出産、マイホーム購入、老後など、すごく先のライフイベントのためだと思っている人も多いからのように感じています。

 

人生の選択肢も多様化していたり、今の生活に必死でなかなか将来のことまでは想像がつきづらいという人も多くなってきているのが現代。

 

そういった中でお金というのはずっと先のためのものではなく、明日事故に遭うかもしれないとか、2カ月後にどうしてもほしいものが突然現れるかもしれないとか、ちょっと先の自分のためにだって、必要なもの。

 

趣味でも推し活でもいいし、自分がなにかやりたい・必要だと思ったときに使えるお金があること=選択肢を増やすことにつながるんです。

 

ーーこれまで多くの人にとって当たり前とされてきたライフイベントも、若い世代にとっては贅沢になってしまっているのだなと感じました。

 

老後資金2000万問題しかり、大きな金額や遠すぎる未来ではなく、まずは近い未来の自分を幸せにするために始める、というマインドセットが若い世代にはちょうどいいんですね。

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横川さん:貯金額は月に500円でも1000円でも少額でいいので、まず貯金をする習慣をつけることに意味があると思っています。

 

私がおすすめしているのは先取貯蓄と後取貯蓄のミックス。そもそも月々の収支って絶対に毎月1円単位まで同じことはあり得なくて必ず変動しますよね。

 

なので、最初の先取貯蓄では理想的な大きな金額というよりもハードルの低い金額を貯金に入れておき、それに加えてその月の最後に余った額を後取貯蓄にする。

 

最初に無理な金額を貯金すると、結局お金が後から必要になりせっかく貯金用口座に入れたのに結局切り崩してしまった…なんてことにもなりかねません。

 

貯金用口座も一度手をつけるとすぐに崩すことに抵抗がなくなってしまいますよね。

 

貯金用口座からお金を引き出してしまったとなると、モチベーションの低下にもつながります。

 

なにごとも最初からあまりハードルをあげず、とにかく続けることが大切。

 

実家暮らしと一人暮らし、都心と地方などでも収入と支出のバランスは変わってくるので、あまり世の中の情報にまどわされずに、自分なりのルールを決めていくのが大切です。

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ーー自分に必要なお金を理解する、ということですね。最後に、今後社団法人を通じてどのようにお金教育の普及をされていくご予定か教えてください。

横川さん:知識の普及をすることと並行して、義務教育におけるお金教育の整備に力を入れていきたいと思っています。

 

税金年金の仕組みや、そもそもお金はどうやって世の中をめぐって、私たちの手元にきているか、体系的なお金の流れから学ぶ必要があると考えています。

 

誰もが基礎知識としてお金の知識を身に着けられる環境を整えることがミッションです。

 

そのために、個人、法人、団体など様々な方と「金融教育・金融リテラシー普及」というビジョンのもと連携し、幅広い横のつながりで金融教育を業界として盛り上げていきたいと思います。

 

 

<取材・執筆>KIDSNA編集部

2022.03.18

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