「早くしなさい」を言わない方がいい理由。幼児期に思考力を伸ばすには

「早くしなさい」を言わない方がいい理由。幼児期に思考力を伸ばすには

教育専門家として40年たくさんの親子に関わっている西村先生のコラムです。今回は、これからの時代に必要とされる「思考力」を幼児期にどう伸ばしたらよいかについて考えていただきました。

前回の記事では「子どもにこれから必要とされそうな力」のひとつである表現力について、コラムを書かせていただきました。

「ねぇお母さん」親子の会話が、これからの時代に必要な表現力を伸ばす

前回記事:「ねぇお母さん」親子の会話が、これからの時代に必要な表現力を伸ばす

今回は、思考力を育むために幼児期にできることについてお伝えしていきます。

私がこれまで40年にわたって子どもたちと接してきて、この子は思考力がある、考える力がついている、と感じた子には共通点が多くあります。

たっぷり遊んで「体験する」ことの重要性

ひとり遊び、ごっこ遊び

思考力がある子の共通点は、遊びが上手だということです。そして実際、小さい頃からよく遊んでいます。

どんな遊びが好きかは、お子さんそれぞれ。年齢によっても違いますね。小さい頃は、同じようなフレーズを繰り返し口ずさむのが好きなお子さんもいれば、だまって延々と絵をかき続けるのが好きなお子さんもいます。

こういった「ひとり遊び」もたっぷりさせてあげてほしいと思います。

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少し大きくなると、「ごっこ遊び」などもしますね。「ごっこ遊び」にはルールがあります。そのルールを守って遊ぶというところがポイントです。

こんなときはお母さんはどうするのかな、といった想像力、お医者さんは首から何かぶら下げているな、といった記憶力や思考力が鍛えられます。


体を使った遊びが受験に役立つ?

体を動かして遊ぶことも大切です。もちろん体力をつけることは子どもにとって重要ですが、その体験が勉強にもつながってきます。

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2016年の某難関中学の理科の入試問題で、次のようなものがありました。


「立たずに座ったままブランコをこぐとき、ブランコのこぎ幅を大きくするためにはどのようにこげばよいですか。こぎ方を答えなさい」


もちろん、問題で与えられた「ふりこの運動」の実験をもとに考えられる問題なのですが、実際に夢中でブランコをこいだ体験のあるなしで、ずいぶん問題を考えるときの「リアリティ」に違いがあるのは言うまでもありません。

思考力をつける遊びとは

ことば遊び

子どもが言葉や数字を覚えたら、言葉遊びや数字数えなどができますよね。

思考というのは、ことばを使って行います。つまりたくさんのことばを知っている子ほど、そのことばを使っていろんなことを考えられるようになるのです。だからお子さんに、たくさんのことばに触れさせてあげましょう。

たとえば「あ」で始まる言葉、「く」で終わる言葉といった「なかま言葉」を言い合ったり、「朝の反対は?」といった「反対言葉遊び」などもいいですね。いろんな言葉を親子で言い合ってください。


「大人のことば」で話す

「子どもの思考力を伸ばしたいのですが、どんな方法がありますか?」と小さなお子さんのお父さん、お母さんから聞かれることがあるのですが、私の答えの1つは「大人の人と話をする機会を設けてください」です。

大人の人と話をする機会が多いお子さんは、語彙が豊富な傾向があるのは、自分の知らないことばを話す大人の人から、いろいろな語彙を与えてもらっているからです。

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私が小さかった頃は、家に自分のおじいちゃんやおばあちゃんがいて、一歩外へ出れば近所のおじいちゃん、おばあちゃんが自分に世話を焼いてくる、というのが普通でした。

彼らは相手が子どもでも容赦なく「大人のことば」で話しかけてきます。そんな「大人のことば」への対応で、子どもたちの語彙力は自然と鍛えられていたのです。

でも、今の子どもはそうではありませんね。だからお父さん、お母さんが、あえてときには「子どものことば」ではなく「大人が使うことば」で話してあげることも重要です。


数字遊び

数字数えもいろんなバリエーションで楽しみたいですね。

ひたすらいっしょに大きい数まで数えるのでもいいです。お子さんの理解の段階によって、結果は日々「更新」されていくかもしれません。「おお〜!昨日は100までだったのに!」「なんかコツを覚えた!?」という瞬間瞬間に、お子さんが成長している実感を得られると思います。

思考力があるなぁ、と感じさせるお子さんは、聞いてみるとこんな遊びをお母さんやお父さんとたくさんしてきています。

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何かに熱中する体験を持つ

考える力がある子のもうひとつの共通点は、幼児期に「熱中体験」をしていることです。何かに熱中し、没頭する時間をとっていた子が多いのです。対象は別になんでもかまいません。

自分が興味があることに没頭する中で、集中力の基盤ができていきます。好きなマンガのキャラクターを覚える、こん虫の図鑑をずっと眺めている、延々と絵をかき続けているなど、没頭することは子どもによって様々ですが、そういう経験から「集中する」とはどういったことかを学んでいくのです。

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「早くしなさい」と言われて様々な習いごとで一週間を埋め尽くされたお子さんより、のんびりと家で好きなことに没頭した経験を持つお子さんの方が、将来的には思考力をしっかり育んでいるお子さんが多いと、私は経験的に感じています。


子どもの「全力」を伸ばす

あるご家庭では、お子さんが小さい頃「全力タイム」というのを決めていて、お子さんが興味を持ったことができると、その時間は親も全力で興味を持ち、調べたり考えたり、全力で楽しんでいました。

それこそ遠方に出かける計画までその時間に立て、実行してしまうのです。

これは親としてもとても難しいことです。だって、子どもが興味を持つことといえば、親としては「そんなこと?」と呆れてしまうようなことや「そんなの無理!」ということも多いからです。

でも親が「やり切る」と決めて付き合って得られたものは大きかったようです。

「全力タイム」の中で決まるお出かけはやがて恒例となり、毎年の「経験したことがないことを経験しに行く旅」というイベントになり、「ラクダに乗りに鳥取砂丘に行く」「流氷を見に北海道に行く」「砂漠を見に伊豆大島に行く」果ては「モアイを見にイースター島に行く」という年もあったそうです。

幼少期の体験が子どもの思考力を伸ばす

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そのような体験は、親にとっても子にとっても、生涯忘れられない時間になったに違いありません。そんなご家庭のお子さんは、考えたり調べたり、自分が知らなかったことを知るために行動するのが大好きになるものです。

それは、子どもが自分で思考するための、はじめの一歩となるのではないでしょうか。


執筆:西村則康

Profile

西村則康

西村則康

教育研究家。家庭教師集団「名門指導会」代表。中学受験ポータルサイト『かしこい塾の使い方』主任相談員。日本初の「塾ソムリエ」として、塾の活用法や塾選びなどの受験ノウハウを世に送る。テレビ、新聞、教育雑誌などで活躍中。おもな著書に『いちばん得する中学受験』(すばる舎)、『中学受験基本のキ!』(日経BP社)、『頭のいい子の育て方』(アスコム)、「中学受験は親が9割」シリーズ(青春出版社)など、20冊を超える著書がある。

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