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「ねぇお母さん」親子の会話が、これからの時代に必要な表現力を伸ばす
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教育研究家/家庭教師集団「名門指導会」代表
教育研究家/家庭教師集団「名門指導会」代表
教育研究家。家庭教師集団「名門指導会」代表。中学受験ポータルサイト『かしこい塾の使い方』主任相談員。日本初の「塾ソムリエ」として、塾の活用法や塾選びなどの受験ノウハウを世に送る。テレビ、新聞、教育雑誌などで活躍中。おもな著書に『いちばん得する中学受験』(すばる舎)、『中学受験基本のキ!』(日経BP社)、『頭のいい子の育て方』(アスコム)、「中学受験は親が9割」シリーズ(青春出版社)など、20冊を超える著書がある。
教育研究家として数多くの子どもに接する西村先生に、これからの時代に必要な「表現力」を育む方法についてのコラムを書いていただきました。そのヒントは、子どもの「ねぇお母さん」の答え方にあるようです。
これから求められる「表現力」
「あなたは将来、 海外から日本に来た方にどのようにして『おもてなし』をしようと思いますか」
この問いに対して400字〜450字の字数で自分の意見を書かせるのは、都内の中学校の適性検査問題です。
もちろん与えられた素材文を読んだ上でのことですが、それにしても11才〜12才の子どもがこの字数で「自分の意見」をまとめるには、相当な表現力が必要になりますね。
今回は「表現力」をつけるために幼児期にできることについて考えてみます。
「褒める」よりも「認める」ことから
「表現力」というと、何か芸術的なこととか文化的なこと、そんなことを想像してしまうかもしれませんが、表現というのは、自分の中にあるものを誰かに伝えるために出すことだと私は考えています。
お子さんにとって、それは今日学校の花壇で見たアサガオのふた葉のことかもしれないし、不思議な形をした雲のことかもしれません。感じたことや思ったことを誰かに伝えたい、そんな欲求から、表現は生まれます。
だから、誰かに伝えたいとお子さん自身が思えなければならないし、伝える相手、つまり受け入れてくれる相手が必要です。お子さんがもっとも伝えたい、受け入れてほしい相手が親、特にお母さんです。
子どもに関心を示すこと
「褒めて伸ばす」という考え方がありますね。私も全くそのとおりだと思いますが、その前に親が子どもに関心を示すことは褒める以上の効果があると思っています。
「ねぇねぇお母さん」
「見て見て、お母さん!」
毎日のようにこう言うお子さんは、多いのではないでしょうか。
お母さんも忙しく、疲れているときなどは、正直付き合えないこともあると思います。でも、いつもでなくても、できれば付き合ってあげてほしいのです。
「ねぇねぇ」「見て見て」とわざわざ声をかけてきた割には、大人から見ると全然大したことないことだったりもするのですが、子どもにとっては大きなことです。
「すごいね!」
お母さんからのこんなひとことが、子どもの自己肯定感、そして「伝えたい」という気持ちを育みます。
親に拒絶ばかりされると、自分の考えていること、感じていることを表現するのは悪いこと、無駄なことと子どもは思うようになります。
学校など本格的な集団生活の中で表現力を発揮できるようになるには、まずは親子間で「僕が(私が)感じていること、思っていることを表現したら、お母さん、お父さんは受け止めてくれる」という信頼感ができていることが重要です。
親が先回りしない
私は教育者として受験を控えたお子さん、そのお母さん、お父さんとふだん接していますが、お子さんへの質問に答えてしまうお母さんがいます。「塾のない日は何時くらいに寝るの?」そんな質問に対して、お母さんが理路整然と説明してしまうのです。
私としては、お子さんがふだんの睡眠時間をどう感じているかとか、時間の使い方をどれくらい意識できているかも知りたいのですが…。当のお子さんはというと「どうせお母さんが答えちゃうんだから、僕の意見なんて言わなくっていいや」となかばあきらめムード。
これでは表現力も「表現しよう」という気持ちも育ちません。
お子さんがなかなか答えないとき「◯◯ちゃん、答えなさい!」などと言いたくなるのが親ですが、答えられないのではなく言葉を選んでいるのかもしれません。ぐっと堪え、待つことを心がけましょう。
お子さんの表現力を育てるには、親はできるだけガイドに徹し、あまり先回りしないことです。表現するということは、まだ言葉になっていないものを言葉にして伝えること。
痛い、つらい、悲しい、腹が立つといった感覚や感情とも、それ自体を言葉にすることを受け止めてもらえるという安心感が親子間にあれば、上手に付き合えるようになっていきます。
本には、表現の「材料」がたくさんある
表現というのは、自分の中にあるものを言葉にして誰かに伝えること。だからお子さんの中に、誰かに伝えたくなることがたくさんあるほうが、表現力は育っていきます。
たとえば、本は表現のもととなる感受性を育てるのに格好のアイテムです。読み聞かせながら、いろんな質問をしてあげましょう。
「くまさんは、何を食べたのかな?」
「どんな味がしたと思う?」
「こんどは、何色になるのかな?」
どんな質問でもよいので、お話を聞いてお子さんの中に生まれたことを言葉にさせることを心がけましょう。
映像もよいのですが、本とくらべると、絵(画像)・音(言葉)・動きなどすべてが揃っているところが長所でも短所でもあります。お子さんが想像によって補う部分が極端に少ないのが映像です。
ただ、映像に「子守り」してもらうことがあるのは現実的に避けられない、という話もよく聞きます。バランスよく付き合っていきたいですね。
日常生活の中で、表現力の芽が育つ
日常、何気なく過ごしている中にも、お子さんの表現力を育てるヒントはたくさんあります。
「風が吹いているね」
「雨がふりそうだよ」
「あのワンちゃんは、どうしたいんだろうね」
お子さんが見たこと、聞いたこと、感じたことについて、どんどん言葉にさせてあげることを意識すると、お子さんの「表現力の芽」はぐんぐん育っていきます。
「ねぇねぇお母さん」と夢中になって説明した経験は、必ずお子さんが大きくなったときに活きてくるものです。
執筆:西村則康
Profile
西村則康
教育研究家。家庭教師集団「名門指導会」代表。中学受験ポータルサイト『かしこい塾の使い方』主任相談員。日本初の「塾ソムリエ」として、塾の活用法や塾選びなどの受験ノウハウを世に送る。テレビ、新聞、教育雑誌などで活躍中。おもな著書に『いちばん得する中学受験』(すばる舎)、『中学受験基本のキ!』(日経BP社)、『頭のいい子の育て方』(アスコム)、「中学受験は親が9割」シリーズ(青春出版社)など、20冊を超える著書がある。