【産婦人科医監修】不妊治療にいくらかかる?保険適用の範囲や費用を抑えるためにできること

【産婦人科医監修】不妊治療にいくらかかる?保険適用の範囲や費用を抑えるためにできること

不妊治療で、費用の自己負担がどのくらいになるのか心配する方は多いのではないでしょうか。2022年4月から不妊治療に対する保険適用範囲が拡大されるほか、自治体の助成金もあるため、工夫次第で負担を軽減できることをご存じですか。今回は、不妊治療にかかる費用について目安や具体的な事例、保険適用の範囲、どのくらい予算を用意しておけばよいか、費用を抑えるためにできることをご紹介します。

不妊治療にかかる費用の目安はいくら?

※写真はイメージ(iStock.com/metamorworks)
※写真はイメージ(iStock.com/metamorworks)

厚生労働省のアンケート資料(2021年版)によると、不妊治療にかかった医療費の総額の集計結果は、「50 万円以上」が全体の 34.5%を占めています。

内訳としては、「5万円以上 10 万円未満」が最多の 17.8%で「1万円以上5万円未満」が 17.1%。また、「100 万円以上 200 万円未満」が 11.7%、「10 万円以上 20 万円未満」と「20万円以上 50 万円未満」が 11.2%という結果でした。

さらにアンケートによると、不妊治療や検査以外にも、妊娠するために様々な費用がかかることもわかりました。

「サプリメントや漢方薬・排卵日検査薬等の購入」が最多の53.9%、「遠方の医療機関へ通院するための交通費」が 35.7%と比較的高い数値となっています。「当てはまるものはない」とした回答者も 27.4%と一定数いました。

意外とかさむ交通費は、たとえかかりつけの医院が家や職場から近くても回数が増えると大きな負担に。

葉酸や鉄、ビタミンD、亜鉛など、妊活・妊娠中に必要とされる栄養素のサプリメントや漢方薬、体を温めるための温活グッズを買うのにも月に数千円はかかるでしょう。

妊娠に向けて利用される整体や鍼灸も、施術内容や頻度、保険の適用可否にもよりますが月に数千円〜数万円程度かかる可能性があります。


出典:不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書/厚生労働省

13)経済的な負担について p119~

https://www.mhlw.go.jp/content/000766912.pdf

不妊治療の主な治療内容と費用

厚生労働省による資料をもとに、不妊治療の主な治療内容や具体的な費用についてご紹介します。


主な治療内容

女性のみもしくはそのパートナーがこれまで受けた、不妊治療の具体的な治療・指導の内容として、治療経験のある方法は「タイミング指導」が 76.7%、「人工授精」が 37.5%、「体外受精」が28.1%、「顕微授精」が 20.4%という結果でした。

また、「男性不妊治療」は 10.9%という結果に。 男性不妊治療として実施されたものの中では、「ホルモン治療」が最多の 31.5%で、「TESE(精巣内精子採取術)」が30.3%、「Micro-TESE(顕微鏡下精巣内精子採取術)」が 21.3%と続いています。


各治療にかかる費用

タイミング指導の1周期あたりの費用は、「5,000 円未満」が 32.4%と一番多く、「5,000 円以上10,000 円未満」が 31.3%と、1 万円以下が過半数を占めています。

また、人工授精の1周期あたり費用は、「1万円以上2万円未満」が 25.7%と最多で、「5万円以上」も 21.5%と多く費用にばらつきがあるようです。

さらに、高度な治療へステップアップするとより費用が高くなり、体外受精の1周期あたりの費用は、「30 万円以上 40 万円未満」が 15.9%と最多で、10 万円台から 50 万円台が一般的です。

一方の男性不妊治療の1周期あたりの費用は、「1万円以上5万円未満」が 41.6%ともっとも多く、集計すると「5万円以上」が 33.7%を占めています。


出典:不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書/厚生労働省

10)治療内容と費用について p111~

11)検査・治療の費用について p115~

https://www.mhlw.go.jp/content/000766912.pdf

2022年4月から不妊治療が保険適用に

※写真はイメージ(iStock.com/Yusuke Ide)
※写真はイメージ(iStock.com/Yusuke Ide)

今まで費用の自己負担が大きかった不妊治療ですが、国の少子化対策の一環として、2022年4月より保険が適用されるようになりました。詳細についてご紹介します。


体外受精などの基本治療は全て保険適用

保険が適用される治療は、タイミング法、人工授精、採卵・採精、体外受精・顕微授精、受精卵・胚培養、胚凍結保存、胚移植といった基本治療です。

基本治療

治療内容により一部、保険適用外となる場合もあり、保険と自費の混合診療は認められていません。 

また、基本治療に加えて実施されることのあるオプション治療についても、保険適用されるものや先進医療(※)として保険と併用できるものもあります。先進医療は随時追加されることもあり、詳細はかかりつけの医院へ確認しましょう。

※先進医療…厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養のうち、公的医療保険の対象になっていないもの


年齢や回数に制限がある

保険適用条件として、女性の年齢が治療開始時に43歳未満であるという年齢制限もあります。

年齢が上がると体外受精の成功率が下がったり、43歳以降は体外受精で出産に至る割合が5%以下になるためです。

また、胚移植について保険適用できる回数は、40歳未満の場合は子ども一人に対し最大6回まで、40~43歳未満の場合は最大3回までとなっています。


窓口での負担額は治療費の3割

保険適用後は、窓口での負担額が治療費の3割となります。

また、治療費が高額な場合、月額上限として高額療養費制度も用意されています。具体的な上限額や手続きは、加入している医療保険窓口へ問い合わせが必要です。


出典:不妊治療に関する取組/厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/funin-01.html#:~:text=%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AE%E4%BF%9D%E9%99%BA%E9%81%A9%E7%94%A8,%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82

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不妊治療にいくら予算を用意しておけばよい?

これから不妊治療の予算を用意しておこうと考える方は、200万円ほど貯蓄の余裕があれば、一通りの不妊検査からタイミング法、人工授精とステップアップして、体外受精や先進医療などにもチャレンジしやすいでしょう。

もし、早めに治療が終われば、その分の貯蓄を別の使い道に充てることもできます。少しずつでも貯蓄するクセをつけることが大切でしょう。

不妊治療費を抑えるためにできること

不妊治療費を抑えるためにできることについてご紹介します。


パートナーとの治療の早期開始

※写真はイメージ(iStock.com/Chinnapong)
※写真はイメージ(iStock.com/Chinnapong)

不妊治療の費用を抑えるために大切なのは、適切な治療をできるだけ早い時期から始めることです。

女性は年齢とともに卵巣の機能が落ち妊娠する力「妊孕能(にんようりょく)」が低下するほか、男性も加齢で精子の質が悪くなることがわかっています。

そのため、パートナーと2人そろって検査を受け、早く治療を開始することが妊娠につながりやすいと言えるでしょう。

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特定不妊治療費助成制度の申請

厚生労働省では、高額な医療費がかかる不妊治療に要する費用の一部を助成しています。

対象となるのは主に、体外受精や顕微授精といった「特定不妊治療」以外の治療法では妊娠の見込みがないか、極めて少ないと医師に診断された方になります。

申請手続き等に関しては、住んでいる自治体への問い合わせが必要です。


高額療養費制度の申請

医療機関や薬局で支払う費用が1カ月で上限額を超えた場合、その超えた額を支給する「高額療養費制度」も利用できることがあります。

上限額は、年齢や所得に応じて定められており、いくつかの条件を満たすことで負担を軽減できます。

申請の際は、健康保険証を発行している加入先の医療保険者へ申請書を提出します。

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確定申告の医療費控除

不妊治療の費用を確定申告することで、費用のすべてが医療費控除の対象になるわけではありませんが、金額によっては所得税や住民税の負担を軽減できるようです。

医療控除の対象となるのは病院で受ける人工授精や体外受精で、原則として「治療」として認められるものは対象となり、「健康維持」などが目的とみなされると対象外になります。

手続きの際は医療機関発⾏の領収書が必要となります。詳細についてはお近くの税務署へ確認してみましょう。


会社への申請

勤め先の会社によっては、不妊治療のための治療費の補助や融資を行うなどの制度を導入している会社もあります。

そのような制度が会社にあるかどうか、就業規則を調べたり、人事労務などの担当者に聞いてみるとよいかもしれません。


出典:

不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック/厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30l.pdf

不妊に悩む夫婦への支援について/厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000047270.html

高額療養費制度を利用される皆さまへ/厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html

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不妊治療についてママたちの体験談

※写真はイメージ(iStock.com/simpson33)
※写真はイメージ(iStock.com/simpson33)

不妊治療についてママたちの体験談や意見を聞いてみました。

 
 

二人目がなかなかできないので病院を受診しました。一般的な不妊治療ほどの大変さではありませんが、基礎体温をつける、排卵が起きているか確認してもらう、卵管造影、タイミングといった内容で、病院にはトータルで5、6回ほど通い、数万円は費用がかかったと思います。

もっと積極的に不妊治療をしていた友人からは、一回数十万という話も聞きました

 
 

昔は、不妊治療というとお金がある方に限ったことだった気がします。私は、偶然息子を授かり、不妊治療とは無縁でしたが、当時知り合ったママ友の中には双子、三つ子を授かる可能性も頭に入れて体外受精も試み、その費用も莫大だったという方が多くいました

費用を抑えて不妊治療をしよう

※写真はイメージ(iStock.com/Yagi-Studio)
※写真はイメージ(iStock.com/Yagi-Studio)

不妊治療中は、費用など様々な不安を抱え、生活や夫婦関係などに影響が出てしまうこともあるかもしれません。

しかし、2022年4月から不妊治療が保険適用となったことで自己負担が治療費の3割で済み、以前に比べて治療に取り組みやすくなった面も。

保険適用には、対象となる治療法や年齢、治療回数といった条件があります。また、早期の治療を受ける、申請して助成金を受けることなども費用を抑えるのに大切な点となります。

不妊治療を検討している方は医療機関へ早めに相談し、お金や時間の使い方を意識しながらしっかりと治療に向き合うことができるとよいですね。


監修:

Profile

杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。 患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。

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2022年09月20日


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