【産婦人科医監修】妊娠中の血圧の正常値。低血圧~高血圧の基準と対処方法

【産婦人科医監修】妊娠中の血圧の正常値。低血圧~高血圧の基準と対処方法

血圧を正常値に保つため日常で気をつけること

妊娠すると血圧が上がると思っていたけれど、血圧が下がると心配になる妊婦さんもいるかもしれません。妊娠中の血圧の正常値と血圧が低いとき、高いときのリスクについてご紹介します。また、血圧を正常に保つための対処法と処方される薬についても解説します。

杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

妊娠中の血圧の正常値

妊娠すると血圧が上昇すると思われがちですが、妊娠時期によって血圧は変化します。

妊娠時期別の血圧の数値を詳しく見ていきましょう。

妊娠初期は、つわりの症状で吐き気や嘔吐から水分不足になりやすく、妊娠初期は血圧が低下します。

妊娠中は、最低血圧が85mmHg未満、最高血圧が130mmHgが平均的です。

この数値は年齢に関係なく、妊娠初期の妊婦さんの平均的な血圧になります。

最低血圧が50~80mmHg未満、最高血圧90~120mmHg未満を「至適血圧」といい、赤ちゃんやママが病気にかかりにくく理想的な状態です。

妊娠中期は、女性ホルモンによって血管が拡張するため、妊娠20週くらいのときに血圧が最低値になります。

妊娠後期になると、出産に向けて血圧が上がります。

最低血圧90mmHg、最高血圧140mmHg未満は「正常高値」といい、妊娠高血圧症候群になる可能性があるので、注意が必要です。

妊娠中に血圧が高いときのリスク

妊娠中に血圧が高くなるとどのような影響があるでしょうか。

妊娠高血圧症候群

妊娠後期に血圧が上がると妊娠高血圧症候群になる恐れがあります。

妊娠高血圧症候群は、妊娠20週以降から分娩後12週までに最高血圧が140mmHg、最低血圧90mmHg以上または両方の場合、妊娠高血圧症候群と診断されます。

妊娠高血圧症候群になると、腎臓機能や肝臓機能が低下して脳への血液が滞ってしまい、緊急帝王切開で出産するケースもあります。

低体重児

妊娠高血圧症候群になると、胎盤の血流が悪くなり、赤ちゃんまで十分な栄養が行き届かず体重が少ない低体重児が生まれるかもしれません。

頭痛・めまい

妊婦さんの頭痛
iStock.com/baona
高血圧の軽い症状は、頭痛やめまいが起こります。

放っておくと、脳出血やけいれんなど症状が悪化する恐れがあります。

妊娠中に血圧が低いときのリスク

一般的に収縮期血圧が100mmHg以下は低血圧と定義されます。

妊娠中に低血圧だとどのようなリスクがあるでしょうか。

貧血

低血圧になると貧血状態が続き、めまいやふらつきが起こりやすくなります。めまいやふらつきから転んだり、お腹をぶつけてしまう危険性があります。

つわりの症状がひどく出る

血圧が低いとつわりがひどくなる可能性があります。

医学的な原因は解明されていませんが、静脈を圧迫したり、血液循環が悪くなることが原因ではないかと考えられています。

むくみ

低血圧の場合、血液の流れが悪くなり身体がむくみやすくなります。

妊娠中は大量の水分が必要になるため、普段よりもむくみやすいですが、低血圧になるとさらにむくみを感じるかもしれません。

血圧が異常なときに処方される薬

妊娠高血圧の場合は、降圧剤を使用する場合があります。内服薬と点滴があり、妊婦さんにも使われています。

降圧剤を使うと血圧は下がりますが、血圧が下がって子宮に流れる動脈血の量が減るため、お腹のなかの赤ちゃんに酸素が十分行き渡らなくなったり、栄養が足りなくなる可能性があります。

血圧を正常値に保つため日常生活で気をつけること

妊娠時に血圧を正常値に保つためにはどのようなことに気をつけたらよいでしょうか。

食事内容を見直す

バランスのとれた食事
iStock.com/kuppa_rock

塩分や脂分の多い食事は、血圧が上がる原因になります。

揚げ物やラーメン、スイーツなどを控え、味付けも素材の味が楽しめる和食中心の食事がおすすめです。

水分補給をこまめにする

妊娠するとつわりで水分を十分に摂れずに血圧が下がり、貧血気味になります。

特にお腹が大きくなる妊娠後期は多くの水分が必要になります。

一気にたくさんの水分をとるのではなく、少しずつでもこまめな水分補給を心がけることが大切です。

適度な運動を取り入れる

低血圧の場合、手足の末端の血管収縮力が弱く、血液が末端まで行き渡りづらくなります。

ウォーキングや階段の昇り降りなどで身体全体の血液の循環を促します。

お腹が大きくなってきて、足元が見えづらいときには階段を踏み外さないように、上までのぼらず玄関などの段差でやってみるとよいでしょう。

十分な睡眠をとる

寝不足になると、ストレスが溜まります。ストレスが血圧を上昇させる原因になる場合もあります。

早寝を早起きを意識して、なるべくストレスを溜めないようにしましょう。

血圧を正常に保つには日頃の生活習慣が大事

妊婦さんの血圧
iStock.com/werayuth

妊娠するとつわりの影響から水分不足になり、血圧が下がります。妊娠中期に血圧が最低値になり、妊娠後期は出産に向けて血圧が上がります。

妊娠すると血圧が上がると思っている人もいるかもしれませんが、妊娠初期、妊娠中期、妊娠後期で時期によって血圧は変わってきます。妊娠中は最低血圧が85mmHg未満、最高血圧が130mmHgが平均的です。

血圧が下がると、貧血やむくみの症状が出てきて、つわりがひどくなる場合があります。

反対に、血圧が高いと頭痛やめまいが起きたり、妊娠高血圧症候群になり、低体重児が産まれるなどのリスクを伴います。

血圧を正常値に保つためには、塩分や脂分を控えたバランスのよい食事とこまめな水分補給が大切です。

妊娠時期やママの体調にもよりますが、ウォーキングやストレッチなど適度な運動や十分な睡眠をとることも重要です。

無理せずできることを取り入れて妊娠中の血圧を正常値に保ちましょう。

監修:杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

No Image

杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

杉山太朗 監修の記事一覧(バックナンバー)

信州大学卒医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。

患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。

田園調布オリーブレディースクリニック

2019年10月10日

基礎知識の関連記事

  • 世界で初めて体外受精が成功したのは、1978年のイギリス。今や、日本でも体外受精で子どもを産む方は少なくありません。この度、KIDSNA STYLE では過去に体外受精をご経験された方にご出演いただき、覆面座談会を開催いたしました。

  • 妊娠中はつわりや味覚の変化が多く、気を付けないといけないことも増えます。そのためどのような飲み物を飲んだらよいのか分からなくなることも。妊娠中におすすめしたいのは、身体を温めるホットの飲み物です。先輩ママたちはホットのどのような飲み物を飲んで、妊娠時期を過ごしていたのでしょうか。体験談をご紹介します

    杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

  • 不妊検査に行ってみようと思っても、いつ、どのようなタイミングで病院に行くのがよいか迷ってしまうかもしれません。また、初めての不妊検査に行くことは不安な思いもあるでしょう。今回は不妊検査の初診に行くタイミングや、受診に必要なもの、準備しておくとよいことなどを紹介します。

    杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

  • 不妊治療で、費用の自己負担がどのくらいになるのか心配する方は多いのではないでしょうか。2022年4月から不妊治療に対する保険適用範囲が拡大されるほか、自治体の助成金もあるため、工夫次第で負担を軽減できることをご存じですか。今回は、不妊治療にかかる費用について目安や具体的な事例、保険適用の範囲、どのくらい予算を用意しておけばよいか、費用を抑えるためにできることをご紹介します。

    杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

  • 不妊治療には不安や悩みが付きものですが、その一つが費用負担の問題です。2022年4月からは不妊治療に対する保険適用範囲が拡大され、自治体に申請すればもらえる助成金もあり、工夫次第では以前よりも経済的負担を軽減できるようになりました。それに加え、この記事でお伝えしたいのは、不妊治療の費用を確定申告することで、税金が戻ってくること。「確定申告ってむずかしそう」「調べるのが面倒」という方に向け、メリットや手続きの方法などを解説いたします。

    福本眞也

  • 不妊にはさまざまな原因がありますが、年齢もその中の一つ。女性の人生では、年齢と妊娠の関係を考える機会が多いものですが、もちろん男性も無関係ではありません。妊娠する・させる力(妊孕力)は男女を問わず加齢によって減少します。この記事では、年齢が不妊に与える影響、対処法、妊娠のための生活習慣などを解説します。

    杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

  • 不妊治療の結末は誰にも予想ができず、努力をしたからといって必ずしも望んでいた結果が得られるわけではない。「だからこそ、ゴールをどこに置くのかが重要」と産婦人科医の高尾美穂先生は話す。パートナーと同じゴールに向かって協力することが必要不可欠だが、不妊治療のゴールとはどのように設定するのがよいのだろうか

    高尾美穂

  • 世界で初めて体外受精による赤ちゃんが誕生したのが1978年。日本においても不妊治療を受ける方が増え、体外受精による出生児数も増えている。一方で「不妊治療を始める前に知っていただきたいことがある」と話すのは産婦人科医の高尾美穂先生。多忙な現代を生きるわたしたちは妊娠そのものをどう考えたらよいのだろうか

    高尾美穂

  • 妊娠37週から41週のママに起こる前駆陣痛。本陣痛の前に来る不規則な陣痛を指しますが、出産を控えて落ち着かない中で「この異変はもしかして本陣痛?」と勘違いしてしまうことも珍しくありません。この記事では、前駆陣痛の特徴や症状、その他の痛みとの違い、対処法や注意点、体験談をご紹介します。

    杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

  • 「子どもがほしい」そう考える夫婦が妊娠・出産を目指して取り組む「妊活」。晩婚化が進む日本では、比例して妊娠・出産を希望する年齢も高くなり、「不妊治療」を受ける方も年々増加傾向にあります。そんな妊活や不妊治療を検討する際に役立つ、基礎知識から不妊治療の課題、海外の事例などを紹介した記事をまとめました。

  • 読者からお悩みを募集し、子育て、教育、健康など各分野の専門家にご回答いただく人生相談コーナー。今回は丸の内の森レディースクリニック院長の宋美玄先生が、「3年後に自然妊娠したい」というお悩みに答えます。

    宋美玄(ソンミヒョン)

  • 妊娠兆候のひとつである「インプランテーションディップ」。妊娠を希望する方や、妊活を経験された方は、一度は聞いたことがあるかもしれません。いつ頃に見られる現象なのか、見られなくても妊娠している可能性はあるのか。また基礎体温との関係や、妊娠検査薬はいつから使えるのか、など気になるポイントを解説します。

    杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

カテゴリ一覧