【FP監修】世界のお金教育事情 なぜ今、日本の子どもに「金融教育」が必要なのか

【FP監修】世界のお金教育事情 なぜ今、日本の子どもに「金融教育」が必要なのか

2022.11.11

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福本眞也

福本眞也

1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP®認定者

1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP®認定者(日本FP協会)、2020年日本FP協会広報センタースタッフ 3男児の父。 三菱UFJモルガンスタンレー証券(ユニバーサル証券)、TD銀行・証券、クレディスイス証券、JPモルガン証券など日系・外資系大手金融機関勤務を経て2009年に独立。 金融の幅広い知識を持ち、個人相談、企業研修、マネースクール講師、金融記事執筆・監修などを務め、楽しく、わかりやすい金融コンサルティングを行っています。

日本の「金融教育」が諸外国に比べて遅れていると言われています。そこで今回は、日本の金融教育の「今」を世界の教育と比較。さらに未来を生きる子どもたちに必要な「金融リテラシー」について考えていきたいと思います。

急ピッチで行われる「お金教育」の現状

「金融教育を国家戦略として推進」する一大プロジェクトが加速

近年、電子マネーによるキャッシュレス決済の普及により、「現金をあまり持たない・使わない」人が増加。また、2022年度より高校の家庭科学習に「資産形成」が加わることを受け、子どもたちへの金融教育が急務であることが話題となりました。

しかも、2022年6月、資産所得倍増プランの策定について盛り込んだ「経済財政運営と改革の基本方針2022」等が閣議決定。その背景には「貯蓄から投資」を促し、適切な資産形成を加速させる目的があります。

つまり、いま私たちの生活に「金融リテラシーの向上」は欠かせないと言えるのです。

しかし、国内における金融教育の取り組みは、すでに15年以上前にペイオフ解禁となった2005年度を「金融教育元年」と位置づけてスタートしているのをご存じでしょうか。

では、なぜ日本の金融教育は進まなかったのでしょうか。

そして、海外に比べて日本の金融教育が遅れていると言われるのでしょうか。

 
※写真はイメージです(iStock.com/paylessimages)

金融教育が進まなかった理由

お金の話をするのは下品とする「考え方」

日本では古くからお金の話をタブー視する傾向があり、「お金の話をするのは下品」といった意識が働いていることが原因のひとつと言えます。

また、「お金儲け」といった言葉に、楽をしてお金を得るイメージがあることや「収入が能力の対価」と捉える価値観も根強くあり、さらには『金の切れ目が縁の切れ目』『地獄の沙汰(さた)も金次第』など、ことわざにも悪いイメージを想像させるものも少なくありません。

 
※写真はイメージです(iStock.com/itasun)

専門家への相談に対する「躊躇」と「抵抗感」

また、FPや税理士といった「お金の専門家」というと

・相談することで保険の勧誘をされそう…

・「そんなことも知らないの?」と無知や管理不足を指摘されそう…

・給与や財産などを話すのはちょっと抵抗が…

といった躊躇も加わり、気になってはいるものの後回しになりがちです。


貯蓄奨励運動として始まった金融教育の「歴史」

さらに、金融教育が進まなかった理由には日本経済と当時の社会背景も関係があると考えられます。

時代は、第二次世界大戦後に遡ります。

敗戦国となった日本は、戦後の復興にあたって巨額の資金が必要となった国民に貯蓄を奨励しました。

子どもに対してはおこづかいや貯金について、家庭における家計簿記帳の普及が当時の金融教育の一端とも考えられます。

※写真はイメージです(iStock.com/takasuu)

「金融教育元年」と言われた2005年からの日本経済のいま

1970年代の高度成長期、バブル期を経て2000年代に入ると、企業の事業再構築(リストラなど)の影響もあり、「年功序列」「終身雇用」といった仕組みに変化が生じ、政府も「官から民へ」「国から地方へ」「貯蓄から投資へ」と経済社会システムの改革を推進

少子高齢化により、「公的年金」「企業年金」が厳しい状態にあるとのことから、iDeCoをはじめとする個人型確定拠出年金が急速に普及します。

加えて2005年4月からはペイオフが解禁となり、個人一人ひとりが自己決定を迫られる機会が拡大することで、金融経済に関するリテラシーの重要性が高まりを見せることになります。

しかし、その後、リーマン・ショックやチャイナ・ショックなどで投資環境が悪化すると、金融教育どころではなくなり、いつしか世界からも大きく遅れることになるのです。

※写真はイメージです(iStock.com/jmiks)

失われた30年から「金融教育が国家戦略に」

金融庁は発表した「2022事務年度金融行政方針」には3つの重点課題を提示しています。

1.経済や国民生活の安定を支え成長へつなぐ

2.新たな成長が国民に還元される金融システムを構築する

3.金融行政をさらに進化させる

つまり、金融面から経済や国民生活の安定を支え、成長へと繋げるための環境整備を行うとともに「貯蓄から投資」へのシフトチェンジで国民に広く還元される循環を実現する。

また、職員の能力と資質向上を図り、さらには金融リテラシー向上を促す「金融教育」を広く提唱していくことが課題に盛り込まれています。

では、なぜ学校での金融教育の必要性が高まったのでしょう。


成人年齢引き下げによる「リスクヘッジ」

ひとつには、民法が改正され、2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられたことがあります。改定によりクレジットカードやローン等の契約が親の同意を得ずに可能になったことに加え、インターネット等による金融トラブルを回避するためにも早い段階で金融リテラシーが求められるようになったといえるでしょう。


老後に向けた「資金調達」

また、物価上昇に反して上がらない給与や老後に不足となる年金2,000万円問題。

さらには少子高齢化により公的年金の財政状況は悪化の一途をたどっていることを受け、起こり得る事態を受動的に受け止めていくのではなく、将来に向けた長期的な資金対策を考える必要があります。

※写真はイメージです(iStock.com/takasuu)

さらには、グローバル化に伴い、立ち遅れてしまった金融リテラシーの向上にようやく向き合わなくてはいけないとの判断もあります。

そこには、金融広報中央委員会が2016 年から3年おきに実施している『金融リテラシー調査』の結果も関係しているのかもしれません。

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遅れをとる日本の「金融教育」

『金融リテラシー調査(2022年)』によると、日本において金融教育の経験がある、もしくは金融教育を受けたと認識がある人の割合は、わずか全体の7.1%。

3年前の1999年で7.1%、さらに6年前の1996年は6.6%とその割合は増えてはいません。

 

アメリカとの比較

教育の遅れは、金融知識に関する問題の正答率の低さにも現れています。

米国FINRA(金融業界監督機構)が国民に行なった比較可能な正誤問題の正答率は、日本 47%に対して米国 50%。 知識面では複利、年齢別には若中年層、学歴では短大・専門学校等卒以上の正答率が米国対比見劣りしていることがわかります。

 

また、「金融教育を受けたことがある」と認識している人の割合は、日本 7.1%に対して米国 20%。なお、「金融知識に自信がある人」(「とても高い」と「どちらかといえば高い」との合計)の割合は、米国では回答者の 71%を占めており、日本の 12%を大きく上回っています。


OECD 調査との比較

しかも OECD 調査参加国のうち上位 10 か国と日本を比較すると、比較可能な正誤問題の正答率(知識面)では「インフレ」、「分散投資」が、行動面では「お金への注意」が劣っています。そして、知識・行動の合計では24か国のうち第8位に相当します。

このような状況からも、日本の金融教育は諸外国と比較すると遅れをとっているといえるでしょう。

 

世界の「金融教育」事情

では、諸外国ではどんな金融教育が実施されているのでしょう。


アメリカ

 
※写真はイメージ(iStock.comnarvikk/)

2007年の米国におけるサブプライムローン問題に端を発する住宅バブルの崩壊から翌2008年9月、ニューヨーク証券取引所の史上最大の株価暴落により広がった世界金融危機

この問題を契機に米国では、問題発生の要因を、金融商品を取り扱う企業側の問題だけではなく、消費者の金融知識および活用する能力の欠如にも一因があるとし、学校等で金融教育を導入する動きが拡大していきます。

但し、教育制度の運用は、州政府およびその下部組織である学区(地方教育行政区画)に委ねられているため、統一的な教育カリキュラムは存在していません。

また予算は州の税収となるため実際の金融教育は、NPO法人(非営利団体)が行っています。

多くの州ではその内容を取り入れたり、または直接団体と連携して学習基準を定め、多様な民間団体との連携により進められているのが特徴です。

学習内容としては、投資や資産運用というよりも、個人が日常生活で直面するクレジットカードやローン、保険などに対するリテラシー能力を養うことを重視

しかも、米国経済教育協議会(Council for Economic Education:CEE)が主導し、2年ごとに米国50州とコロンビア特別区での、金融教育の進捗調査を行っており、調査情報はWebサイトで公開され、進んでいる州、遅れをとっている州が一目瞭然となっています。

参考資料:『米国金融教育におけるJumpStartの役割』金沢星稜大学論集 第50巻 第1号

     『米国の学校における金融教育の動向』損保総研レポート 第101号

     『日本は進んでる?遅れてる?ー世界の金融教育事情』  楽天証券「トウシル」


英国

 
※写真はイメージです(iStock.com/LUNAMARINA)

英国は、EUの中でいち早く金融自由化を行った国であり、国家機関も金融教育にいち早く取り組んでいます。

2020 年11月、政府の外郭団体であるマネーアンドペンションサービス(The Money and Pensions Service (MaPS))が、国民の金融ウェルビーイング(金融面の幸福・充足)を確保するための今後10 年間の戦略をまとめた「The UK Strategy for Financial Wellbeing」を公表。

子どもや若者への金融教育を「金融の基盤」と位置付け、学校や家庭での取り組み強化を提言しています。

例えば、北アイルランド・スコットランド・ウェールズそれぞれで多少の違いはあるものの概ね3,4歳頃から算数(数学)をはじめ、幅広いカリキュラムの中で金融経済に関する能力を育成します。そして小学校修了時(11歳)までにはお金の計算や管理、予算の立て方や貯金、将来の計画と消費に関することを学びます。

これらの金融教育は学校や地方自治体だけでなく、金融機関や企業の支援を受けた団体等も関わっており、金融経済教育に関する統計やレポート、教材の作成、学校教育の現場ですぐに使用できる授業プランの配布等を行っています。

参考資料:『金融大国・英国の金融経済教育について』 (一財)自治体国際化協会

    『金融ウェルビーイングの基盤としての金融教育~英中銀の報告書から得られるわが国への示唆~』 日本総研


オーストラリア

 
※写真はイメージです(iStock.com/Caroline Brundle Bugge)

オーストラリアでは、2000年代初頭に若者の負債が社会問題化したのを契機に、政治的なコミットメントが形成されています。

そして、2011年に金融規制当局であるオーストラリア証券投資委員会(Australian Securities and Investments Commission(ASIC)により「国家金融リテラシー戦略」が策定。国民の金融面でのウェルビーイングを目指す活動が展開されています。

また、5歳からは算数(数学)、英語、科学、10歳からは経済・経営科目において、金融リテラシーに関する学習内容が正式に盛り込まれることとなりました。

しかもオーストラリア政府が運営しているサイト「moneysmart」(マネーズマート)で、幼稚園児から大人まで金融リテラシーを学んだり、自分の財務状況を確認したり、お金の問題を解決することができます。

参考資料:『オーストラリアの「国家金融リテラシー戦略」』野村資本市場研究所


北欧(スウェーデン・デンマーク・フィンランド)

 
※写真はイメージです(iStock.com/omersukrugoksu)

北欧のスウェーデン、デンマーク、ノルウェーの3カ国はユーロを導入せず、独自の通貨を用いていることもあり、キャッシュレス社会として知られています。

特にスウェーデンでは2012年、全国民に紐づけた個人IDと銀行口座をひも付けた決済認証システム「Bank ID」の基盤に、国と6つの銀行が共同開発したスマホアプリ「Swish」(スウィッシュ)の普及が国民の約7割に浸透。

若者にいたっては、9割以上が利用していることで「現金がなくなった国」とも言われています。

また、デンマークではキャッシュレス化の相乗効果として、現金厳禁を狙う強盗などの犯罪率が低下する一方で、現金しか使えない人が排除されつつあり、キャッシュレスの行き過ぎが社会問題にもなっています。

フィンランドの教育は、すでに20年以上前から教科や科目の枠にとらわれずに基礎教育(1~9年生)すべての科目にリンクされている横断型の授業スタイルをとっており、社会的および経済的に主体性を発揮し、個人的な財政管理ができる能力を有することをゴールとしています。

そんな背景もあり、OECDが実施している「PISA(ピザ:Programme for International Student Assessment)」いう世界共通調査(15歳児を対象に3年ごとに読解力・数学的・科学的な3分野のリテラシーついて調査を実施)でフィンランドは、金融リテラシー部門で世界第2位です。

国家戦略となる日本の金融リテラシー強化と展望 

日本でもPISAの調査は実施されているのですが、残念ながら日本は金融リテラシー調査には参加していません。

但し、2018 年調査 OECD 加盟国(37 か国)において日本は、読解力は11位、数学的リテラシーは1位、科学的リテラシーは2位といずれも世界トップレベルを維持しています。

 
※写真はイメージです(iStock.com/Vectorpower)

現在、世界各国で実施されている金融教育は、その国の経済発展の状況や福祉政策などによって異なっています。

また、ニュージーランドやフィリピンの学校教育では起業家教育を取り入れ、アメリカでも起業家教育は重要な経済教育の一分野となっているとも言われています。

金融庁が企業における金融教育を要望し、国家戦略として推進するよう金融庁が提言。また減税措置も検討しているとの報道もあり、まさに日本における本格的な金融教育は始まったばかりとも言えます。

先の見えない「VUCA(ブーカ)の時代」※と言われるように、子どもたちを取り巻く社会は、一人ひとりの自由度や選択肢が広がる一方で、ますます個人によるリスク管理が求められています。

この機会に親子で金融教育の学びをはじめてみてはいかがでしょう。


※「VUCA(ブーカ)」…Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉をとって将来の予測が困難な状態を指す。

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福本眞也

福本眞也

1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP®認定者(日本FP協会)、2020年日本FP協会広報センタースタッフ 3男児の父。 三菱UFJモルガンスタンレー証券(ユニバーサル証券)、TD銀行・証券、クレディスイス証券、JPモルガン証券など日系・外資系大手金融機関勤務を経て2009年に独立。 金融の幅広い知識を持ち、個人相談、企業研修、マネースクール講師、金融記事執筆・監修などを務め、楽しく、わかりやすい金融コンサルティングを行っています。

2022.11.11

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