【ガーナの子育て】村のコミュニティの中で社会性を育む

【ガーナの子育て】村のコミュニティの中で社会性を育む

さまざまな歴史や風土をもつ世界の国々では、子どもはどんなふうに育つのでしょうか。この連載では、各国の教育や子育てで大切にされている価値観を、現地から紹介。今回は、ガーナ北部の村の支援を行うNGOの運営や、アフリカ製品の日本への輸入販売事業を行う原ゆかりさんに話を聞きました。

アフリカ大陸の西に位置するガーナ共和国は、金、石油、カカオ豆の産地、そしてアフリカ内でもサッカーの強い国として知られています。面積は日本の約2分の1を占め、赤道直下で一年中気温が高いことも特徴です。

そのガーナの北部に位置する人口約2,000人のボナイリ村で、2012年からNGOを立ち上げ、その後、アフリカ製品の日本への輸入事業などで村人と協力しながら支援を行うのが原ゆかりさん。

原さんがボナイリ村を訪れたときに、日本と大きく文化の違いを感じたのは家族の形。都市部では特に若い世代で一夫一妻制が定着してきたものの、一部農村部では一夫多妻制が多くを占めるといいます。

「ガーナの田舎は基本的に大家族。家族、親戚、友だち、近所の人、伝統的コミュニティの中で生きるみんなで子育てをしている雰囲気は、昔の日本と似ているかもしれません。

経済的に余裕があれば、奥さんとその子どもごとに部屋が割り当てられていることもありますが、いずれにしても大体は同じ屋根の下で生活しています」

原ゆかり/株式会社SKYAH CEO、ガーナNGO法人 MY DREAM.org共同代表。2009年に東京外国語大学を卒業後、外務省に入省。在職中にMY DREAM.orgを設立し、ガーナ共和国ボナイリ村の支援活動を開始。2015年に外務省を退職後、三井物産ヨハネスブルグ支店に勤務しながらNGO活動に尽力しつつ、2018年に株式会社SKYAHを立ち上げ、アフリカ諸国と日本の掛け橋として活動中。(@Kazuma Ogura)
原ゆかり/株式会社SKYAH CEO、ガーナNGO法人 MY DREAM.org共同代表。2009年に東京外国語大学を卒業後、外務省に入省。在職中にMY DREAM.orgを設立し、ガーナ共和国ボナイリ村の支援活動を開始。2015年に外務省を退職後、三井物産ヨハネスブルグ支店に勤務しながらNGO活動に尽力しつつ、2018年に株式会社SKYAHを立ち上げ、アフリカ諸国と日本の掛け橋として活動中。(@Kazuma Ogura)

大きなコミュニティのなかで社会性を育む

「どの国でも家族や夫婦のあり方はさまざまだと思いますが、それは一夫多妻制でも同じ。旦那さんの理解があったり、円満な人間関係を築くようなケアが上手だったりする家庭では奥さん同士で担当を決めて円滑に家事をやりくりするケースもあります。

一夫多妻制のボナイリ村ではひとりっ子はまずいませんし、兄弟姉妹が20人ほどいることも普通。兄弟姉妹がそれだけ多いとひとりの子どもを丁寧に褒めるといった光景はあまりなく、子どもが悪いことをしたらしっかり怒ります。はたから見て自分の子どもだけ贔屓している感じはなく、どの母親の子どもであっても平等に接しています。

母親が何人かいるとはいえ、それ以上に子どもの数が多くとにかく母親の手が足りない。ですから、上の子が下の子の面倒を見て大家族の中でわいわい育っていく感じがありますね。小学1、2年生の子どもが赤ちゃんをおんぶして学校に行く姿も見られます。

赤ちゃんをおんぶする小学生(@Yoko Higuchi)
赤ちゃんをおんぶする小学生(@Yoko Higuchi)

家の中で手が足りなければ、親戚や隣人どうしで協力しあい子どもを育てるのが一般的で、本当に“村全体で子育て”している感覚。そのため農村部ではベビーシッターは有給の仕事として確立していません。

一方、都市部では核家族化が進んでいるため、ビジネスライクなベビーシッターなどのサービスが始まりつつあります。都市部では一夫一妻制の家庭が多く、中にはひとりっ子の家庭も。都市部と地方では家族のあり方も大きく異なります」

都市部と農村部では家族の形だけでなく、子どもを取り巻くさまざまな環境が異なります。都市部の子どもと違い、遊びたいと思った物の全てが手に入るわけではない農村部の子どもの遊び方は創造性に富んでいると原さんはいいます。

「サッカーボールで遊びたくてもなかなか手に入りにくいし、手に入ったとしても耐久性が弱くすぐに使えなくなってしまいます。子どもたちはゴミとして転がっていたプラスチックの袋を集め、紐やテープでぐるぐると巻いてボールを作っていました。

おもちゃを手作りする子どもたち
おもちゃを手作りする子どもたち

あとは空き缶を開いてラジコンを模した車を作ったり、パチンコやおもちゃの銃も自分たちの手で作り出します。生活の中に物が溢れているわけではないけれど、だからこそクリエイティビティが育まれていくのだと思います」

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母子の命を守る国民保健の導入

「ガーナの農村部では、日本でも昔そうだったように産婆さんが赤ちゃんを取り上げる自宅出産がまだまだ多く見られます。

病院が家の近くにあれば行きますが、ない場合は身重の体で何キロも歩いていくか、交通費を払って乗り合いの車で病院に向かうしかありません。このような負担が母親と赤ちゃんを出産時のリスクに晒していました」

こうした状況から原さんの運営するNGOと村人が協力し、2017年ボナイリ村にクリニックが完成。村の中で産前健診や予防接種が受けられることになり、母親と赤ちゃんに大きな安心をもたらしました。

ボナイリ村で撮影した生後1週間の赤ちゃん(@Kayo Yoshida)
ボナイリ村で撮影した生後1週間の赤ちゃん(@Kayo Yoshida)

さらに2005年にはガーナ国民の多くにとって手が届く国民保健が導入され、産前産後の健診や出産費用が無料となりました。これによって出産による母子の死亡率を食い止めることになったのです。

「出産に臨む多くの母親にアクセスできるようになった政府は、生後6カ月までは完全母乳を推奨しています。その背景として粉ミルクが手に入りにくいこともありますが、粉ミルクを溶かす水が原因で赤ちゃんが病気になってしまうことがあるから。

ボナイリ村の水道事情は、2000人の村人で2、3個の水道を共有している状況。井戸の水も併用していますが、生後間もない赤ちゃんへの使用は水質が懸念されています」

写真はイメージです(iStock.com/borgogniels)
写真はイメージです(iStock.com/borgogniels)

外務省の「世界の医療事情」によると、ガーナの上水道の普及率は30.0%、下水道の普及率は7.0%と衛生水準が低く、死亡原因の30.5%が食べ物や飲み物を介したコレラなどの感染症によるものとされています。

そのため母親の体を通った母乳は安全だとして、政府はリスクを避けるよう母親たちに懸命に伝えています。また、子どもたちの食生活も日本とは異ります。

「生後6カ月を過ぎた子どもたちが食べるものは、大人の食べ物をすり潰したもの。子どもの数が少ない都会では離乳食を作ったりしていると思いますが、兄弟姉妹が多い家では月齢に合わせて離乳食を作っている余裕はないのですね。

スーパーもありますが、行けるのは中流階級以上の家庭。それ以外は、食べ物は基本的に青空マーケットで買います。バケツに入った大きなネズミやカタツムリなどの珍味も売っているんですよ。

写真はイメージです(iStock.com/LindasPhotography)
写真はイメージです(iStock.com/LindasPhotography)

この青空マーケットはインフォーマルセクター、つまり納税者番号がついておらず法人格のない路上のお店で成り立っている市場。そう聞くと闇市のようなものを想像するかもしれませんが、閉ざされた怪しい雰囲気はなく開放的です。

インフォーマルセクターは国家の統計にこそ含まれていないものの、経済の実態を支えています」

親たちが子どもに託す思い

「ガーナには両親が揃った家庭、片親の家庭、お母さんが複数いる家庭、さまざまな家庭のありようが混在しています。

もともと企業にお勤めしている人の少ないガーナでは、フリーランスとして生計を立てている人がほとんど。母親たちも布を縫製したりシアバターを作ったりといった自営業や農業をしながら、育児を両立させています」

ボナイリ村の工房で縫製作業をする母親
ボナイリ村の工房で縫製作業をする母親

大学卒業後、外務省に務めた原さんは省内の留学制度を利用し、コロンビア大学でグローバルヘルス(国際保健)を学びました。半年間のインターンでガーナ北部に位置する人口2,000人のボナイリ村に訪れ、現地NGO法人”MY DREAM.org”を立ち上げました。

「NGOの活動を行なっているなかで一番心動かされたことは、親たちは自分たちの子どもに、自分が受けることのできなかった教育を受けさせたいと強く思っていること。

ボナイリ村に住み、共に活動を行うMY DREAM. orgの共同代表 Sayibu Zakaria氏は、農業を手伝うために泣く泣く高校進学を諦めなければならなりませんでした。けれど自分の子どもや、下の兄弟姉妹には同じ悔しい想いをさせたくないと、独学で英語を勉強し農業の知識を得て、農業で成功したお金で子どもたちを学校へ行かせた。

とても賢い人なので、本当はすぐにでも高い教育を受けたかったでしょうけれど、子どもの教育費をねん出することに時間を費やしたんです。自分が勉強できなかったという後悔を子どもの将来に託し、しっかりとバトンを受け継ぐ姿に感銘を受けました。

村のリーダーたち
村のリーダーたち

都市部では、『子どもに広い世界を見せたい』と願う保護者が、ガーナ国内では珍しい留学という選択肢を与えることもありますが、『世界に羽ばたくという選択肢も選べるように、子どもたちの未来が多様な可能性に溢れるように』と願う保護者の姿はボナイリ村でも同じです。

『今よりももっと幸せに生きてほしい』という想いは、都市部、農村部関係なく共通しているのではないでしょうか」

2018年にNGOの活動と並走して株式会社SKYAHを設立。ボナイリ村で作られた布製品の輸入販売によって得た収益をNGOに還元する活動は、ボナイリ村のリーダーをはじめとする村人の自助努力によって、自走できるようになってきたと原さんは語ります。

「もともと10年という計画だったので、2022年までに村の力で稼いで子どもを取り巻く環境を確立し、寄付から完全に卒業する見込みです。その後のことは村の人々で決めていく。

子どものモチベーションって、『こうなりたい!』というロールモデルが身近にいることだと思うんです。自分たちの手で生み出したものにはお金を出して買ってもらう価値があり、それで得たお金で充分に生活していけるという大人の姿を子どもに見せる。

そうした活動を通して、未来を切り拓こうとする村の子どもたちに留まらず、ガーナの、ひいてはアフリカの子どもたちのロールモデルを作っていきたい。

原さんとボナイリ村の人々が協力して建てたMY DREAM幼稚園で勉強する子どもたち
原さんとボナイリ村の人々が協力して建てたMY DREAM幼稚園で勉強する子どもたち

ガーナと8年関わってきて都市部、農村部関係なく全土に共通して言えることですが、ガーナの人たちはとても面倒見がいい。お互いに支えあって生きていると感じます。

ボナイリ村がそうだったように、国が教育を通して子どもたちを取り巻く環境を改善していくことができれば、お互いに支え合って生きるガーナの中でプラスの連鎖が生まれていくのだと思います」


<取材協力>

Sayibu Zakaria(MY DREAM. org共同代表)

Shula Glymin(教員、ガーナの教員の質向上のために取り組むThe Educators' Network創設者)

Akosah Yadom Holy(MY DREAM. orgプロボノメンバー)

在日本ガーナ大使館スタッフ複数名

<取材・執筆>KIDSNA編集部

画像
<連載企画>世界の教育と子育て バックナンバー

2020年09月28日

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