【非認知能力/前編】子どもの能力を伸ばす前に見直すべき「親のマインド」とは

【非認知能力/前編】子どもの能力を伸ばす前に見直すべき「親のマインド」とは

IQや学校のテストのように数値化できる認知能力に対し、数値化しにくく、人間力や生きる力とも呼ばれる「非認知能力」。幼児教育の分野で注目を集めるこの能力は、どのように身に付けていけばよいのだろうか?第1回目は、一般社団法人 FutureEdu 代表理事の竹村詠美さんに話を聞いた。

狩猟社会(Society1.0)から農耕社会(Society2.0)へ、18世紀半ばに始まった工業社会(Society3.0)を経て、インターネットが世界を繋ぐ今、私たちは情報社会(Society4.0)を生きています。

そして次なるSociety5.0を生きることになる子どもたちは、大きなパラダイムシフトのただ中に。

そんな誰も予測できない未来を生き抜くために近年注目が集まっているのが、「非認知能力」です。

100校を越える欧米やアジアのトップ校・先端校の実践を学び、30を越える欧米の学校を訪問してきた竹村詠美さんに、非認知能力とはどのような力なのか教えてもらいました。

竹村詠美(たけむら・えみ)

竹村詠美(たけむら・えみ)/一般社団法人 FutureEdu 代表理事、一般社団法人 Learn by Creation 代表理事、Most Likely to Succeed 日本アンバサダー、Peatix.com 共同創業者。マッキンゼー米国本社、日本のアマゾンやディズニーなど外資系7社を経て、2011年にPeatix.comを共同創業。 2016年以来グローバルなビジネス経験を生かした教育活動に取り組み、教育ドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed」上映・対話会の普及、 2日間に2500名が集った「創る」から学ぶ未来を考える祭典、「Learn by Creation」の主催や研修も行う。『新・エリート教育~混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』(日本経済新聞出版)を2020年7月23日に上梓。クリエイティブリーダーを育むための学習者中心の学びや、ホール・チャイルドを育む環境をテーマに活動中。総務省情報通信審議会委員など公職も務める。経済産業省の未来の教室での研修採択実績。講演や執筆も多数。2児の母。

【非認知能力/後編】子どもの探究心を育むプロジェクトのつくり方

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幼児期は非認知能力を育むベストタイミング

――「非認知能力」という言葉をよく聞くけれど、実際にはどんなスキルなのか分からない親も多いのではないかと思います。

非認知能力とは、感情のコントロール力、誠実さ、価値観、態度、コミュニケーション能力などを指し、学業の成果を左右する「自分は努力により成長し続ける」と考える成長マインドセットや成功の大きな因子と言われている自己調整力やグリットといった力も含まれます。

非認知能力は、ライフスキルやソフトスキル、コンピタンシーなど、いろいろな言葉で表現されており、定義はひとつではありません。認知能力のように数値化しにくい能力であるといえるかもしれません。

iStock.com/visualspace
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非認知能力の対にある「認知能力」は、短期記憶、長期記憶、論理や推論、視聴覚の処理や処理能力など、数字で測れる能力として浸透しています。

たとえば学習指導要領に則って「漢字を一日10個覚える」「何分以内に計算問題ができる」など、能力の向上を点数や評価で示しやすく、言語化しやすい能力です。従来的な学校教育の中心は5教科に代表される認知能力の向上です。認知能力は社会生活に不可欠な能力ですし、非認知能力と比べるとわかりやすいので注目されやすいといった側面もあります。

――非認知能力を育むために最適な年齢はいつですか。

多様性の社会といわれて久しいですが、我々一人ひとりは個性をもって生まれ、育ちや環境の影響も受けながら人格を形成していきます。

幼児期はまだ人格ができあがる前の土台作りの時期で、非認知能力を育む大切な時期でもあります。

 
 

日本には子ども一人ひとりの好きなこと、やってみたいことを否定せずに伸ばしていく中で、子どもたちの非認知能力を育んでいる素敵な保育園や幼稚園がたくさんあります。

加えて幼児は家庭で過ごす時間が長く、子どもが保護者と過ごす時間も長い時期です。いろいろなことにチャレンジすることを恐れない時期特性を生かし、園と家庭の両面から非認知能力を伸ばすことができるとても貴重な時期なのです。

アメリカでは「ホール・チャイルド」を育てるとよく言われますが、”Whole"は全体という意味で、心身頭(ハート、ボディ、マインド)のすべてを育むこと。子どもがその子らしく健やかに、認知面だけでなく非認知面の成長を支えるという考え方です。

こうした全人教育を取り入れる幼稚園や保育園は多いものの、日本には小一の壁があります。

多くの小学校で従来の集団型の教育が行われ、椅子に座って前を向いて、素早い回答を求められるようになる……つまり認知能力に偏重になっていくのです。

iStock.com/maroke
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ついつい早く正解にたどり着くことを大人は子どもに期待しがちですが、本来学びには試行錯誤が大切です。

ウォーレン・バーカーの著書『Q思考』では、子どもは2歳から5歳の間に平均4万の質問をするということが紹介されています。しかし、現在の伝統的な教育システムにおいては、正解を効率よく学ぶことが求められ、小学校入学以降、子どもたちは質問する回数が減り、18歳になる頃には4歳児の4分の1ほどに減少するといいます。

一方で、問いを立てられる子どもはより好奇心を持ち、難度の高い問題にもより深い理解を示します。

iStock.com/pondsaksit
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子どもの発達段階に合わない早期教育の弊害が欧米を中心にささやかれています。

子どもには発達の凸凹があるのが当たり前で、「幼児期にお友だちがひらがなを全文字書けるので我が子も」と焦ることは得策ではありません。認知能力はわかりやすいだけに、身に付けようと躍起になると親子間でストレスが溜まりやすいのです。おしつけがましくなってしまい、ケンカの種になることもありますよね。

中には計算が好きな子ども、漢字をたくさん学びたい子ども、本を読みたい子どももいるでしょう。逆の順番、つまり子どもの関心からその子なりの挑戦や探究につなげていただければと思います。

ポケモンが大好きだから、ポケモンの本を読みたくて文字が読めるようになったなど、関心があれば子どもはあっという間に学べますが、無理強いすると本嫌いになる可能性もあるので気を付けたいものです。楽しみながら学ぶことで関心の芽を育てるにはどうすれば良いのか、と考えることが大切です。

子どもへの過度な「指示」が非認知能力を潰してしまう

――子どもが熱心に取り組んでいると、うまくいくように手を添えてしまいたくなります。

特に小学校低学年くらいまでの子どもを育てていると、子どもが小さいが故に「やってあげなければ」「諭さなければ」と、子ども扱いをする感情はごく自然に発生しやすいものです。

iStock.com/MStudioImages
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子どもの人権を考え、ひとりの人間として認めることから始めないと、子どもがぐずったり、ネガティブな行動を見せたときに、保護者はすぐに反応して怒ったり静止させようとしてしまいます。逆に先回りしてやってあげてしまうことで、子どもが挑戦する機会を奪うということも、知らず知らずのうちにやってしまいがちです。

それが日々積み重なると、子どもの思いが尊重されないまま、言われたことをただやるという受動的な態度が家庭の習慣になってしまいます。

つまり、こうした指示をする保護者、言われたことをやる子どもといった親子関係……これが非認知能力を潰してしまうのです。

対話や反論するチャンスもない幼児時代、低学年時代を過ごすと、子どもが中学生になる頃には「こういうものだ」と思うようになるし、言われたことはイヤイヤながらこなすけれど、やりたいことがないという子どもになってしまう危険もあります。

 
 

保護者ができることは、子どもの生の感情を自分自身で少しずつコントロールできるようにする”自己調整能力”を伸ばすこと。「どうしてやりたいの?」「こういう考え方はどう?」と、コーチ的な役割で建設的な話し合いをすることです。

そうすることで思春期に入って言いにくいことがあったとしても、「怒られずに親身に相談に乗ってもらえるはず。だったら話してみよう」という思いを抱くのではないでしょうか。

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落ち着いた対話を行う「民主的な子育て」がカギ

――建設的な話し合いが重要であることを頭ではわかっていても、実際、泣いたり怒ったりしている子どもを前にすると難しそうです。

親子の関係がネガティブなものにならず、何でも遠慮せず話せる関係になるには、日頃から落ち着いた対話ができることが大切です。

子どもはイヤイヤと叫んでいるからといって、保護者もいっしょになって大声で叱ったりするのではなく、いったん静かにひとりで考えることができるスペースで落ち着かせることが大切です。

iStock.com/maroke
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アメリカでは「民主的な子育て(Authoritiative Parenting)」といって、保護者も子どもも落ち着いた状態と環境で対話をすることが推奨されています。民主的な子育ては、1960年代に発達心理学者のダイアナ・バウムリンドの研究で提唱された3つの子育てスタイルのうちのひとつ。

強圧的で権威的な子育てスタイルや、反対に「なんでもいいよ」という消極的な子育てスタイルに比べると、民主的な子育てスタイルの家庭で育った子どもの方が成績がよく、将来的に活躍していることが各種の研究でも報告されています。

うちの子どもが通っていた学校を例に挙げると、保護者と先生で民主的な子育てを実現するためのワークショップを行っていました。私が3歳児になりきり、別の母親と対話するといったロールプレイを交互にやりました。

「なるほど、こういうふうに言われるとこんな気持ちになるんだな」と子どもの立場を体験することで、子どもの気持ちに気付くことができるかもしれません。日本でも体験できるところはたくさんあるので、短い時間でもぜひやってみてほしいと思います。

iStock.com/fizkes
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子どもが小さいときって、あまりにも大人と違いすぎて、その子の視点から世界がどう見えているかなんて想像しにくいかもしれません。中高生くらいになってくると対等に話せますが、それまでは子どもが子どもに見え過ぎてしまうんですよね。

しかし、親が必要以上に子どもを子ども扱いすることで、子どもが与えられた指示をこなすだけになるよりも、落ち着いて対話のできる「民主的な子育て」を行うことで子どもは自分の感情と向き合い、客観的な視点や判断をする習慣が身に付いていきます。そうして、少しずつ非認知能力が育まれます。

 

時間がないから難しいと思うこともあると思いますが、自分自身の育児を振り返っても、つくづく子育ては急がば回れだと思います。

「今日の夕飯を何にするか」といった細かな意思決定が日常には溢れています。小さなことであっても、子どもなりの意見があるはずです。

子どもの意見を聞き、対等に話し合い、時には子どもの意見を採用することで、子どもは自分の意見が認められることを実感できます。受動的で非力な存在ではなく、家族に貢献をしている実感を得ることは、自己肯定感や自己効力感の向上にもつながります。

 
 

ほかにも、習い事をしていると、子どもが「辞めたい」というシーンに遭遇するかもしれません。

そんなとき、すぐに辞めさせるのではなく「ここまでがんばろう」と目標を立て、「ここまで」の成長を可視化してあげる。

そうすることで100%好きではなかったり、少し嫌だなと感じていた習い事も、悪い思い出として終わるのではなく、一定の成果を上げたという出来事に変換できます。

特に4歳以降、急激に言語化できるようになってくるので、時間の許す限り対話を重ねながら、子ども自身の意思によって生活を決めていく経験を少しずつ積んでいく。その機会を作ることが大切です。

保護者自身も非認知能力を育てよう

――子どもの非認知能力を育むために、保護者はどのようなマインドを持って接すればよいのでしょう。

いい親になろうとがんばり過ぎてしまうとストレスになります。誰だって子育てを楽しめるような親子の関係性を築きたいと思いますよね。

そのためには子どもの非認知能力よりも先に、保護者自身の非認知能力を育む必要があります。

学校で例えると、アクティブラーニングの授業をする先生がアクティブラーナーでないのはおかしいですよね。

生涯学習の姿勢や、失敗を恐れず前向きに取り組む姿勢が身についていない先生がアクティブラーニングを説くことは難しいと思うのです。

 
 

自己調整力があり自立していて、自分の意見が言えて他人に優しい人……など、こうなってほしい子ども像がそれぞれあると思います。その理想に対して、保護者自身のマインドや生活態度はどうなのか、どのような人間であるかということは意外と見落とされがちです。

ジャコモ・リッツォラッティ教授は、脳内において、目にした行為をあたかも自身のものであるかのように「共鳴する」運動神経細胞、「ミラーニューロン」を発見*しました。

小さい子どもは脳の発達の過程で、このミラーニューロンがよく働くようになっています。つまり、保護者に呼応した態度を身に付けやすいのです。

たとえば、小さな子ども同士はハーフ、白人、黒人、どんな人種だろうと関係ありません。遊んでいて楽しいからいっしょにいるのです。

しかし、家庭で保護者がポロッと「〇〇ちゃんは外国人だからね」と分断を促すような発言をしてしまうと、子どもは「〇〇ちゃんは自分とは違う生き物なんだ」と心の境界線を引いてしまう可能性があります。差別的な言動は子どもから始まっているものではないのです。

逆にお子さんが「〇〇ちゃんの肌の色はなぜ✕✕なの?」と聞いてきたら、「世界にはさまざまな肌の色の人たちがいるけど、実は大昔に人間はみんなアフリカから来ているんだよ」と説明してあげたり、「よく観察してみたら、クラスのみんなも少しずつ肌の色が違うよね。みんな違うのって素敵だよね」と多様性を肯定する話し合いをしてあげることも有効でしょう。

保護者の言動を子どもはよく見て、よく聞いています。家庭や会社の悪口もしっかり聞いていますが、一方で母親が新しいことに挑戦して格闘する姿も子どもは見ています。

*「ミラーニューロン」は何の役に立つのか?(WIRED)

iStock.com/LightFieldStudios
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非認知能力を身に付けるために何をすべきかとロジカルに考えるよりも前に、保護者は子どものロールモデルであると認識することが大切です。

つまり、子どもの成長と保護者の成長は分けて考えず、子どもの非認知能力を伸ばすために、親もいっしょに非認知能力伸ばすように心がけると、ともに成長を味わえるのではないでしょうか?

そのために必要な成長マインドセットとは、「自分の能力はもともと決められたもので努力しても変わらない」という思考の逆で、「自分の能力は努力によって成長させることができる」という思考のことです。

親が自らの成長マインドセットを積み上げることで、結果的に子どものよきロールモデルになります。

 
 

たとえば、今、親である自分自身が夢中になっていることがあるか考えてみてはいかがでしょう。興味関心のあることに、小さな一歩でもいいから何か始めてみる。親子でいっしょに取り組めることだとさらにいいですね。

自分が成長マインドセットを失っていると、子どもにそのマインドを持ってもらうことはなかなか難しい。そして、新しい挑戦は落ち込むことの連続です。

子どもといっしょに育っていこうというスタンスで取り組むといいと思いますし、私自身も子どもに育てられたなと感じています。

――後編では、非認知能力を育む子どもへの接し方について聞いていきます。

【非認知能力/後編】子どもの探究心を育むプロジェクトのつくり方

【非認知能力/後編】子ども探究心を育むプロジェクトのつくり方

 

新・エリート教育~混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?

竹村詠美 著

1,980円(税込)日本経済新聞出版


<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部


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2021.03.17

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