【習慣の科学】やる気に頼らず子どもが今すぐ「やる」しくみ

【習慣の科学】やる気に頼らず子どもが今すぐ「やる」しくみ

夏休みも終わり、いよいよ新学期がはじまります。早寝早起き、学校の準備、宿題、習いごとの練習……子どもにやる気を持たせたいのに、「やりなさい!」と声をかけても毎日続かないと悩む保護者も多いでしょう。なぜ習慣にするのが難しいのか?どうすれば習慣になりやすいのか?「行動科学マネジメント」の専門家・石田淳さんに聞きました。

夏休み、そして新学期のはじまり。

早寝早起きの生活リズム、翌日の学校の準備、学校や塾の宿題、習いごとの練習……子どもにやる気を持たせて、なんとか習慣付けさせたいのに、「やりなさい!」と声をかけても、なかなか毎日続かないと悩む保護者も多いでしょう。

なぜ、習慣にするのが難しいのか?

どうすれば、習慣になりやすいのか?

人間の行動を科学的に研究する「行動分析学」をベースにした「行動科学マネジメント」を日本に普及し、小中高校生向けの学習塾も運営している石田淳さんに、いつ、どこで、誰がやってもうまくいく方法を聞きました。

親の「やりなさい!」では子どもは習慣化できない

子どもがやるべきことをできていないとき、「やる気がなくだらけている」「意志が弱い」と思うことはありませんか?

たとえば、子どもに学習習慣を身に付けさせたいとき、親が子どもに「勉強しなさい!」と言いがちですが、それでは余計に意欲が低下し、習慣にはなりません。

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行動の専門家である私からすると、「意志の力に頼って物事を続け、成果を出す」というのは奇跡に近いほどハイレベルな行為です。

では、何に着目すべきか?

それは、人の内面ではなく「行動そのもの」です。

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行動科学マネジメントでは、人が何かを継続できない理由は、次の2つのうちどちらかしかないと考えています。

1:やり方がわからない

2:やり方はわかっているけれど続けられない

子どもの場合、習慣化したくてもそのやり方がわからないことがほとんど。

「勉強しなさい」「真面目にやりなさい」とあいまいな精神論で声をかけるのではなく、行動に着目し、具体的にどんな行動を取るかを示し、それを仕組み化することで毎日のルーティンとなり、習慣になっていきます。

そもそも、習慣をつけるためにやる気や意志などの「気持ち」が必要ないのは、みなさんの毎日の習慣を思い出してみてもらえると分かると思います。

歯をみがいたり、お風呂に入ったり、着替えたり……これらはすべて、毎日無意識でやっていることではありませんか。

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しかし歯みがきひとつとっても、元をたどれば、幼児期に、親が子どもといっしょに訓練をして身に付けたものであるはずです。

それと同じように、勉強を習慣化したかったら子どもが「自然と」「無意識に」行動できるような工夫を重ねることが大切なのです。

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人が「行動」を起こす原理原則

行動科学では、「人の行動には必ず理由がある」考えます。

たとえば、「暑いからエアコンのスイッチを入れたら涼しくなった」というように、「~だから」→「~する」→「~になる」という行動が発生する因果関係を「ABCモデル」といいます。

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これを子どもの勉強に当てはめると、こうなります。

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つまり、何らかの行動を習慣化したい場合、「行動しやすい環境を整えて」→「効率的に行動し」→「また行動したくなるような結果を得る」ことで、このサイクルはくり返されるのです。

もしうまく習慣化しない場合は、このABCのどれが悪かったのかを見直し、改善していくことでうまくルーティン化していきます。

身に付けたい習慣は「増やしたい行動」か「減らしたい行動」か?

行動がくり返される=習慣化する仕組みがわかったところで、どんな行動を習慣化したいのかを考えてみましょう。

人の行動は「増やしたい」か「減らしたいか」の2パターンしかありません。

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「勉強時間を増やしたい」「ゲームを減らしたい」といった目標それぞれに対し、こうした習慣化を邪魔する要素があります。

そのため、ふだんの行動を分析し、「行動しやすくする」あるいは「行動しづらくする」ことで邪魔する要素をなくすことが大切です。

先ほどの「先行条件→行動→結果」のABCモデルに沿って、「環境を整える」「効率的にやる」「また行動したくなる結果を得る」といった工夫をして、習慣を強固なものにしていきましょう。

ここからは、それぞれを効果的に行うためのテクニックをご紹介していきます。

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たとえば、「勉強を増やす」「ゲームを減らす」ことを目的にする場合。

その行動は「いつ」「どこで」「何が原因で」起こりやすいのかを探り、その行動をする直前の環境を整えたり、行動するときにサポートになるようなものは何か、考えてみましょう。

これを「先行コントロール」といい、環境・条件などを意図的に変えることで行動をコントロールするテクニックです。

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増やしたい行動でも、減らしたい行動でも、意識するポイントは3つ同じ。

行動が発生する要因を増やす/減らすことで、確率を上げる/下げる「行動の補助」、メリットやごほうびをつくったり、代わりとなる行動を見つける「動機付け条件」、行動をしやすく/しにくくする「ハードルの調整」です。

このように、まずは環境を整えてあげれば、どんな人でも100%行動を起こすことができるというわけです。

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冒頭で、「勉強しなさい!」というあいまいで精神論的な声かけでは、勉強のやり方がわからない子どもには響かないという話をしました。そのとき、必要なのは「何をどのようにすればいいのか」を具体的に伝えることです。

小学校に入学したばかりの頃は遊びの延長で楽しんで学べたものも、内容が複雑になっていくにつれてなかなか正解にたどり着けなくなり、勉強にネガティブな思いを抱くようになります。ここで、そうした状況にさせない、またはその状況を変えていくことができるかが重要です。

そこで、親がしなければならないのは子どもに「勉強は大変じゃない」「これくらいならできるかも」と思わせること。そこで、「ちょっとずつやることで達成感を得る」「楽しくやることで習慣を定着させる」という方法が行動科学マネジメントにあります。

まず、「ちょっとずつやる」。いきなりがんばろうとしてしまうから、人はなかなか始められないのです。少しずつやることで達成感を得られやすくなるので、先延ばしにせず、簡単に続けられるようになります。

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チェック表やポイントカードは、子どもたちはとても喜びます。スモールゴールで小さな目標を達成させ、そのたびにシールやスタンプをつけてあげれば行動が見える化し、達成感も得られます。

また、ピンポイント行動は成果=達成感に直結する行動のこと。勉強のやり方を理解できていない段階の子どもにとって、学習習慣をつけさせるためのピンポイント行動は「決められた時間だけは勉強する」ということです。

量ではなく時間を指針にすることで、「毎日30分は絶対に勉強の時間なのだ」という認識が子どもに定着します。そうしたら、どんな内容をやるか、どれくらいの量をやるかについて検討していくのです。

「10ページやる」だと「とにかく終わらせればいい」という学習スタイルを覚えてしまう危険もあり、それよりも「10分やる」方が自分のペースで取り組むことができます。

心理学者リューマ・ツァイガルニクによる「ツァイガルニク効果」では、「人は達成したもののことは忘れやすいが、未達成のものならよく覚えている」といわれています。時間で区切ることで中途半端なところで終わってしまうのは、悪いことではないのです。

次に、「楽しくやる」テクニックです。

せっかくはじめても、苦痛に感じる行動は習慣化しません。チャレンジすることを楽しみに感じ、習慣を定着させるためのコツがこちらです。

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心理学者デイヴィッド・プレマックが提唱した「プレマックの原理」は、「好き・得意な行動」と、「嫌い・苦手な行動」あったとき、「嫌い・苦手な行動」を先にやった方が効率が上がるというもの。

たとえば、算数が苦手で国語が得意な場合、算数を先にやることで、次にやる国語がごほうびに感じられ、算数をやる動機が強化されるのです。

新しい習慣をつけるにはできるだけ抵抗をなくすことも大切です。

そこで「脳の作業興奮」を利用しましょう。

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勉強習慣をつけるにも、片付けや翌日の準備などの習慣をつけるにも、まずは最初の5分を集中してできるようにすること。そうすればその後も集中力は持続し、最後までやってしまいたい気持ちになるはずです。だからこそ、最初の5分は易しい内容にすることもひとつのコツです。

また、行動科学マネジメントでは、ある行動を増やす働きかけのことを「行動強化」といいます。そのひとつが、「ごぼうびとペナルティ」。

30分勉強できたらおやつを食べるというごほうび、もしくは30分できなかったらおやつを食べれないというペナルティを設定することで行動しやすくなり、目標達成率もアップします。

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また、行動分析学では、行動を「強化」するだけでなく、「減少」「消去」する働きかけもあるとされています。

図にあるように、報酬や罰、褒められたり叱られたりといった第三者からの刺激によって行動する頻度が促進されたり抑制されるものなので、子どもに習慣をつけさせたい場合は大人の「リアクション」も大切です。

次から、また行動したくなるようなリアクションのコツをご紹介します。

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習慣化のために大切なことの最後は、ABCモデルの「結果」の部分です。

行動しやすい環境が整い、効率的に行動ができても、その結果が良いものであればくり返そうとし、悪い結果であればとぎれてしまいます。

子どもにとっての良い結果とは、ひとつは「やったらできた」という達成感です。先ほど、行動を効果的に行う「ちょっとずつやる」テクニックの部分がそれにあたります。

そしてもうひとつが、「やったら褒められた」という喜びです。褒めてもらえるとわかったら、子どもはその行動をくり返そうとします。その際に、より効果的に褒められるテクニックをご紹介します。

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MORS(モアーズ)の法則は、子どもの行動を褒めるときだけではなく、目標設定をするときにも役立ちます。

たとえば、「〇〇をがんばる」「〇〇を意識する」「〇〇を整理整頓する」という目標の立て方や指示の出し方は、あいまいでどう行動したらよいか分かりづらく、さらにできたかどうかが測れないため達成感も得られません。

だからこそ、「3カ月後のテストで10位以内」「毎日1時間、3科目」といったように数値化された具体的な設定が重要です。

また、子どもの行動に対してのリアクションやフィードバックは「60秒以内」がおすすめです。これを「即時強化」といいます。

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ある行動を「起こそう」とする動機は、外発的動機と内発的動機の2つにわかれます。

褒める行為はこの外発的動機にあたり、「叱られたくない」「褒めてもらいたい」といった自分以外の何かによってやる気が引き出されることを指します。

一方で内発的動機は「これができるようになりたい」「もっと知りたい」と自分自身でやる気を引き出すこと。

新しい習慣をつけるとき、「子どもが自発的に行動できるようになってほしい」と考える保護者の方も多いですが、そもそもどう行動していいかが分からない段階で、いきなり自発的に行動するようになるのは難しいものです。

最初は、親がリアクションやフィードバックをする外発的動機からスタートし、くり返していくことで、子どもは次第に自ら習慣を続けられるようになっていくでしょう。

ここまでご紹介した通り、物事が続かないのは、「意志の弱さ」とは関係ありません。「続け方」を知っているかどうか、それだけなのです。

子どもが言うことをきかない、教えた通りにできない……そんなときは、どんな子でも「自然に」「無意識に」続けることができる仕組みをいっしょに作ってあげましょう。

Profile

石田淳

石田淳

社団法人行動科学マネジメント研究所所長。株式会社ウィルPMインターナショナル代表取締役社長兼最高経営責任者。米国行動分析学会(ABAI)会員。日本行動分析学会会員。日本の行動科学(分析)マネジメントの第一人者。アメリカのビジネス界で絶大な成果を上げる人間の行動を科学的に分析する行動分析学、行動心理学を学び、帰国後、日本人に適したものに独自の手法でアレンジし「行動科学マネジメント」として展開。現在は、日本全国の人材育成、組織活性化に悩む企業のコンサルティングをはじめ、セミナーや社内研修なども行う。著書に『教える技術』(かんき出版)など多数。

2021.09.02

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