西成を「家族が集う小奇麗な街」にしてどうする…紋切り型の「金太郎飴タウン」ばかり造る再開発が乱発するワケ
短期的利益ばかりを求めて、街を「育てる」という感覚がない
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かつて日雇い労働者の街として知られた大阪市西成区あいりん地区。しかし今、その姿は大きく変わりつつある。外国人旅行者、YouTuber、そして中国資本――。さまざまな属性の人々が入り乱れるこの街は、どこへ向かうのか。『ワイルドサイド漂流記 歌舞伎町・西成・インド・その他の街』(文藝春秋)を書いたルポライターの國友公司氏と『ニセコ化するニッポン』(KADOKAWA)などの著書がある都市ジャーナリスト谷頭和希氏が、日本の都市開発について語った――。(後編/全2回)
西成は「危ない街テーマパーク」になってしまった
【國友】僕が西成区あいりん地区(以下、西成)に住み込んでいたのは2018年頃ですが、当時はYouTuberなんてほとんど見かけませんでした。それがここ5~6年で爆発的に増え、その結果、西成は「危ない街テーマパーク」になってしまった気がするんです。
【谷頭】それ、めっちゃ思います。面白半分で乗り込んでくるYouTuberたちによって、かつてヨーロッパ人がアフリカ大陸の異文化を珍しい見世物として眺めていたような搾取的な構図が生まれている気がします。ただ、そう思いつつも、自分自身もまた、西成を「消費」しているのではないか、と問い返される感覚はありますね。
【國友】そうなんですよ。僕なんか実際に西成でYouTubeの撮影もしていますし。自分もその一人なんじゃないか、という自問は常にあります。谷頭さんは最近の西成に行かれましたか?
【谷頭】はい。ここ2、3年、大阪での仕事の際に動物園前駅近くのドヤに泊まったりしています。ロビーこそ外国人バックパッカーやビジネスパーソン向けにお洒落なノマドワーカー空間を演出していますが、部屋に入ると昔ながらのままで、ゴキブリだらけだったりします(笑)。
ガワだけキレイになり、危なさが失われた
【國友】わかります(笑)。ロビーは綺麗なのに、部屋は何も変わっていない。側だけ整えているだけなんです。そして、その「テーマパーク化」がもたらした皮肉な結果として、みんなが「危ないぞ」と騒ぎすぎたために逆に多くの人が訪れ、街が一般化し、本来の「危なさ」が失われてしまったように感じます。でも、街はある日を境に劇的に変わるわけではなく、だんだんと変わっていくものじゃないですか。だから、「この街も変わったな」なんて言いつつ、誰も昔の姿を覚えていない。
【谷頭】『ワイルドサイド漂流記』でも西成の変化に対して抱くそんな寂しさを書かれていましたね。