なぜ天皇は「自らの人生」を決められないのか…島田裕巳「皇位継承問題に欠けている最も肝心なこと」

なぜ天皇は「自らの人生」を決められないのか…島田裕巳「皇位継承問題に欠けている最も肝心なこと」

「開かれた皇室」という名の最も窮屈な「家」

皇位継承議論の盲点とは何か。皇室史に詳しい宗教学者の島田裕巳さんは「皇位継承をめぐる国会の論議において、天皇や皇族という“当事者”の意見を無視したままで果たしていいのだろうか」という――。

自分の人生を決められない理不尽さ

自分の家をどうしていくのか。もしそれが、自分たち家族の意向で決められないとしたら、私たちは理不尽だと感じるに違いない。

それが家のことではなく、自分自身の人生についても言えるとしたら、その思いはさらに強まるはずだ。

もちろん、家についても個人についても、状況の違いがあり、経済や人間関係、社会関係によって、そのあり方が制約を受けることはある。だが、そこに当事者である自分たちの考えや意見がまったく反映されないことは、ほとんどの場合あり得ない。

ところが、天皇や皇族の場合には、まさにそうした事態が起こっている。皇位継承の安定化にむけての議論が進み、国会でも審議されているが、そのことに対して天皇や皇族が自分の考えや意見を述べる機会はまったく用意されていないのだ。

日本国憲法の第4条には、「国政に関する権能を有しない」と定められている。天皇が、自らの境遇について発言することは、「国政に関する権能」を行使したことと見なされ、それが封じられている。憲法では、皇族については何も述べられていないが、この原則が適用されると見なされている。

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須崎御用邸で静養するため伊豆急下田駅に到着し、集まった人たちに声を掛けられる天皇、皇后両陛下と長女愛子さま=2025年8月1日午後、静岡県下田市[代表撮影]

必然だった「生前退位」のスクープ報道

だからこそ、現在の上皇が「生前に退位したい」という意向を示したときには、大きな騒ぎになったのだ。誰も、上皇がそんな意向をもっているとは考えてもいなかったわけだが、2016年7月13日午後7時のNHKニュースがそれをスクープとして報道し、8月8日には上皇自身の考えがビデオメッセージとして国民に伝えられた。

これは極めて異例のことだったものの、同年9月23日、当時の安倍晋三首相は「天皇の公務の軽減等に関する有識者会議」の開催を決め、10月17日には第1回の会議が開かれた。

この会議は翌17年4月21日まで続けられ、そこで最終報告が決定され、首相に手渡された。6月9日には「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が成立し、退位が決定された。

実際の退位は2019年4月30日のことだった。

退位については当初、美智子上皇后も反対したとされ、摂政をおくことが議論もされた。だが、上皇は、昭和天皇が大正天皇の摂政となって苦労したことを踏まえ、それに強く反対したため、実現はしなかった。

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2025.09.02

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