「15%に引き下げ」でも日本の自動車業界は安心できない…トランプ大統領が交渉を蒸し返す"決定的タイミング"
アメリカの製造業従事者にとっては不満が残ったまま
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日本の自動車業界がトランプ関税の影響を受けている。経済評論家の鈴木貴博さんは「自動車関税は15%に下げることで決着したようだが、この先トランプ大統領が交渉を蒸し返す“火種”が残っている」という――。
トヨタは1兆4000億円の減益予想
トランプ関税で揺れた日本の自動車業界ですが、自動車関税は暫定的に設定されてきた27.5%を15%に下げることで決着したようです。まだ実行時期が決まっていないなど若干の不安要素が残りますが、直近の情報をもとにこの決定で日本の自動車業界がこれからどうなりそうなのか予測してみたいと思います。
最初に自動車各社の決算発表を整理しましょう。自動車7社の2025年4~6月決算は営業利益、純利益ともに全社が減益で、日産とマツダは赤字転落しました。アメリカで四輪事業を行っていないスズキを除く各社は決算で今後の関税の影響予測を発表しました。トランプ関税の影響は6社合計で約2兆6000億円の利益減を見込んでいます。
影響が一番大きいトヨタはトランプ関税によって1兆4000億円の減益予想です。これ以外に今期は為替でも7250億円の利益減を見込んでいる等の影響があり、通期の純利益は2兆6600億円と前年比で44%減少の想定です。
後でもう少し詳しく分析しますので、記憶にとどめておいていただきたいポイントがあります。トヨタは年間の販売台数は変わらず、コストだけがトランプ関税の影響を受ける計画になっています。トヨタはこれまでも高関税にもかかわらず価格を据え置いてきましたが、今後もトランプ関税のコスト増を企業努力で吸収する前提で計画しているということです。
輸出の多いメーカーにとっては死活問題
関税の営業利益への影響割合は各社で異なります。トヨタが▲30%と比較的小さい影響を見込んでいる背景にはアメリカの現地生産が多いという特徴があります。同様にホンダ、三菱も▲30%台の影響になります。一方で北米輸出依存度が高いスバルは▲51%、マツダは▲82%と、輸出の多いメーカーにとってはトランプ関税は死活問題になりそうです。
さて、ここで根本的な部分について解説します。高関税は経済にどのような影響をもたらすのかを整理してみましょう。
トランプ関税が打ち出された4月頃のニュースではよく、専門家が、
「関税を払うのはアメリカの消費者だから本当は困るのはアメリカ経済だ」
と主張していました。これは実は正確な情報ではありません。
本来トランプ関税がやろうとしていることは、外国製の商品がアメリカの消費者にとって割高になることで、消費者が国産品を買うように行動を変えることです。
日本の高関税商品で考えるとこのメカニズムは理解しやすいと思います。たとえばカリフォルニア米には、ミニマムアクセスなどの諸条件を織り込んだうえで平均すると230%程度の高関税がかかっています。言い換えると輸入原価の3.3倍に仕入れ原価が跳ね上がる仕組みになっています。