役所にも病院にもクーラーがない…「地球のために」入院患者の病室が30度に達するドイツ「脱炭素」の空回り
「健康」も「産業」も後回し…なぜ"賢いはずの国民"が暴走するのか
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暑い日が続いている。気候変動対策はどうすべきか。ドイツ在住作家の川口マーン惠美さんは「ドイツでも、暑さが国民生活に影響を及ぼしている。問題を深刻化させているのは“脱産業化”ともいうべき行き過ぎた脱炭素政策だ」という――。
ニュースの半分近くが「気候関連」で埋まった
ドイツメディアがまた暴走している。
ドイツでは、6月終わりから7月初めにかけて全国的に、この時期には珍しい暑さが続いた。40℃に達した都市もあり、公共放送の第1テレビも第2テレビも大騒ぎ。夜のニュースの3分の1から半分近くを気候関連の報道に割いてはパニックを煽った。
世界ではそれ以外に重要なことは起こっていないかのようだった。
普段なら気温によって、緑、黄色、オレンジなどに色分けされている天気図は、一面が赤やドス黒い臙脂色で、次々と出てくるのが人々が暑さに喘いでいる映像。
ドイツの多くの建物はクーラーがないので、市役所も町役場も暑くて仕事にならない。病院では、入院患者の部屋の温度計が30℃を指している。多くの学校は10時半ごろで休校。
ただ、他の職場では暑くても休業にはできない。
そこで、識者が出てきて言う。「室内が30℃以上になった場合、雇用者は何らかの措置を講じなければならない。扇風機を設置するとか、冷たい飲み物を提供するとか、勤務時間を短縮するとか」。
それを受けたナレーターが、「しかし、病院の医師や看護師は勤務時間を短縮することができません」と深刻な顔。背景には熱中症で病院に運ばれてきた高齢者の姿。
なぜメディアは恐怖を煽るのか
砂漠のようになった畑では、農家の人が被害を訴える。
レストランの厨房や、戸外のカフェでは、従業員が真っ赤な顔で働いている。
圧巻は、カンカン照りの道路でアスファルト舗装をしている人たちの映像。
敷き均していく真っ黒なアスファルト混合物は150℃以上だというから、過酷な暑さであることは間違いない。
こういう映像を延々と見せられていると、西洋人がこれまで築いてきた文明が、灼熱の太陽にジリジリと焦がされ、今にも滅びていくかのような錯覚に陥る。
さらにいうなら、ドイツの家庭にクーラーはないから、皆、吹き出す汗を拭きつつ、暑さを実感しながらこれらのニュースを見ているわけだ。私の友人は、夜中も部屋の温度が下がらないので、ベランダに寝椅子を出して寝ていると言っていた。
ドイツメディアの仕事は、あらゆる機会を掴んでは視聴者をパニックに陥れることだが、国民は国民で怖いニュースが結構好きなので、需要と供給は絶妙に一致している。結論として、ドイツには怖いニュースが多い。