2LDKの2部屋を独占する引きこもりの50歳息子と定年退職の夫…一級建築士が57平米の家にひねりだした妻の空間
日本の住宅文化に"妻の部屋"がないという大問題
Profile
引きこもりの中年息子と夫が個室を占拠し、毎日リビングで寝起きせざるをえない70代女性。一級建築士のしかまのりこさんによれば「日本の住まいの設計思想には、『夫の書斎』や『子ども部屋』という概念はある一方で、“妻のための空間”という視点が驚くほど欠けている」という――。
妻だけ自分の部屋がない
「家の中に、私の居場所がないんです」――。
そんな言葉を、ある70代の女性から初めて聞いたとき、私は一瞬言葉を失いました。
Aさん(仮名・72歳)ご一家は、都心近郊にある築30年のマンションでご主人(75歳)と息子さん(50歳)の3人暮らし。専有面積は約57.5平米の2LDKです。
老夫婦にしてはやや手狭に感じる住まいですが、暮らしている人数自体は決して多くはありません。しかし、Aさんにとって、この家は「家族の住まい」であるはずなのに、自分だけが「滞在させてもらっている感覚」に近いといいます。
リフォーム相談のきっかけは「夫の願い」
最初にAさんからいただいたご相談は、「夫が“和室を洋室に変えたい”と言っていて……」というものでした。定年退職後、6畳の和室を寝室兼趣味スペースとして使っていたご主人は、「布団よりベッドのほうが寝起きが楽だし、フローリングのほうが掃除も楽」と、リフォームを希望されていたのです。
この時点では、家族全員、夫も息子も、そしてAさん自身さえも「妻が“家の中で居場所を持っていない”」という深刻な問題に気づいていなかったのです。