遊戯王でも、ポケモンでもない…人口1700人の限界集落で子供たちがハマる「おじさんカード」のすごい効果
「知らなければ、ただの人。知っているからこそ、つながりが生まれる」
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福岡県香春町の採銅所(さいどうしょ)地区で、子供たちが夢中になっている「カードゲーム」が生まれた。名前は「サイdo男カード」。様々な特技や性格、仕事をもつ地域に住む人たちの顔写真を加工して作られている。ユニークなカードはなぜ生まれたのか。フリーライターのサオリス・ユーフラテスさんが現地を取材した――。
高齢化率46.9%の集落で生まれたカードゲーム
「サイドメン、セパルティ」
フランス語で「さあ、始めよう」、この言葉でゲームが始まる。
福岡県東部の香春町。春休みの午後、採銅所小学校の跡地にあるコミュニティセンターを訪れると、フリールームに集まった10人の子どもたちが、真剣な表情でカードゲームに興じていた。
よく見ると、ポケモンでも遊戯王でもない。
カードに描かれているのは……おじさん?
60枚のカードを大切そうにジップロックに入れていた小学2年生の女の子が好きなカードは「グラビティマスター」。「技がかっこいい、会ったこともあるよ」と誇らしげに語る。
54枚を集めた中学1年生の男の子は、2023年の秋祭りで初めてカードを見た時の印象をこう振り返る。
「知らない人がたくさん映ってるけど、なんか面白そうだなと思って買ってみたら、もっと欲しくなった。3組買ってその日持って行ったお小遣いがなくなりました」
約1700人が暮らす採銅所さいどうしょ地区。高齢化率46.9%の限界集落で生まれた「サイdo男カード」がいま、全国から注目を集めている。
海外からも観光客が来るように
重機を操る「グラビティマスター」、恥ずかしがり屋の紳士「ハートハイダー」、珈琲を淹れる「バリスタドリッパー」、持続可能な暮らしに取り組む「パーマカルチャーデザイナー」――。
実在する地域のおじさんたちがトレーディングカードになった「サイdo男カード」は、採銅所地域コミュニティ協議会が製作。事務局スタッフが1枚1枚ラミネート加工を施す手作りのカードだ。3枚100円のセットから、ラメ加工の特別なカード1枚を含む6枚入り500円のパックまで用意。2023年11月から3000枚以上が売れ、県外や海外からもカードを求めて客が訪れるようになった。
総務省までもがその取り組みに注目し、全国の行政、コミュニティ研究機関、大手企業の人事部も視察に訪れる。小学校は廃校、病院もコンビニも路線バスもなくなった集落で、なにが起きているのか――。