やなせたかしの弟は22歳で海に沈んだ…「アンパンマンの丸い顔は弟に似ている」と語った兄の「100倍の悲しみ」
朝ドラ「あんぱん」では描かれない、やなせたかしの弟の「淡い恋」
Profile
朝ドラ「あんぱん」(NHK)では、「アンパンマン」の作者やなせたかし氏の戦中・戦後をモデルにしたパートが展開中。ライターの田幸和歌子さんは「やなせ氏にとって弟はコンプレックスの対象でもあり、特別な存在。その喪失感は大きかった」という――。
ついに戦争が終わる、海軍に入った嵩の弟はどうなったのか
『アンパンマン』の原作者・やなせたかしと妻・小松暢をモデルとした今田美桜主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)「あんぱん」は、昭和前期を舞台にした朝ドラなら避けて通ることはできない太平洋戦争の時代に突入している。
第12週「逆転しない正義」では、中国福建省に上陸した嵩(北村匠海)が宣撫班せんぶはん勤務を命じられ、親友の健太郎(高橋文哉)と共に占領地の人々を安心させるための紙芝居を作ることに。従来の桃太郎を題材にした紙芝居が現地の人々から強い反発を受ける中、嵩は亡き父・清(二宮和也)の手帳にあった言葉をヒントに「双子の島」という紙芝居を創作。中国の人と心を通わせた瞬間もあったが、現地で再会したかつての同級生・岩男(濱尾ノリタカ)が少年に撃たれて死亡するという戦争の悲劇も描かれた。
一方、高知では肺炎で海軍病院に入院した夫・次郎(中島歩)をのぶ(今田)が見舞う。やがて日本は敗戦、戦争は終わる。
第13週「サラバ 涙」では、嵩が軍服姿で故郷の駅に戻ってくる。海軍の特別任務に就いていた弟の千尋(中沢元紀)はどうなったのだろうか……。
やなせたかしには弟に対するコンプレックスがあった
ドラマでは伯父・寛(竹野内豊)と並んで“人格者”として視聴者に愛されてきた嵩の弟・千尋。心優しく、成績も優秀な京都帝大生で、嵩は何度も「自慢の弟」と言っていたが、実際にやなせは弟・千尋を誇らしく思う一方、コンプレックスも抱いていた。
なぜなら、千尋はルックスも色白の丸顔で愛らしく、性格も明るく、誰にでも好かれていたのに対し、やなせは人見知りが強く、人から好かれないと思っていたためだ(自伝『人生なんて夢だけど』フレーベル館)。
コンプレックスの一因には、容姿があった。
やなせは子どもの頃、周囲から「お兄さんはお父さん似でおとなしいが、器量が悪い。弟さんはお母さん似でハンサムで快活だ」(『アンパンマンの遺書』岩波現代文庫)といった言葉を何度となく浴びせられてきた。やなせの自伝には容姿に関する記述が多々登場するが、そこには早くに亡くなった父と自身を置いて行った母を追い求める血縁への執着による思いもあるだろう。そう感じさせるのは、『人生なんて夢だけど』にある次の記述だ。