"新NISA貧乏"まで出現…エコノミスト指摘「社会保険料+税の増加率が断トツ1位の日本に広がる貧乏性の正体」
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なぜ、日本の消費は停滞しているのか。第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣さんは「その背景には、3つの根深い不安と“お金そのもの”への執着という価値観の歪みがある」という――。 ※本稿は、永濱利廣『新型インフレ 日本経済を蝕む「デフレ後遺症」』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
日本が「貯め込み経済」になったワケ
現代の日本人にとって、今使えるお金よりも、将来のためのお金のほうが大切になっている。だからこそ消費停滞が定着し、「貯め込み経済」になってしまっているのである。
その背景にあるのは、本書で先述した通り「不安」である。ではなぜ、これほど不安なのか、簡単にポイントを挙げておこう。
1 老後資金の不安
少子高齢化が進む中、「老後は年金がもらえない」「年金だけでは暮らしていけない」と考える人が増えている。もちろん、将来を考えて慎重になるのは当然のことだ。だが、必要以上に不安が大きく膨らんでいることが消費停滞につながっている。
たとえば、2024年に公表された年金の財政検証によれば、夫婦の年金額は2024年度の22万6000円から、33年後の2057年には21万1000円に減少するとされている。しかし、これは物価上昇を考慮した実質額であり、名目の受取額が減少するわけではない。
しかも、実際の年金財政は5年前の財政検証時より改善傾向にある。労働参加率や外国人労働者数、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用成果などの上振れがプラスに働いているためだ。
それにもかかわらず、偏った一部の専門家やメディアの報道などにより多くの人々は「年金がもらえなくなる」と誤解し、不安を募らせている。しかし、これからの日本で心配なのは、「将来の年金」よりも「将来の経済」だろう。最もお金を使う時期にある現役世代が消費を控えていては、需要は停滞したままで、経済成長の妨げとなってしまう。
所得が増えても消えない不安
2 教育費の不安
子どもの教育費用が高額になる不安から、早くから貯蓄に注力する家庭が多い。それ以前に、「経済的に育てていけないから、産めない」「子どもを作れないなら、結婚しなくてもいい」と考える人すら珍しくなくなってしまっている。
「子ども一人につき、幼稚園から大学卒業までかかる教育費は、すべて私立だと約2000万円」と言われている。確かに大変な金額ではあるが、十数年分の費用を一括で用意する必要はない。さらに、教育費に対する支援策は着実に進んでいることにももっと注目すべきだろう。
3 住宅ローンの不安
日本人にとって、最大の支出は住宅購入だろう。住宅ローンという高額な借金を抱えている世帯は、所得が増えたとしても「ローン返済がある」という不安が強く、消費には向かいにくい。2025年1月の日銀の利上げ決定で、「さらに借金の返済がきつくなる」という不安は膨らんでおり、実際に金利が上がる前の繰り上げ返済増加が消費を抑制している可能性が総務省の家計調査からも確認されている。
こうした3つの不安のほかにも、雇用環境の不安、社会保障の負担増への不安も増している。