「退屈すぎて限界」年収1000万円の従業員はなぜ会社を訴えたのか…ホワイト職場で心を病む人が増える驚きの理由
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仕事のストレスはどこから来るのか。デンマークの人類学者、デニス・ノルマークさんと、哲学者のアナス・フォウ・イェンスンさんは「原因は“忙しさ”だけではない。“退屈すぎること”もストレス源になりうる」という――。 ※本稿は、デニス・ノルマーク、アナス・フォウ・イェンスン著、山田文訳『忙しいのに退化する人たち』(サンマーク出版)の一部を抜粋、再編集したものです。
なぜ働かない社員が量産されるのか
「ひとことでいえば問題は、やるべき仕事があまりないことですね」とポールセンは言う。
淡々とした口調だが、かなり挑発的に聞こえた。
無作為に選んだ100人に尋ねたら、やらなければいけない仕事は多すぎ、時間は少なすぎると全員が答えるだろう。だがポールセンの調査では、回答者の答えはちがった。
「理屈のうえでは、もちろん上司のもとへ行って、何もすることがないと言えばいい」とポールセンは説明する。
「でも、何もしていないことは大きなタブーで、部下に仕事を見つけられない上司は――たくさんいますが――無能と見なされることが多いわけです。時間が余っていると従業員がほのめかしても無視されることがある。当然、存在しない仕事をつくり出すのは難しいですからね。やるべき仕事はいつだってあるというのも、また1つの誤った思い込みです」
ポールセンによると、上司は仕事が足りないという声を部下から聞きたくない。
人員整理を余儀なくされるかもしれないからだ。
「経営の世界では、たくさん部下を抱えていることがステータス・シンボルになります。“きみの部署はどれくらいの規模なの?”といつも互いに尋ね合っているので、人員削減など論外なわけです」
ポールセンによると、ここから奇妙な状況が必然的に生まれる。従業員はやることがなく、上司はやらせることを見つけられないのに、どちらにとってもそれで申し分ないのだ。
問題が発覚しないもう1つの理由
中身のない仕事のおかしなところは、職員が何もせずに大量の時間を浪費していても、組織はたいてい問題なく動いているように見えることだ。ようするに利害が一致している。蓋をあけて現実をすべて明かしたところで、誰の得にもならないのだ。
私たちはスウェーデン民間航空局のポルノ・スキャンダル(就業時間の最大75%をインターネットでのポルノ閲覧に費やしていたとして7名の職員が解雇された件)の話題を持ち出そうとしたが、スウェーデンにいることを考えて思いとどまった。だが、ポールセンのほうから先にその話を切り出した。
「もちろんあの事件で興味深いのは、関与した職員たちに“それは問題だ”と誰も警告していなかったことです。インターネットのログによって、ほとんどの時間をポルノサイトなどに費やしていたことがわかった。それで初めて問題になったわけです。それがなければ、同局はその職員たちのことに気づかなかった。みんな自分の仕事をこなしていたからです。同じ仕事を半分未満の時間でできることに経営陣が気づいたのは、まったくの偶然にすぎません。企業は職員を監視しはじめることで初めてこの手のことに気づくのです。社員がほとんど何もしていなくても、多くの企業は問題なくやっています」
ポールセンはそう締めくくった。
とはいえ、このような奇妙な状況にあるからといって、社員が顧客関係管理システムを更新するふりをしながらeBayでサングラスを買っている組織に問題がないわけではない。まったくそんなことはない。長期的には、サボってばかりいると気持ちがすり減り、ストレスすら感じることもある。