あれだけ"自分勝手なルール"を世界中に押し付けたのに…EUに「トランプ関税」を批判する資格はあるのか
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自国第一主義はEUも同じ
米トランプ政権は「相互関税」の名の下で一方的な追加関税を世界各国に課そうとしたが、投資家が国債・株式・通貨の「トリプル安」という強烈な冷や水を浴びせたことで、トーンを引き下げている。一方で、わが国もさることながら、米トランプ政権が殊更に敵視する中国や欧州連合(EU)も、米国に対して自由貿易体制の堅持を訴える。
とはいえ、EUが本当に自由貿易体制の旗手であるかというと、果たしてそれは疑わしい。経済力で米国と中国に劣るEUは、グローバルに政治力を行使するため、規制の輸出にまい進してきた。電気自動車(EV)シフトがその端的な事例となるが、一方で域内のEV市場が中国製EVの脅威に晒されると、一転し追加関税を課す始末である。
こうしたEUの態度は、典型的な「ムービング・ゴールポスト」である。自らに有利なようにグローバルなルールを定めようとし、それが自らに不利となった場合に、その修正を試みる。確かにEUはトランプ政権下の米国よりは自由貿易体制を重視しているが、だからといって保護主義でないかといえば、中国への対応は保護主義そのものだ。
それに、日系メーカーが圧倒的なシェアを持つ炭素繊維について、EUがその利用を禁止することを検討していることも保護主義の動きと見做されて仕方がない事例だ。EUは現在、廃棄車のリサイクルを規定する「ELV指令」の改正を目指しているが、立法府である欧州議会は、4月上旬に示した改正案で、炭素繊維を有害物質に指定した。
自動車に用いられる炭素繊維は、日系メーカーが世界で5割以上のシェアを持つとされる。自動車向けに用いる炭素繊維は用途全体の一割程度であるようだが、近年ではEVを軽量化するために炭素繊維を利用するケースが増えている。結局のところ、EUが炭素繊維に強みを持つ日系メーカーを潰しにかかっているという疑念が湧いてくる。