"I love you"の和訳はなぜ「月がきれいですね」がハマるのか…「ただの景色の描写」が美しい愛情表現になる理由
Profile
夏目漱石が“I love you”を「月がきれいですね」と和訳したという逸話がある。自治医科大学准教授の小野純一さんは「親密な二人が月の美しさを再確認しあうという情景の裏には、奥深い物語が隠れている」という――。 ※本稿は、小野純一『僕たちは言葉について何も知らない 孤独、誤解、もどかしさの言語学』(NewsPicksパブリッシング)の一部を再編集したものです。
“I love you”を訳すと「月がきれいですね」
漫画やアニメの中で、「月がきれいですね」が「あなたが好きです」の意味で用いられることがあります。
夏目漱石が英語を教えているときに、学生がI love youを「私はあなたを愛する」と訳しました。すると漱石は、日本人はそんな言葉を口にしない、明治時代の男女なら、せいぜい「月がきれいですね」くらいだろう、と注意した、というエピソードが元になっています。
※ただし、豊田有恒『あなたもSF作家になれるわけではない』(徳間書店、1979年、p.141)には「月がきれいですね」ではなく「月がとっても青いなあ」とあります。
どうして「月がきれいですね」と言語化することが、二人にとって「愛している」と口にするのと同じくらい意味をもつのでしょうか。この点こそ、言葉の力を示すと思います。
言い換えれば、没個性的な言葉の並びが、個人の感情そのものになる、ということに関わるでしょう。