ユニクロ・インパクトで「ニットの町」は消えた…廃業を決意した「マフラーの寺一」4代目がV字回復を遂げた理由
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ユニクロやしまむらといったアパレル大手の生産拠点は、中国や東南アジアが中心だ。「日本製」の服は消えてしまうのか。ジャーナリストの座安あきのさんによる連載「巨人に挑む商人たち」。第1回は「ユニクロ・インパクトを乗り越えた『寺一』の挑戦」――。
製造業の国内回帰が始まろうとしている
風土に根差した「ゼロから1」の価値を掘り起こし、再起に賭ける商人たちがいる。ニット製品の一大産地・香川県東かがわにある「寺一」は9年前、糸の企画から“カシミア風”マフラーの製造を始め、廃業の危機から一転、利益体質の経営に生まれ変わった。きっかけは、ユニクロのフリースが爆発的ヒットを飛ばしたのを境に立ち行かなくなった「加工賃商売」からの完全脱却を目指したことだったという。
販路開拓には、創業123年の総合卸問屋エトワール海渡の存在が鍵となった。製造業の国内回帰が始まろうとしている。日本の商人たちの改革を描く連載第一弾、マフラー開発者・寺井新一朗さんを取材した。
「台湾で買ったマフラーをまた購入したい」
「いま日本に観光で来ています。台湾で買ったマフラーを探しています。どこに行けば買えますか」
香川県東かがわにあるマフラーの製造会社「寺一」には近頃、外国人からこんな電話やメールがたびたび入ってくるようになった。
神戸市内からレンタカーで明石海峡大橋を渡り淡路島を縦断、鳴門の渦潮を見下ろしながら徳島県に入り、そこからさらに30分ほどのところに平屋の工場兼事務所がある。従業員6人、創業88年の会社だ。
「寺一さんの商品は、なぜか海外で売れるんですよね」
寺一社長・寺井新一朗さん(52歳)が、東京日本橋にある総合卸問屋「エトワール海渡」のバイヤーからこう言われたのは、今から8年ほど前のことだ。売り出したばかりだった「差込ネックウォーマー」(小売価格2600円・税別)の反応がいいという。マシュマロのようなしっとりした肌触りで、首元に軽くなじむのが特徴の商品。
他にも、春夏のフェイスマスクやネッククーラーから、秋冬素材のマフラーやハラマキまで、1年を通して現在100種類超・10万枚のオリジナル商品を企画、自社・協力工場を含め約25人の手によって製品が生み出されている。