それでも「フジテレビ=泥船」とは言えない…「退職者続々」と報じられるテレビ局の現場が考えていること
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テレビ局の名物社員の退社がたびたびニュースになっている。テレビ業界は今後どうなるのか。コラムニストの木村隆志さんは「一概に危機とは言えない。むしろ今のテレビ局には大きなチャンスが訪れている」という――。
「テレビ局の人材流出が止まらない」は本当か
もはや「流行語の1つ」と言っていいかもしれない。
昨年あたりから、芸能事務所への忖度、選挙報道、不祥事対応などの騒動があるたびにテレビ業界が「オールドメディア」と揶揄されるケースが続いている。少なくとも世の中に旧態依然とした組織やビジネスを「古い」とみなすムードがあり、その筆頭がテレビ局であることは間違いないだろう。
多くのネットメディアはそんなムードを逃さず、テレビ業界に対して人々の批判をあおるような記事を量産している。なかでもこのところ散見されるのが「人材流出が止まらない」「退社ドミノ」などの記事。
主に「大物プロデューサーや名物ディレクターが退社して動画配信サービスやYouTubeチャンネルの制作に携わる」という内容で危機を指摘しているが、はたしてそれは本当なのか。
この1年あまり、収録現場などで何度となくこの話題で会話を交わしてきたことを踏まえてリアルな現状を掘り下げていく。
まず「本当に人材流出しているのか」と言えば、“ある程度は”その通りと言っていいだろう。さらに「実力のある人ほど退職する」という指摘も“一理ある”。
辞めた人も順風満帆とは言えない
基本的に作り手たちの名前はあまり知られていないが、なかでも日本テレビの橋本和明、テレビ朝日の芦田太郎、フジテレビの藪木健太郎、テレビ東京の佐久間宣行ら「テレビ好きなら名前を聞いたことがある」というレベルの作り手たちが退職したのは事実。これ以外でも、一定のノウハウや人脈を身に付けた30~40代クリエイターの退職は痛いところであり、危険な兆候であることは確かだろう。
ただ、“ある程度は”“一理ある”と書いたのは、「けっきょく辞めない人も多い」「辞めたことで若い人材にチャンスが与えられ、新陳代謝が進んでいる」「辞めた人も順風満帆とは言えない」などの一概に危機とは言えないところもあるから。
そもそも「優秀な人材ほど辞めて転籍する」「独立して会社を立ち上げる」のはテレビ業界に限った話ではなく、他業界と比べればむしろ少ないかもしれない。確かに「育てて間もないタイミングで辞められる」のは痛いが、もともとテレビの作り手たちは「新陳代謝が遅く高齢化が叫ばれやすい」「ずっとヒットメーカーであり続ける人は少ない」と言われるだけにネガティブに断定する記事には違和感がある。