権力者を叩くのは割に合わない…差別に敏感なテレビが「高齢者は集団自決」発言だけは黙認した闇深い理由
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マスメディアの問題点とは何か。1月28日、原発不明ガンで亡くなった経済アナリストの森永卓郎さん(67)の遺稿『発言禁止 誰も書かなかったメディアの闇』(実業之日本社)より、一部を紹介する――。
「若手論客」大空幸星氏の転身
2024年10月の総選挙で、自民党公認で東京15区から立候補した大空幸星氏が25歳という史上最年少での当選を果たした。比例復活だったとはいえ、立派な国会議員の誕生だ。大空氏は孤独や孤立に悩む人らの相談を受けるNPO法人「あなたのいばしょ」の元理事長で、ニュースや情報番組に多数のレギュラーを持つだけでなく、「朝まで生テレビ!」などの討論番組にも頻繁に出演し、若者の視点から政府やメディアに対して舌鋒鋭い批判を繰り返す「論客」として知られ、圧倒的な人気を誇ってきた。
私が出演しているニッポン放送の「垣花正あなたとハッピー」でも準レギュラーを務めていた。番組のなかで彼の批判は、政府やメディアだけでなく、日本の経済社会をダメにした中高年や高齢者にも向けられ、その代表として私にも批判の矛先が向けられていた。だから生放送でいつも彼とはバトルを繰り返していたのだが、大空氏には憎めない部分もあった。それは、彼が厳しい家庭環境のなかで育ったことを背景に、「心の貧困」を持つ若者たちへの優しい心遣いが、彼の発言のベースにいつもあったからだ。
だから、彼が権力側の自民党から立候補するという話を聞いたときは、心底驚いた。大空氏本人は、「政治に対して一方的に批判していたが、コメンテータの仕事に限界を感じた。個人としてコメンテータ人生が嫌になった」と話している。つまり、コメンテータとして批判を繰り返しても、世の中は変わらない。世の中を良い方向に変えようと思ったら、権力を握らないと変えられないという結論を出したということなのだ。
権力の側に立つと「言いたいことを言えなくなる」
実際、大空氏は、とても有能な人物であり、25歳で衆議院議員になったということは、彼が権力者に上り詰める可能性は十分ある。場合によっては総理大臣になる可能性もあるだろう。ただ、権力にすり寄って、権力の側から世の中を変えるという手段が本当に正しいのかという問題がある。
実際、大空氏は小選挙区での公開討論会で選択的夫婦別姓に賛成かどうかを問われて、「イシュー化することによって進められない問題もある」と答えを濁した。権力の側に立つということは、言いたいことを言えなくなるということも、意味するのだ。
公明党の例もある。元々、公明党の掲げる理念は、「平和と福祉」だった。ところが長年自民党と与党連合を組むなかで、集団的自衛権を容認して日本を戦争できる国にし、財務省が毎年推し進める社会保障カットを受け入れざるを得なくなった。だから、大空氏が同じようなことになる可能性が高いのではないかと私は考えている。
前明石市長の泉房穂氏も、2024年10月29日に、Xを更新して、「いきなり自民党から出馬したことにも驚いたが、夫婦別姓や同性婚の問題に誠実に回答せず、平然と開き直るところにさらに驚いた。変わってしまったのか、そもそもがそういう人だったのか……」とつぶやいている。