なぜ「有田焼のドクロ」がふるさと納税の返礼品に…「食器だけでは工場が潰れる」5代目窯元のロックな生き様
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透明感のある白磁に絵画のような色絵を施す佐賀県の名産品・有田焼。その産地にユニークな作品を手がける工房がある。「親峰武堅」5代目窯元・武富カズキさん(59)は、昔ながらの技法を生かし、食器以外のさまざまな陶磁器を手がける。そのうちの一つ、有田焼の「ドクロ」は佐賀県有田町のふるさと納税の返礼品になった。なぜ有田焼で「ドクロ」なのか。フリーライターのサオリス・ユーフラテスさんが取材した――。
有田焼の工房にあるはずのない陶磁器
工房に足を踏み入れると、そこには混沌とした世界が広がっていた。革張りのソファ、使いかけの釉薬、さまざまな太さの筆、所々に積み上げられた段ボール、制作途中の作品たち。雑然としたなかで、作業台にならぶ白い塊が、異質な存在感を放っていた。
よく見ると、ドクロの形をしている。
雛人形の肌のようにきめ細やかで、しっとりとした質感。伝統工芸の技が生み出す精巧な造りのドクロに思わず見入った。
太い筆を右手に持ち、器にたっぷり入った青緑色の絵の具に毛束を浸す。左手で器を静かに持ち上げ、筆先で淡い色を丁寧に重ねていく。細い筆に持ち替えると、今度は濃い絵の具で細い線を走らせる。はじめにラフな構図を描き、あとは、感覚で描いていく。そこには、軽やかに空を舞う繊細なバレリーナが描かれていた。
絵付けの修行をされたんですか? と訊ねると、「有田に帰ってきてから、一応講習は受けたかな」と返ってきた。
ここは、佐賀県有田町にある陶磁器製造会社「親峰武堅」5代目窯元・武富カズキさん(59)の工房だ。2024年12月、佐賀県有田町のふるさと納税返礼品への採用が決定し、300万円以上の寄付で申し込みが可能となった。まだ一般販売には至っていないが、有田焼のコアなファンを抱える海外も視野に入れ、価格や販売方法を検討中だ。
窯元のカズキさんには、もう一つの顔がある。パンクロックバンドのヴォーカリストだ。2022年、映像作家・小島淳二氏により彼の半生が『RIGHTS!パンクに愛された男』として映画化されると、氣志團の綾小路翔など若い頃に彼に影響を受けてきた著名人たちが、コメントを寄せた。
400年の伝統を持つ有田焼で、なぜドクロなのか――。その答えは、パンクロッカーでもあるカズキさんの人生の歩みにあった。