「ワークライフバランス」とは。国の定義・指針と取り組みを知る

「ワークライフバランス」とは。国の定義・指針と取り組みを知る

働き方改革で実現させる概念として耳にする「ワークライフバランス」とは?具体的な意味や意義はよく分からないという方もいるのではないでしょうか。今回は、内閣府が推奨している定義と方向性を理解しながら、実現によるアドバンテージや海外の取り組み事例を見ていきましょう。

ワークライフバランスとは

「ワークライフバランス」とは具体的にどんな意味なのでしょうか。言葉としては「仕事と生活の調和」と表現されます。

2007年12月に内閣府が「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」において、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と 「仕事と生活の調和推進のための行動指針」を策定したことから、日本でも広く認知されました。

この「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」には、以下のような一文があります。

誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、今こそ、社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない。

出典: 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章/厚生労働省から抜粋

この憲章が掲げられたことで、仕事と生活の調和の実現に向けた国の取り組みとして、企業に対するテレワーク普及・長時間労働の抑制・年次有給休暇の取得など、さまざまな施策が積極的に促進されました。

少子化や労働生産性の向上など、国としてスピーディに取り組むべき多くの課題に、ワークライフバランスの実現は大きく関わっていると言われます。

ほかにも、不安定な就労や過剰労働が原因で心身の健康を損ね、生活が困難になることがないように労働条件や雇用制度を見直し、ワークライフバランスを向上させることも大きな社会課題です。

また、正規・非正規に代表される働き方の二極化や共働き世帯の増加といった社会の変化をとらえ、働き方・男女の役割分担に対する意識改革をより意識的に進めることも必要でしょう。

このように、働き方が個人の幸福度と社会の発展につながるという考え方のもと、国や企業が先導して就労者の「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」を向上させることによって、多様かつ幅広い選択肢を持てる社会の醸成が実現することが重要と考えられています。

出典:雇用・労働 仕事と生活の調和/厚生労働省



ワークライフバランス実現の行動指針とモデル

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iStock.com/kohei_hara

ワークライフバランスの意味と必要性は理解できたけど、どうなるのが理想的?という疑問が浮かんでくるかもしれません。

ここでは具体例として、内閣府が推進する「仕事と生活の調和が実現した社会の姿」に必要とされる3つの諸条件をまとめました。


1)就労による経済的自立が可能な社会

非正規雇用がスムーズに正規雇用に移行できる制度改革は急務と言われています。

特にシングルマザーなど生活に困窮しがちな立場の女性や、大学進学など就学機会の確保が難しい困窮世帯の子どもが経済的自立を無理なく実現できるよう、雇用を充実させることが必要でしょう。

正規・非正規といった就業形態に関わらず、公正な処遇や能力開発機会が確保されることも、若い世代の自立の大きな一助になります。

これにより、未来の貧困の連鎖を防ぐことになり、経済活動にも大きく貢献することが期待されます。

2)健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会

個人の意識だけでなく企業や社会において、健康で豊かな生活時間を確保することの重要性が認識されれば、ワークライフバランスの実現に大きく近づくと言えます。

そのためには、以下のような高い意識があらゆる労働環境において共有される必要があるでしょう。

  • 労働時間関係法令の遵守
  • 健康を害する長時間労働の是正
  • 年次有給休暇を取得できる取組の促進

これらの実現により、あらゆる場面で仕事と生活の調和が考慮され、社会全体でより生産性の向上が望めると言われています。

3)多様な働き方・生き方が選択できる社会

女性や高齢者など働く意欲のある人が、育児期、中高年期といった人生のステージに応じて多様で柔軟な働き方が可能になる制度を整えることは、少子高齢化社会への対策にもつながります。

その制度が実際に利用しやすく、現実的に機能するよう整備することも重要です。

多様な働き方に対応した育児・介護・地域活動の実現はもとより、職業能力をしっかり身につけることができる社会的基盤が大切と言えるでしょう。

出典:仕事と生活の調和推進のための行動指針/内閣府「仕事と生活の調和」推進サイト


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ワークライフバランス向上へ、各国の取り組み

欧米各国には、就業意識の変化や少子高齢化などを背景に、個人・企業・社会などそれぞれの階層で、「ワークライフバランス」の施策を充実させてきた歴史があります。

国が参考にする4つのワークライフバランス先進国の取り組みを見ていきましょう。

イギリス

イギリス政府は、「ワークライフバランス」を「年齢、人種、性別にかかわらず、誰もが仕事とそれ以外の責任・欲求が調和する生活リズムを見つけられる働き方」と定義しています。

長時間労働による生産性低下、労働者の健康や生活への悪影響が指摘される中、女性の就労増加が追い風となり、柔軟な雇用制度を提供することの合理性が認識されるようになりました。

イギリス政府は、ワークライフバランス施策の導入が経営上のメリットにつながることを企業にアピールし、自主的な取り組みを促すことを目的に、2000年に当時のブレア首相が旗振り役となった「ワークライフバランス・キャンペーン」を展開。

2002年から施行された雇用法により、出産休暇の拡充や父親休暇の導入、子を持つ従業員に対する柔軟な働き方を申請する権利の付与といったワークライフバランス支援のための取り組みが強化されました。

これらの導入は就労者のモチベーションや意欲によい影響を与えるという調査結果も出ており、ワークライフバランスの意義は広く理解されることとなりました。

ドイツ

ドイツでは、失業対策の一環として労働時間短縮や働き方の見直しが進められてきました。

雇用創出を目的としたジョブシェアリングやパートタイム労働の推進、柔軟な働き方の導入などの取り組みが進められ、ワークライフバランス施策への関心が強まっています。

2003年には「家族・シニア・女性・青少年のための省」(BMFSFJ)が主体となり「企業における家族に優しい環境づくり」を推進しました。具体策としては以下のようなものがあります。

  • 休暇取得者のための個別面談
  • 休暇取得者のための相談窓口や復帰準備プログラムの開設
  • 多様な就業形態の導入
  • 休暇取得者向けのテレワーク制度
  • 企業内託児所の設置
  • 育児助成金の給付

こうした取り組みの結果、制度の導入を行なった企業からは、育児休暇取得期間の短縮や復帰率の向上に成功した例や、大幅なコストダウンを実現した例も報告されています。

ドイツ国内では、その経済効果なども明示しながら社会への推進力としています。


アメリカ

国や地方自治体によるワークライフバランスへの取り組みが、必ずしも積極的とは言えないと評価されていたのがアメリカです。

しかし1980年代以降は、働く女性の増加や家族の多様化などを背景に、企業単位での「ファミリーフレンドリー」施策を充実させてきたと言われています。

1990年代に入ると、子どもや家族を持たない就労者へのニーズへと関心が広がり、育児支援・ファミリーフレンドリー施策からワークライフバランスへと施策の幅が広がりました。

企業が取り組んできた施策として、就労者への保育・教育・介護・転勤へのサポートが挙げられますが、その中でも特にワークライフバランス向上への貢献が評価されたのが、フレックスタイム、ジョブシェアリング、在宅勤務などの「フレキシブルワーク」です。

こうした取り組みが従業員の満足度を高め、イノベーションや創造性の向上、自己啓発や意欲が生まれたことで、結果的に生産性や業績の向上につながったと言われます。


フランス

フランスでは従来から、家族への給付制度や働く母親へのサポートなどの家族政策が重視されています。男女の婚姻関係による伝統的家族だけでなく、事実婚の普及など「家族」のとらえ方も柔軟です。

家庭や仕事の選択は個人の自由、そのための環境づくりを政策が担うという認識が、フランスの人たちの間では一般的なようです。

そのような社会通念の中、フランス政府が打ち立てた仕事と生活の両立支援策は「託児支援の強化」でした。

2005年には、出生率の向上と女性の経済的自立を目的とした育児休業に関する選択肢の充実、2006年には、主流だった在宅保育サービスを多様化し、公立の託児所の定員増加計画を発表します。


これにより合計特殊出生率は大幅に回復し、フルタイムで働く女性が増えたことで、国際的にも注目を集めました。

出典:平成19年版労働経済の分析 第2章第4節 ワークライフバランスの各国の動向/厚生労働省


ワークライフバランスへの理解を深めて暮らしやすい世界に

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iStock.com/kyonntra

仕事と生活においてワークライフバランスを重視するという考え方は、日本でも近年においては社会的に定着しつつあると言ってよいでしょう。

コロナ禍以降には、このワークライフバランスから一歩前進した新たな考え方「ワークライフインテグレーション」という言葉も生まれています。

これは、仕事と生活のバランスをとるだけにとどまらず、それによりさらなる相乗効果を生み出す働き方を実現させるために、国や企業が支援するという考えです。

グローバル化やダイバーシティが推進される中、多様化する個人の価値観や生き方を企業や社会が支援することで、新しい働き方と生産性が生み出されることが期待されています。

時代に合わせて新たな変容をもたらしていく私たちのワークライフは、これからもさらなる進化を続けていくのかもしれません。

出典:ワーク・ライフ・バランスメールマガジン 「カエル!ジャパン」通信/内閣府

2024.02.16

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