頑張りすぎるすべての人に送る、「いい加減」の処方せん【藤野智哉】
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「KIDSNA TALK」第4弾は、著書「「いい加減」の処方せん」が話題の精神科医・藤野智哉先生をお迎えして、自分の「いい加減」を知ることの重要性、ストレスが心身にもたらす影響、ネガティブ思考からの脱し方についてトークします。
職場によってさまざまですが、大きくは大学病院での外来の診察と、入院患者さんの治療がメインになります。ほかにも医療刑務所で受刑者の方の治療などをおこなっています。
大学病院と医療刑務所では違うかもしれませんが、最近はどんな相談が多いですか?
コロナ禍でとくに増えたのは、リモートワークや休校で普段家にいなかったご主人やお子さんがずっと家にいることで負担が増えたという女性の方ですね。
急な休校が繰り返される状況に対応しきれず、お子さん自身がしんどくなったというケースも多く、クリニックでも、とくに児童精神の外来にはそういったお悩みの方がすごくたくさんいらっしゃいました。
最近のニュースでは子どもの不登校が増えていたり、女性の死亡率が上がっていたり、コロナ禍で多くの人がすごく心に負担を感じているように思います
少なからず関係はあると思います。ただ、子どもや若い女性に限らず、コロナ禍という大きな環境変化で、しんどくならないほうがむしろ不思議なのではないでしょうか。人間として当然感じるしんどさなので、リスクはいろんな人にあります。
これまでできていた、外食、映画、コンサート、スポーツ観戦などのストレス解消法がなくなって、普段以上に将来の不安を感じている人は山ほどいると思います。たとえコロナが落ち着いても、また新たな環境の変化に対応していかなければならないので、今後も増えていく可能性があります。
今の世の中の雰囲気や人間関係について、藤野先生はどんなことを感じられていますか?
コロナ以前のように、人と人とがつながって助けを求めやすい環境ではなくなっているので、しんどくても、ひとりでがんばってしまっている人がすごく多いと思います。人と人とのつながりがもう少し戻ってくるといいんですけどね。
電車に乗っていても、以前より人のあたりがギスギスとしていると感じます。
なにかあったときにストッパーになるような人とのつながりが減ったことで、みんな余裕がなくなっていますよね。たとえば、飲み会、結婚式、忘年会などのタイミングでたまに現状を報告し合うだけの関係も、意外と大事だったんじゃないかと、失ってから気づくこともありますね。
いろんなきっかけがないと、接点もなくなってしまうんですよね。
とくに年配の方は、電子機器の使用が得意な人ばかりではないので、オフラインでの趣味のサークルなどが開催できなくなり、まったく人と関わらなくなったという方もいて心配です。
コロナ禍に限らず、誰しもがなにかしらストレスを抱えていると思いますが、人はストレスを抱えすぎるとどうなってしまうのでしょうか?
慢性的にストレスがかかると、疲労しやすくなり、子どもの声、ご主人の言動など、普段なら気にならないような音や痛みにも過敏になり、イライラするようになります。
それが続くと、不眠、食欲減退、腹痛、頭痛、胃痛など、さまざまな症状が出てきます。子どもの頃、学校に行きたくなくてお腹が痛くなった経験はありませんか?心と体は心身相関でつながっていますから、体のどこに症状が出てもおかしくないんです。
私はストレスがたまっていてもあまり自覚できないタイプなのですが、そういうタイプの人はどう判断すればよいでしょうか。
自分のストレスに気がつける人は、すぐに体や心に症状が表れ、「痛い」「しんどい」と思うわけですが、それに気がつけない人は、知らないあいだに限界を超えてしまいます。
判断材料の一例ですが、たとえば、仕事のパフォーマンスが落ちたり、趣味で興味を持っていたことにも手がのびなくなったり、いつもならスムーズにできることができないといった変化があったら要注意。
以前なら、周囲の人が気遣ってくれていたことも、今はみんな余裕がなかったり、直接会う機会が少なかったりすることから、自分のことをよくみて、気遣ってあげる必要がありますね。
たしかに、いつもできていることができなかったり、好きなものにも心が動かない日はあります。そういうことがサインなんですね。
先生のご著書には、「いい加減」「脱力」「ゆるゆる」というキーワードがありますが、何故「いい加減」に生きることがポジティブにつながるのでしょうか。
多くの人は自分にとって必要以上に、つまり、「いい加減」以上に多くのものを求めがちです。その結果、「自分はこれができない」と自己嫌悪してしんどくなっているんです。
だからこそ、「自分はこれくらいならできそう」「これくらいできればOK」といういい加減の基準をしっかり見極めることで、達成感も得られやすくなります。
たとえば、プライベートでは自分のいい加減にコントロールできるかもしれませんが、仕事においてはどう考えればよいでしょうか?
たしかに、仕事の場合、会社から求められる仕事をある程度きちんとこなす必要はあるでしょう。ただ、実際「本当に今日そこまでやる必要があるのか?」ということをがんばりすぎていることはないですか?
「今日はここまでがんばれそう」なのか、「自分のプライベートを犠牲にしてまでやることではない」のかは、自分の中でしっかり線引きをしなければいけません。
限界を超えた状態で仕事を続けても、長期的に見ればパフォーマンスは下がってしまうため、「いい加減」の基準は、「長期的に続けていけるか」という目線で作りましょう。
人は誰しもネガティブな思考を持つことはあると思いますが、いい加減、脱力、ゆるゆるに生きるために、そのネガティブ感情とどのように付き合えばよいでしょうか。
一度ネガティブ思考にハマってしまうと、悪い考えに囚われて、悪い方にぐるぐると向かってしまいます。
多くの人は「私はできていない」という考えからネガティブ思考に陥りますが、「果たして、自分は本当に何もできていないのか」、事実を事実として捉える必要があります。
朝起きられた、休まずに会社に行けた、面倒だけどちゃんと身だしなみを整えた、三食作って食べた、お子さん送り出した……実はできていることが山ほどありますよね。
できないことにばかり目を向けず、まずは自分ができていることを正しく捉えてあげること。過大評価する必要はありませんが、事実を事実として見てあげることが、自分をきちんと評価するための第一歩であり、自分を好きになっていくうえでも大切なことだと思います。
「できたことリスト」を作って自分ができたことを認めてあげることも、自分を肯定するために有効な方法です。
たしかに自分のできている部分は、当たり前になってしまっていますよね。
ネガティブ思考に囚われてぐるぐる考えてしまうと、視野もすごく狭くなるため、いったんそこから離れる方法を決めておくのもよいでしょう。
ネガティブの中心から脱するためには、誰かに相談して客観的な視点を得ることもよいですが、人とリアルに会って話すことが気軽にできない今、手軽にできておすすめなのが、紙に書き出すこと。
視覚化することで、「これは今日やらなくてもいい」「優先順位はこれ」など、頭の中にちらばっていることが整理されますし、場合によっては勇気ある撤退も視野に入れられます。
客観的な視点がすごく必要なんですね。
やはり自分のこととなると、俯瞰するのはなかなか難しいものですからね。
なにが不安なのか、なにがしんどいのか、なにをがんばらなければいけないのか、書き出すだけでも、実は緊急性のあることや解決できないことは少ないことが分かります。ぜひやってみてください。
次回のKIDSNATALKは12/8更新予定!お楽しみに!
2021.12.01
まず、はじめに藤野先生は精神科医としてどのようなお仕事をされているのか教えてください。