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【天才の育て方】#21 Saya~6歳で世界一に。唯一無二の色彩感覚で彩る10歳のアーティスト
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KIDSNA STYLEの連載企画『天才の育て方』。#21は、独特のタッチや色づかいの絵を描き、6歳で国際的な絵画コンクールで優秀賞を受賞したSayaさんと、お母様の摩耶さんにインタビュー。彼女にしかない世界観で創作活動を続けるSayaさんのルーツや背景を紐解いていく。
「Sayaは言葉が出てくるのが少し遅かったのですが、絵を描くことが自己表現の場として、それで表せているのならとても素敵だなと感じていました」
「自分が快適にいられるコンフォートゾーンも必要だけれど、そこから出るような体験をたくさんさせてあげたい」
こう語るのは、アートの類まれなセンスで注目を集めるSayaさんのお母様の池澤摩耶さん。
現在10歳のSayaさんは、イギリスに住んでいた幼少期から絵を描きはじめ、6歳でロールス・ロイス社主催の世界大会で優秀賞に輝き、その後も国内外のコンクールで数多くの賞を受賞。
Sayaさんの作品を、摩耶さんがなんとなくSNSにあげたことをきっかけに、世間から大きな注目を集め、NPO法人子供地球基金のアンバサダーとしてチャリティー絵画を提供するなど活躍の場を広げている。
今回は母親である摩耶さんにもご同席いただき、彼女の才能が育まれたルーツに迫った。
動画版はこちらから
言葉よりも絵で気持ちを表現していた幼少期
ーーお母様は、いつからSayaさんのアートの才能に気が付いていたのでしょうか?
摩耶さん:気が付いたきっかけとなったのは、Sayaが2歳か3歳のとき、当時イギリスに住んでいたのですが、幼稚園の先生が「Sayaはもしかして本当にアートの才能があるかもしれないから、少し質のよい画用紙と絵具を買ってみたら?」と言ってくれたんです。
私自身がアートの才能が本当にゼロなので、娘にアートのセンスがあるなんて考えたことがありませんでした。ただ、「この子は手先が器用で、色彩感覚が豊かだなあ」くらいの感覚でした。
とりあえず先生にすすめてもらったので、その日の帰り道に、少しだけ高価な画用紙と絵具を買って帰ったんです。そうすると、それまで以上に熱中して、どんどんと絵を描くようになっていきました。
ーー2~3歳のときから絵を描き続けているんですね!
摩耶さん:そうですね。特に心配していたわけではないのですが、Sayaは言葉が出てくるのが少し遅かったので、絵を描くことが自己表現の場で、自分の気持ちを表せているのならとても素敵だなと感じていました。
彼女は本も好きで、すごくたくさんの本を読んでいるのですが、それをアウトプットする場としても、絵を描きます。多くの人は読書感想文などがアウトプットになると思いますが、それが絵でもいいと思うんですよね。本の感想だけではなく、お話の続きだったりを絵で表現するので、私もそれを見るのを楽しみにしています。
ーーSayaさんの絵を拝見しましたが、やはり色の豊かさに惹かれます。
Sayaさん:ありがとうございます! 色の作り方にはけっこうこだわっています。私は特に青色について詳しいのですが、たとえばコバルトブルーやウルトラマリンなど、青といっても60種類もの青があるのです。私はその名前をすべて覚えていて、絵具で表現することができます。
数学とアートの思考は似ている
ーーイギリスに住んでいたとのことですが、Sayaさんは英語が得意ですか?
Saya:日本語よりは英語のほうが得意です。日本語の漢字とかは本当に苦手なので……(笑)。
ーーお母様も海外生活が長いと聞きました。
摩耶さん:はい。私は中学はイギリス、高校・大学はカナダに留学して、学生時代を過ごしました。大学時代は数学や経済を学び、卒業後はニューヨークの投資銀行でトレーダーをしていました。
ーーお母様は理系で、Sayaさんと方向性がまったく違うんですね。
摩耶さん:そうなんです。ただ、Sayaが作品を作っていく過程を見ていると、アートは数学と似ているなと感じます。
数学は、問題を解き進めていく中で、何回も壁にぶつかっては、「この道じゃなかった。こっちかもしれない。こっちじゃなかったから、こっちかもしれない」と、何度も方向転換をしながら、枝分かれをして、答えらしきものにたどり着いていく。答えを求めることではなくて、答えまでの道筋をどうやって自分なりに編み出していくのかが、数学の思考なんです。
アートもそれとまったく同じなんだなと思っていて。「本当はこんなイメージじゃなかったけど、線がうまく書けなかった」とか「思い通りの色にならなかった」とか、それが1枚の紙の上で次々に起こります。それを自分で軌道修正しながら、描きたい絵に近づけていくことがアートなんです。
Sayaがそうやって試行錯誤をしながら描いているときの顔は、まるで数学者が難問を解いているときのような顔です。だから、たとえばゾウの絵をピンクに塗っていたからと言って、「ゾウはピンクじゃないよ」と口出ししてしまったとしたら、本当は枝分かれだったはずの道が行き止まりになってしまいます。
それではアートの本質から外れてしまうと思うので、私はSayaの絵には一切口出ししないようにしています。
日々の生活のなかでも「挑戦」を積み重ねていく
ーーあまり口を出さないというのは、摩耶さんの教育方針でもあるのでしょうか?
摩耶さん:そうですね。「これをやりなさい」「あれはやめなさい」といったことは全く言わないです。好きなことに夢中になって没頭できる時間って、生きていくなかで小学生の今くらいですよね。そのうち本格的に勉強をしないといけなくなったり、大人になったら仕事をしないといけないし、今、やりたいことに没頭する時間ほど大切なものはないと思います。
ただ、Sayaは絵を習っているわけではないので、描かないときは2~3週間筆を持たないときもあります。もちろんそういうときがあってもいいと思うので何も言わないし、もしいつか絵を描くのをやめることがあっても、それはSayaの人生なので、私は見守ると思います。
ーー摩耶さんは子どもを対等な存在として見ているのが伝わります。
摩耶さん:子ども扱いをあまりしないかもしれません。食事に関してもそうで、「子どもはカレーが好きだろう」「あなたはこれが好きだよね?」みたいな決めつけはしないし、普通の家庭ではあまり子どもには出さないようなメニューも出します。あまり聞いたことのないような、どこかの国の料理だったり、スパイスの効いた料理だったり。
ーー子どもたちの世界を広げたいというお母様の想いなのでしょうか?
摩耶さん:そうですね。子どもにとって「初めてのことに挑戦する」ことは大切ですが、食べたことがないものを食べてみることも、小さな挑戦です。食べ慣れているものは安心につながるけど、そうではないものを食べてみることで、日々の生活のなかでも小さな挑戦を積み重ねていけると思うのです。
食べてみて、美味しくないと感じるときももちろんあるけれど、まずは挑戦してみてほしい。食わず嫌いは、自分のテリトリーを自分で狭めてしまうことだから、いちばんやってほしくないですね。
ーー食事をとおして、毎日新しいことに挑戦できる機会があるんですね!
摩耶さん:そう思います。食べ物にかぎらず、自分が快適にいられるコンフォートゾーンというのは、学校や人付き合い、いろいろな領域でありますよね。それも大切ではあるけれど、そのコンフォートゾーンから出るような体験をたくさんさせてあげたいと思っているんです。
私は、子どもを育てるうえで、固定概念を押し付けないということをいちばん大切にしています。女の子だからピンクの服が好きとか、日本人だから日本に住まないといけないとか、そういう概念は一切持っていないし、子どもにも持ってほしくないと思っています。
成長の過程では、つい自分のバウンダリー(境界や限界)を狭めてしまいがちだけど、それをどんどん壊していってほしい。読書はその延長線にあって、読むだけでどこの世界へも、どんな時代にも行けるじゃないですか。だから、子どもが本を読んでいるときは、ごはんの時間だったり学校に行く時間でも、ギリギリまでは声をかけないようにしています。
ーーSayaさんはどんな本が好きですか?
Sayaさん:今はハリーポッターシリーズを読んでいて、ファンタジーとかリアルな世界ではありえないようなストーリーが特に好きです。英語のほうが読みやすいので、本も英語で読んでいます。
娘のことを心から尊敬できる親子関係
ーーSayaさんから見て、お母様はどんな人ですか?
Sayaさん:お母さんは厳しいところもあるけど、とにかく面白くて、いつも息ができないくらい笑わされています(笑)。
ーー摩耶さんから見るSayaさんはどんな人ですか?
摩耶さん:心から尊敬できる人です。アートに関してはもちろんすごいし、アート以外の部分でも、私よりも人間として秀でている部分がたくさんあると思います。前向きな性格や誰とでもすぐに仲良くなれるところも感心させられます。
たとえば、Sayaは決して足が速くないのに、毎年リレーの選手に立候補するんですよ。立候補した人たちで走って、代表をひとりだけ決めるのですが、もちろん他に速い子がいるから、いつも選手にはなれないんです。でも、悔し涙をしながらもその過程を楽しんでいて、また次の年には立候補するんです。私はそこまでできないなと思うくらい、心が強いですね。
子どもから教えられたお金の価値
ーー親が子どものことをリスペクトしている関係性は素敵ですね。
摩耶さん:子どもから教えられることもたくさんあります。これは、Sayaの兄の話ですが、私が以前、おもちゃをお店で買うよりも、ネットショッピングのほうが安いという話をしたことがあったんです。
そのときに、お兄ちゃんは「Amazonで買ったほうが500円安いかもしれないけど、おもちゃ屋に行って自分で手に取って選んで、レジに持って行って袋に入れてもらって家に帰るという行動が、どれだけ子どもにとって嬉しいことか」を話してくれたんです。そのワクワクは500円以上の価値があると。たしかに、価値というのはそういうことだよな、と気付かされました。
ガチャガチャについても、家族会議で話したことがありました。ガチャガチャは1回300円だとしても、中に入っているおもちゃはきっと300円の価値はない。でも、ガチャガチャを回すワクワクに300円の価値があると思うなら、やろう、と。こういう話し合いをけっこうするし、お金のことについてもしっかりと教えています。
ーーお金の教育の重要性は最近よく話題になりますよね。
摩耶さん:はい。我が家では、お小遣いをどう使おうなどという細かい部分の話ではなく、もっと経済全体の話をしています。たとえば、このお茶は100円で売られているけれど、どんな経費がかかっていて、利益はどれくらい残るんだろうか、とか。為替や投資の話もよくします。
天才に聞く天才
ーーSayaさんにお聞きします。Sayaさんが思う「天才」とはどんな人でしょうか。
Sayaさん:頭がよくて勉強が得意な人とか、親にやらされていることを上手にできる人は、天才だとは思いません。自分が好きなことに熱中して自分で頑張った結果、いつのまにか周りの人から「すごいね!」と言われる人が、本当の天才だと思います。
摩耶さん:Sayaは壁にぶつかっても自分でそれに気付かないくらいで、笑いながら壁を突破していきます。でも、アートの世界は、たとえばひとつ間違えて線を引いてしまったとしたら、それを直すのか、使うのか、常にたくさんの枝分かれがあります。
その小さい壁がたくさんあるなかで、うまくできなかったとしても、その過程をも楽しんで、笑いながら突き進んでいくんです。だから、私も常に「いいじゃん!」「それも素敵だよ!」と否定せず、応援することを楽しんでいます。
将来の夢
ーーSayaさんの将来の夢を教えてください。
Sayaさん:ピザ屋さんになることです。普通のピザ屋ではなくて、入り口が滑り台になっていたり、お店の人が歌を歌っていたり、お客さんは自分のピザに絵を描くことができたりする、これまでにないピザ屋です。私は絵を描くこととピザが大好きなので、それを形にしたいと思っています!
編集後記
絵を描いているときのSayaさんからは、お母様が話していた「数学者のような顔つき」を見た。インタビュー中の無邪気な雰囲気とは違い、真剣に思考している表情や、どんどんと描き足される独自の色や線からは、まさに天才アーティストの一面を感じた。
また、Sayaさんが生まれ持った才能をここまで引き出し、伸ばしてこられた摩耶さんの自由で何にも縛られない子育てからは、親として学ぶことが数えきれないほどあった。
これからも、バウンダリーをどんどん広げ、世界中に羽ばたいていくだろうSayaさんから目が離せない。
<取材・撮影・執筆> KIDSNA編集部