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【天才の育て方】#18 田中環子~古代エジプトから未来を考える13歳の研究者
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KIDSNA STYLEの連載企画『天才の育て方』。#18は、7歳のときに魅せられた古代エジプト文明の研究を続けメディア出演でも話題を呼んだ、孫正義育英財団生の田中環子さんにインタビュー。興味に向かって突き進む彼女のルーツや背景を紐解いていく。
「古代の暮らしやミイラを再現することで、古代エジプト人の気持ちを感じてみたい」
「考古学を通して世界の役に立ちたい」
こう語るのは、7歳のときに古代エジプト文明に魅せられ、研究を続ける13歳の田中環子さん。2021年・2023年に出演した「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」で、古代エジプトへの情熱や行動力が話題を呼び、その後「体感型古代エジプト展 ツタンカーメンの青春」公式アンバサダーへの就任。彼女の古代エジプト文明への想いの強さは、年々人々の記憶に刻まれてきている。
また、彼女は、ソフトバンクグループ代表である孫正義が「高い志と異能を持つ若手人材支援」を目的として設立した公益財団法人 孫正義育英財団に、応募者560人の中から選定された内の1人となり、6期生として所属。
明るく天真爛漫な雰囲気が人を惹きつける彼女だが、エジプトに対する知識と情熱には驚かされる。今回はお母さまにも同席いただき、環子さんの才能が育まれたルーツに迫りたい。
エジプト文明への入り口は一冊の絵本から
ーーエジブト文明にはまった背景について教えてください。
環子さん:もともとテレビなどで世界遺産を見るのが好きで興味があったのですが、小学1年生のときに、かこさとしさんの『ピラミッド その歴史と科学』という絵本に出会い、そこから一気に魅了されました。エジプト文明への想いはこの絵本から始まって、今では専門書も含めて50冊以上は読み込んでいます。
ーーエジプト文明のどういうところが魅力なのでしょうか?
環子さん:私にとってのエジプト文明の魅力は4つあります。
①個性の強い王様が多い
②ピラミッドをはじめとした建造物や美術品の技術力が高い
③政治や教育、情報に関するシステムが現代でも活用されている
④現代では欠かせない古代エジプトの発明品
特に①については、各王の時代を知れば知るほど面白いですね。それぞれ統治制度や戦争の数、外交政策などが全く違っているので、同じ国の王様とは思えないです。
ちなみに、④についてですが、現代の私たちにとって必要不可欠なカレンダーやビール、そしてなんと自動販売機まで、実は古代エジプトで発明されました。
ですが、もちろん全てが完璧というわけではありません。ピラミッドもそうですが、失敗している部分も多く見受けられます。挑戦や間違いを繰り返しながら生きてきた人間らしい歴史もまた面白くて、知りたいことが次から次へと出てくるんです。
知識だけではない。全身でエジプトを理解したい
ーーミイラを作ってみたというエピソードを聞きましたが、どのようなきっかけで作ってみたのでしょうか?
環子さん:博物館で実物を見たりしたことがきっかけですね。「これはどうやって作っていたんだろう」と、どうしても自分でやってみたくなるんです。ちなみに、ミイラはスーパーで買ったイナダで作ってみました。
他にもイナダのミイラ用の棺を粘土で作ってみたり、古代エジプトの衣装や装飾品を作ったり、当時の食事を再現したりしています。
知識をつけるだけではなく、自分の目で見て、匂いを嗅いで、肌で感じて、全身を使って古代エジプトを理解したいです。
ーー紙まで再現しようとしたのは本当ですか?
環子さん:はい。ナイル川の周りにたくさん生えているパピルスという植物を、家の庭で育てたこともあります。パピルスというのは、成長したものを乾かして、割いて、編むと紙になるんです。
母:最初は娘に「パピルスから紙を作ってみたいから、家にナイル川を作りたい」と言われたんです(笑)。さすがにナイル川は作れないので、沼のようなものを庭に作って、一年くらいパピルスを育てました。ただ、日本の環境ではうまく育てられなくて断念してしまったのですが。
環子さん:気温や湿度などの条件がいろいろあると思うのですが、紙を作るまでは絶対やってみたいので、また挑戦します。
子どもの自発性を大切に、大人は説明や評価をしすぎない
ーーエジプトが好きになる前は何が好きだったんですか?
環子さん:虫・ペンギン・恐竜などいろいろなことが私のなかでブームになりましたが、長くはまっていたのは重機です。保育園に行くときに、トラックや重機がよく通る大きな道路を毎日通っていたので、いつも長い時間眺めていました。
母:重機も大好きでしたが、とにかく「なんでもやりたガール」でした。自然保育に力を入れている保育園を選んだので、常に工夫してなにかを作ってきたり、木の実や虫を集めては持って帰ってきていましたね。
環子さん:雨の日も雪の日も、レインコートを着て往復6kmの道のりを歩いて広い公園まで遊びに行くような保育園でした。公園でブルーシートを敷いてお昼寝をしたり、雨のなか高尾山に遠足に行ったりしたことをよく覚えています。自然に触れるだけでなくて舞台を見に行ったり、生きたものに触れる時間をたくさん過ごしました。
母:自発性を重んじている保育園だったので、文字や数字を大人が教えたりすることはやめましょうという方針でした。子どもの内なる声を聞いて、自発的に本を読みたくなったりするまでは待ちましょう、と。
ひらがなに興味を持つと、最初はかわいい鏡文字を書いたりしますよね。でも保育園では、鏡文字が間違っているということは大人の視点でしかないという考えでした。子どもが発するものをそのまま受け止めて、説明しすぎず、正しい・正しくないの評価もくださない、という保育園のスタンスはとても勉強になりました。
そんななかで子どもたちは読みたいように読むし、知りたいことを知ろうとする子が多くて、いろいろな方針があるとは思いますが、娘には非常に合った環境だったと思っています。
家族みんなで興味の種を拾い上げて、全力で向き合う
ーー環子さんの「興味の種」に気付くために、お母さまが心がけていることはありますか?
母:子どもっていろいろなタイミングで興味がどんどん移っていくので、どんなことでも拾い上げるように気を付けていました。家族3人で娘がそのとき好きなものにいっしょに夢中になって、全力で向き合ってきました。
環子さん:私が興味を持ったものを否定されたりダメだと言われたことは全くないし、いつもいっしょに楽しんでくれます。
母:子どもがなにかをしたいと言ったとき、つい親としては本気度を測りたくなりますよね。でも、そのときやりたいんだったらやってみないと分からないし、結果としてやめることになっても、「やってみたから違うとわかったね」「もっと他のことが好きになったからだね」という方向に消化しています。
子どもの想いを試して待つようなことをして機を逃すくらいなら、やりたいときにやりたいことを全力でやらせてあげたいですね。今後もしかしたらエジプトではない種が出てくるかもしれないけれど、それはそれでいいのかなと思っています。
ーー拾いあげてみたものの、そんなにはまらなかったり、すぐ飽きちゃったこともありましたか?
環子さん:けっこうあるよね(笑)。
母:けっこうあります。あとは、親として子どもの心の火に油を注ぐタイミングとか、油の量を見極めることは大事だなと思っています。
あるとき娘はすごく欲しい人形があって、どういうふうに遊ぼうかとか、洋服を作ってあげようとか想像して楽しむくらい欲しがっていたんです。でも、そのときは買う理由が見つけられなくて、誕生日まで我慢させちゃったんです。
ですが、やっと買ってあげられたときには、もう熱は冷めていて。でも、子どもながらに親をガッカリさせまいと嬉しそうに振る舞っている姿を見て、タイミングの大切さを思い知るきっかけになりました。
エジプト文明から学んだ「記録に残す」大切さ
ーー環子さんは以前他のメディアで「エジプト文明を研究することで、過去から学びを得ている」とおっしゃっていましたが、具体的にどのようなことを学んだのでしょうか?
環子さん:私がエジプトから学んだいちばん大きなことは、「大切なことは記録に残す」ことです。古代エジプトでは、戦争の記録や自分の功績などを記録に残す習慣がありました。
以前、テレビ番組の企画でエジプトに連れて行ってもらったときに、世界最古の平和条約が壁に記されている「カルナック神殿」を見に行きました。そこには「戦争は終わりにして、これからは両国で協力体制を取っていく」といったことが記されていて。
カルナック神殿に立って、その平和条約を自分の目で見たときに、「人間は反省や誓いを記録として残して、次の時代に活かさなければならない」と強く感じました。
それから、私は小学校6年間、日々の出来事や感じたことを毎日日記に残しました。個人の日記は平和条約に比べるとささいな記録ですが、感じただけではなくてそれを言葉として残すことで、心に新たに刻み、いつでもその感情をよみがえらせることができると思っています。
ーー失敗や壁にぶつかったときはどのように乗り越えてきましたか?
環子さん:集中力があるタイプではないので、なにかに行き詰まったときは、一旦放っておいて別のことするようにしています。勉強でわからないことがあったときも、時間をおいてまた挑戦すると意外とできたりするので。やりたくないことは無理にやらないです。
お母さん:自分で自分の機嫌を取ったり、自分の気持ちを紛らわせたりすることが得意なのかもしれないですね。だから親としてはあまり出過ぎないように、自分で解決するのを見守っていることが多いです。
天才に聞く天才
ーー環子さんが「この人は天才!」と思う人はいますか?
環子さん:孫正義育英財団の方々は天才ばかりだと感じます。休みの日は財団生専用の施設に行って、メンバーとコミュニケーションを取るようにしているのですが、机に向かってひたすらに勉強をしている人ってあまりいなくて。ボードゲームをしたりご飯を食べながら雑談をしたりという人もいて、自由に過ごしているんです。
もちろんお互いの専門分野について話を聞いたり意見を交換する機会もあります。そのように、フラットな交流をしたり、別の分野のスペシャリストの話を聞いたりすることで、自分の考えが偏ることなく、冷静な研究者になれるのかなと感じています。
ーーエジプト大使からも「環子は天才だ」と言われたエピソードがありますが、ご自身ではどのようなところが天才だと感じますか?
環子さん:私はちょっとだけエジプトに詳しいただの中学生でしかないので、天才ではないし、本当になんでそう言ってもらえたのかはわかりません。
母:私も娘が天才だとは全く思っていません。でも、そう言ってくれる人がいるのは、娘には「大事にしている軸」があるからなのかなと思います。持って生まれた才能があるわけではないけれど、自分で見つけた軸があって、そこにパッションを燃やしていることを、天才だと表現していただけるのかもしれません。
多様な仲間とともに古代エジプトを解明したい
ーー環子さんの今後の目標を教えてください。
環子さん:将来は考古学者として「実験考古学」という分野で、エジプトを研究したいと思っています。自分ひとりで研究を続けるのではなくて、国籍や人種や年齢の枠組みを超えたさまざまな人たちといっしょに研究をしたいです。
英語やヒエログリフ(象形文字)などの勉強はまだまだこれからなので、地道に勉強していく必要があります。ただ、それだけではなくて、どんな人にも先入観を持たずに話しかけたりコミュニケーションを取ることが考古学者として大切なのかなと思っています。
思い込みや視野の狭さは新しい発見にはつながらないと思うし、自分の視野をできるかぎり広げるためにも、普段の生活からたくさんの人とのかかわりを大切にしていきたいです。
編集後記
メディア出演した際、SNSには「応援したくなる」というコメントが数多く寄せられ、人を惹きつける魅力を持つ環子さん。「エジプトが好き」という純粋な想いで突き進む一方、「考古学をとおして世界の役に立ちたい」という夢は真摯であり、明るく天真爛漫な人柄のなかに強い芯や誠実な想いが見えた取材であった。
「娘は天才なんかではない」と語るお母さまからは、環子さんの好奇心や探究心をおもしろがって、子育てを試行錯誤しながら全力で楽しんできた様子が感じられた。
環子さんの人を惹きつける人柄は今後も多くの人を巻き込み、ひとりでは成し得ない大きな発見をしたり、それを世の中のために役立ててくれることだろう。
<取材・執筆>KIDSNA STYLE編集部