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習い事でやり抜く力を育てる。人より遅くても「続けること」で身につく力
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医学博士/認知科学者/脳科学者/東北大学加齢医学研究所脳科学部門認知行動脳科学研究分野/東北大学大学院情報科学研究科准教授
医学博士/認知科学者/脳科学者/東北大学加齢医学研究所脳科学部門認知行動脳科学研究分野/東北大学大学院情報科学研究科准教授
医学博士・認知科学者・脳科学者 東北大学 加齢医学研究所脳科学部門認知行動脳科学研究分野及び、東北大学大学院情報科学研究科准教授 内閣府 moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child carecommons―を実現するための情報基盤技術構築)。 内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業(JST創発的研究支援)によって、日本全国の大学や研究機関などから選ばれた252名の研究代表者のうちの1人。 仙台市教育局学びの連携推進室「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト委員会」委員を務める。 有識者出演 NHKテレビ「思考ガチャ」、日本テレビ「スッキリ」日本テレビ「カズレーザーと学ぶ。」等。 3人の子どもを育てる母でもある。
予測不能な時代を生き抜くために必要な「〇〇力」。前回は、やり抜く力(グリット力)とは後から伸びしてくる力であること、後天的に鍛えることができる力であることを、脳科学者の細田千尋先生に教えてもらった。では、子どものやり抜く力を鍛えるために親はどのようなコミュニケーションを取ったらよいのだろうか。
前回、やり抜く力(グリット力)というのは10代にグンと伸びる力であることや、やり抜く力を育てることによって将来の受験や仕事にもポジティブに作用する、というお話を聞きました。今回のテーマは、やり抜く力を鍛えるにはどのような方法があるのか。親としてどのようなコミュニケーションを取るべきなのか。
引き続き、脳科学者の細田千尋先生に教えていただきました。
やり抜いた状態とは?親子で目線を合わせるコミュニケーション
ーー今回は、やり抜く力を身につけるための具体的な方法を教えていただきたいです。
細田先生:まずは、「やり抜いた状態」の定義を親と子で揃えましょう。たとえば子どもは難しいことに挑戦していると思ってても、親はそう感じていなかったりしますよね。だからこそ、親子で目線を合わせることが非常に大事で、そこは親が子どもに合わせるべきだと私は思っています。
たとえば、5~6歳の子に「ひとりで朝の支度をできるようになってほしい」と思うのであれば、朝の支度とは具体的に何をすることなのかを親が言語化できていないといけません。実際に「朝の支度」を分解してみると、
・朝、自分で起きる
・トイレに行く
・食卓に座って、自分でご飯を食べる
・歯を磨いて顔を洗う
・服を用意して着替える
・家を出る予定時間までにそれらが終わっている
などがあげられるでしょう。
細田先生:ただ漠然と「なんで何回言っても朝の準備ができないの」などと叱るのではなく、細かいステップに分解したうえで、できていることがあったなら、まずはそこまでは認めてあげる。そして、できていないところを「じゃあ明日からはこうしようね」とアドバイスしてあげるのが建設的だと思います。
大人から見たら「なんでそんなことができないの」と思っていても、本人にとっては難しいことに挑戦しているのかもしれないません。そもそも親が「こうしてほしい」と思っている状態に子どもが到達していなかったら褒める対象ではない、という考え方は間違っていますよね。
ーー私もいつも「朝の準備早くして!」と叱ってしまいますが、子どもは何をしたらいいのか、具体的には分かっていないのかもしれません……。スモールステップに分解してあげることが必要なんですね。
細田先生:そのとおりです。「現時点での子どもの状態」と「こうなってほしい理想の状態」。その二点が離れているとしたら、いっきに飛び越えて理想の状態に持っていくことはできません。だから、その二点の間にある小さなステップを親子で一緒に確認して目線を合わせながら、進めていくことが大事です。
細田先生:学校の勉強でも同じです。どこまでができていて、どこでつまずいてるのか。そして、持ち直すためには何をすればいいのか、というようにひとつずつ見てあげましょう。親子で目線が合っていれば、次はなにをしないといけないのか、同じことを考えるはずなんです。
やり抜く力を鍛える方法
ーー「なんでできないの?」ではなくて、できていることを認めて、「次はこうだよね」といっしょに確認していくことが、大事なコミュニケーションなんですね。では、実際にやり抜く力を鍛えるにはどのような方法があるのでしょうか?
細田先生:習い事はひとつの方法ですね。困難にぶつかっても、自分で工夫をして頑張ったらその困難を乗り越えられる、という成功体験の積み重ねがやり抜く力につながります。
ただ、ものすごく高いレベルを目指すのではなく、ゆるやかでもいいから階段を一段一段上りながら、とにかく続けること。そして、その上達は親だけが感じるものではなくて、本人も感じられることが大事だと思います。
たとえば水泳だったら、最初のほうで、けのびをやりますよね。数回習ったらできる子もいれば、半年かかっても難しい子もいるかもしれません。でも、「けのびをやる」と目標をたてることが無理な目標かといったら、そうではないですよね。
細田先生:ピアノであれば、「ドレミファソラシド ドシラソファミレド」と音階を弾くとか。それが無理な目標だとは思わないですよね。けれども、そこにたどり着くまでに当然個人差はあって、すぐにできる子もいれば、半年かかる子もいるかもしれません。
でも、半年かかることが悪いわけでもないし、向いていないわけでもなくて。半年かけてやればいいことだと思うんですよ。親が「なんでそんなにできないの」とか、子ども自身が「どうしてこんなにできないんだろう」と苦しく思ってしまうところを、どう乗り越えるかが大切。
それを乗り越える工夫をして、辛いけど頑張って続けていたら、どこかで絶対にできるわけです。だから、個人差があることを親も子どもも理解して、無理ではない目標に対してはコンスタントにコツコツとやり続ける。あまりにやりすぎるのもよくないですけどね。
ーーなるほど。それを「頑張ったらできた」と体験することで、次に同じような困難があったときにその成功体験が活かせるんですね。
細田先生:そうです。まさに、その積み重ねこそがやり抜く力につながります。「何歳のときにこれができる子は、やり抜く力がある」とか、そういう話ではないのです。私も親なので、どうしても早い・遅いとか、進んでる・進んでいない、といったことが気になる気持ちはわかります。場合によっては、進んでいる子がえらい、みたいなことってありますよね。
ーー他人と比べたくなってしまうのは仕方ないことではあるけど、個人差がありますもんね。ついそれを忘れてしまいがちかもしれません。子どもが続けることを辛く感じてしまっているときに、どのような声掛けやコミュニケーションを取ったらよいでしょうか?
細田先生:工夫の余地はたくさんあると思います。褒めるときにはナレーションが大事です。「今日は何分練習したね」とか「イヤだと思っていたところをこんなに何回もやったよね」といったように、やった行動を言葉にしてナレーションしてあげることがおすすめです。
「すごいね、天才だね!」「頑張ったね」など、漠然と褒めているだけでは効果がありません。「〇〇したよね。だからすごいよね!」みたいに、ナレーション+褒めることを必ずするようにしましょう。
ーー子どものことをよく観察していないとできないですよね。
細田先生:そうですね。乳幼児とか小学校低学年の子どもにとって大事なのは、見てもらえていることであって、そこに愛着形成や信頼感があるんです。特に新しいことにチャレンジするには、親との愛着形成がどれだけできているかが重要ですから。
ーー愛着形成って赤ちゃんの時の話でよく聞く言葉なんですけど、これって手遅れなことはないんですかね?
細田先生:たしかに愛着形成は、乳幼児期から始まります。ただし、人には承認欲求があって、それはずっと続くんです。だから、愛着形成は必ずしも赤ちゃんに限った話ではなくて、大きくなっても「見ているよ」「認めているよ」ということを伝えてあげることが必要です。
細田先生:やり抜く力の要素には「困難なことに立ち向かう力」がありますが、主体的にいろいろなことにチャレンジしてほしいのであれば、「チャレンジして失敗しても、自分には戻ってくる場所がある」「自分のことをあたたかく受け入れて、認めてくれてくれる人がいる」と子どもが思えること、それがとても大切です。
子どもはなにかにチャレンジするとき、失敗のリスクを背負っていることを知っていますから。「批判される」「怒られる」などと思ったら、尻込みしてしまいます。実際に、親から「あれしなさい」「これしなさい」と指示をされて育った子どもは、命令がないと動けなかったり、主体性がなかったり、やり抜く力も低いということが明らかになっています。
親と子のやり抜く力は相関する?!
ーー親から指示されて育った子ほど、やり抜く力が低いんですね……。子どもが安心してチャレンジができるようにあたたかく見守ることを、親としてあらためて意識していきたいと感じました。親自身のやり抜く力は子どもに影響するのでしょうか?
細田先生:私たちが行っている研究では、母親のやり抜く力と子どものやり抜く力は、相関することが分かっています。遺伝要因なのか、環境要因なのかはまだはっきりとは分かっていないのですが。
もし環境要因なのであれば、お母さんがいっしょにやり抜く力をトレーニングすれば、子どもも変わるのではないか、現在はそのような研究も行っているところです。
ーー研究の結果がとても気になります!子どもの朝の支度もお母さんのダイエットも、「一緒にやっていこう」という行動自体がモチベーションにつながったり、そのコミュニケーション自体に意義があるようにも思いました!
細田先生:そうですね。あとは、やっぱり得意なこと・好きなことをやるのと、苦手なこと・嫌いなことをやるのとでは負荷が違うんですよ。
苦手なこと・嫌いなことの場合は、大体つまづくから嫌いだし、得意なこと・好きなことは、つまづかずにできるから好きなんですよ。だから、苦手なこと・嫌いなことに対しては、ゴールや「できたときのイメージ」を持たせてあげることがより大切です。
ダイエットでも、5キロ、10キロ痩せることをゴールにしてしまうと、日々の努力がなかなか報われないと感じてしまいます。だから、一週間で300g減を目指してみるとか、スモールステップにするとやる気も出ますよね。そこの目標感と達成感をしっかり一致させるように、セルフコントロールすることが必要です。
ーーなるほど。そこのゴール設定は経験が浅い子どもには難しいから、親が一緒に考えてあげるべきなんですね。
細田先生:そうですね。ただ、目標に対してなにが必要なのかを分解して、ステップをひとつひとつ理解することは、いつか自分でできるようにならないといけません。それができるようになるまでは、親御さんが一緒に見てあげるとよいですね!
ーー編集後記
やり抜く力を鍛えることで、他のことに挑戦したときにもやり抜くことができるようになるというお話を聞いて、子どもにとって大きな財産になると感じた。
ただ、やり抜く力を簡単に身につけられる魔法のような方法があるわけではなく、子どもがコツコツとやり続けることを、親としていちばん近くでサポートし続けることを忘れないようにしていきたい。
Profile
細田 千尋
医学博士・認知科学者・脳科学者
東北大学 加齢医学研究所脳科学部門認知行動脳科学研究分野及び、東北大学大学院情報科学研究科准教授
内閣府 moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child carecommons―を実現するための情報基盤技術構築)。
内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業(JST創発的研究支援)によって、日本全国の大学や研究機関などから選ばれた252名の研究代表者のうちの1人。
仙台市教育局学びの連携推進室「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト委員会」委員を務める。
有識者出演 NHKテレビ「思考ガチャ」、日本テレビ「スッキリ」日本テレビ「カズレーザーと学ぶ。」等。
3人の子どもを育てる母でもある。