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【食品添加物の真実#03】野菜も有害。“自然のものが安全”は間違い
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「体に悪い」というイメージで、なんとなく避けてしまう食品添加物。子どもに少しでも良いものをと、無添加やオーガニックの表示を意識することも大切だけれど、その判断は果たして正解なのか?私たちの知らない食品添加物の真実を、東京大学名誉教授であり、公益財団法人食の安全・安心財団の理事長を務める唐木英明さんに話を聞いた。
第2回では、なぜ食品添加物が「安全」といえるのか、食品に添加されている量と、私たちがふだん摂取している量とを比較しながら、科学的な事実を教えてもらった。
今回は、野菜やフルーツ、子どもが好むお菓子などに含まれるトランス脂肪酸やソーセージなど、私たちの身近にある食べ物と、それらを選ぶ時の考え方について聞いていく。
食品添加物より自然の野菜の方が怖い!?
――保存料や甘味料、着色料など、パッケージの裏の原材料を見て表示があると、ついつい買うのを躊躇します。
みなさんは食品添加物を嫌い、避けようとしますが、実はそこに大きな落とし穴があります。
電化製品やプラスチック、除菌剤、防臭剤、殺虫剤や洗剤など私たちの身の回りのものには化学物質が使われており、便利な反面、多量だと毒性があり、人体や環境に影響を与えます。
化学物質は食品にも含まれており、中でも、食品添加物は科学技術を使って人工的に作り出した「合成化学物質」と、食品などから抽出した「天然化学物質」があります。そして私たちが安心安全だと思って食べている野菜やフルーツにも「天然化学物質」が含まれています。
食品添加物にとても敏感な方は多いですが、野菜やフルーツにも化学物質が含まれていることを知っている方は意外と少ないのではないでしょうか。
しかも、毎日の食事には、基準や量が厳しく設けられている食品添加物よりも野菜やフルーツの天然化学物質の方が圧倒的に多量です。
野菜やフルーツなどの植物には、昆虫や細菌、カビといった天敵がいます。昆虫に食べられたり、細菌やカビで枯らされないために、植物は化学物質を自ら大量に作り出し、これらの敵を撃退しています。この化学物質の中には、人体に有害なものもあります。
お米や野菜は離乳食初期から食べ始め、子どもの成長に欠かせない栄養源です。野菜を食べていれば安心と考えているお母さんも多いのではないでしょうか。
でも、天然自然の食品が一番安全というのは大きな間違い。
食品添加物は厳しい検査と使用基準が設けられているため発がん性があるものはひとつもありませんが、天然化学物質には発がん性があるものも多いんです。
こう聞くと、野菜やフルーツを子どもに与えるのが怖くなるかもしれませんが、実際のところ、心配はいりません。
人間は何万年もの間、野菜やフルーツを食べ、それらが作り出す化学物質も摂取しながら生き延びてきました。
食べ続けたことで人体の肝臓は強力な化学物質の代謝酵素を持つようになり、摂取した化学物質は急速に代謝され尿といっしょに体内から排出されます。野菜やフルーツの化学物質は、食品添加物よりずっと多量ですが、それでも肝臓の働きで簡単に排出される程度の量なのです。
野菜やフルーツは有害な化学物質も含んでいますが、ビタミンやミネラルなど人体に有益な化学物質も含んでいます。だから、野菜やフルーツを食べることで健康を保つことができるのです。
粉ミルクの添加物は安心安全?
――自然のものであれば人体への害がゼロというのは間違いだと分かりましたが、赤ちゃんの粉ミルクの添加物は心配です。
粉ミルクには、栄養成分表示と原材料名の2つが記載されています。
栄養成分表示は、赤ちゃんの成長に必要な成分を示すものです。
原材料名は、粉ミルクを作るために使われたものが何なのかを書いてあります。安全で、必要な栄養成分をすべて供給でき、しかも高価格にならず、安定して供給できる材料が選ばれています。ビタミン類など医薬品あるいは添加物として使用されるものも入っています。
粉ミルクは、長年の間、多くの乳幼児が飲み続けて安全性には何の問題もないことを証明しています。
原材料に使われているパーム油には飽和脂肪酸が含まれ、これは健康に悪影響があると言われていますが、飽和脂肪酸は母乳にも含まれています。
粉ミルクの飽和脂肪酸量は母乳と同程度であり、パーム油が原料として使われたからといって、安全性には何の問題もありません。
加工食品やトランス脂肪酸は安心安全?
――他にも怖いものといえば、子どもがよく好むソーセージなどの加工食品です。
ウインナーに対する懸念が生まれた原因は、国際ガン研究機関(IARC)がウインナー、ハム、ベーコンなどの加工肉を「ヒトに対する発ガン性が認められる」グループに分類したことがきっかけでした。
同じグループには、喫煙、受動喫煙、アルコール飲料 、魚の塩漬け、 日焼けマシーン、靴製造、家具製造などが入っています。喫煙ががんの原因になることは多くの人が知っていますが、それとウインナーが同じ発がん性のものかというと、そうではありません。
国際ガン研究機関は「発がん性があるという科学的証拠」があると言っているだけで、「発がん性の強さ」については言及していません。
ウインナーにはごく微量の発がん性物質が入っていることは科学的に確かでしょう。
でも、一日にどのくらいの量を、どの程度続けたらがんになるのか。それはアルコール飲料も同じで、毎日少しずつ食べる分には問題がないのです。
――トランス脂肪酸はどうですか?一時期、危険物質として話題になり、欧米では厳しく規制がかけられたため「なぜ日本は規制しないのか」という意見も多く見られました。
小さなお子さんがよく飲む牛乳や、パン食に欠かせないバターやマーガリン、ショートニングを使ったパンやケーキなどの加工食品にもトランス脂肪酸は含まれていますね。
まず、トランス脂肪酸は食品添加物ではありません。天然の食品にも含まれている脂肪酸の一種です。
「身体に悪い」と問題視されているのは、加工食品を作る過程でできてしまう脂肪酸。バターやマーガリンなどは植物油や魚油を固体化させできています。もともと液体だった油脂を固体化させるとき水素添加を行いますが、そのときできてしまうのがトランス脂肪酸です。
トランス脂肪酸は摂りすぎると心臓病のリスクが高まります。こうした問題から国際機関はトランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%以下にするよう勧告しています。
欧米でトランス脂肪酸が規制されたのは、欧米の人は肉やチーズやバターから1%を超えるトランス脂肪酸を摂取していたから。日本で規制されないのは、日本人は勧告量の半分、0.5%ほどしか摂取していないからなんです。わざわざ規制する必要がない、というのが政府の判断で、商品への記載義務もありません。
でも、食品事業者は素早く反応しました。トランス脂肪酸を減らそうと製造方法を変えるなど自主的な努力を行い、トランス脂肪酸含有量の低い商品が次々発売されています。今では日本人の摂取量は大幅に減り、実質0.2%くらいまで下がっています。
偏見からくる食の偏りが不健康への第一歩
――食品添加物がいかに私たちの生活を支えているかを科学的に知ることができました。私たちはどのような基準で食品を選び、子どもたちに正しい知識として伝えていくべきなのでしょうか。
大切なのは、食品添加物を避ける自分なりの明確な理由をもつことです。
食品添加物は科学や医学からみると危険ではありません。そのことは、ここまでの説明で理解いただけたと思います。ですが、人には選択の自由がありますから「どんなに微量でも嫌だ」という人がいてもいいんです。
覚えておいてもらいたいのは、その選択の基準です。
正しい情報や知識をもとに判断しているかどうか。「身体に悪そうだから避ける」は科学的には正しくありません。保存料を入れなければ長期保存ができず、現代の生活環境や経済的な面でも大変です。それでも、「安全なのはわかっていても気分的に嫌だ」という感情的な理由であれば、それでいいのです。ただし、それを他人にも押し付けてはいけません。
日本の国民の安全を守るために必要だったのが食中毒をなくすことでした。そのために人類が見つけ出したひとつの発明が、食品添加物です。
これを使うことで多くの国民の安全を守れるし、食品のライフスパンも伸びて廃棄の問題もなくなる。食品添加物を避けることで食べるものや栄養バランスが偏ってしまうことの方が問題です。
科学的なことは目に見えにくくわかりにくいのは確かです。しかし、どの国も一流の科学者が共通の試験で化学物質の安全性を調査し、国民の安全を守る努力をしています。食品事業者も消費者と企業を守るためにさまざまな企業努力と工夫を繰り返しています。
正しい知識を学ぶと、目からうろこな真実や、生活に役立つ情報が得られると思います。科学的根拠を知り、自分なりの選択基準を設けて子どもたちの食生活を守っていきましょう。
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部