【防犯/前編】NOと言わさず連れ去り。清永奈穂氏に聞く巧妙なSNS被害

【防犯/前編】NOと言わさず連れ去り。清永奈穂氏に聞く巧妙なSNS被害

世界的に安全な国として位置づけられている日本の防犯対策とは?小学生をはじめとする子どもの誘拐や連れ去り、性犯罪被害のニュースは後を絶たない。この連載では、海外の防犯対策と日本の現状、親として認識すべき安全対策、子どもへの安全教育について紹介する。第一回目は、欧米の安全教育を研究し、日本各地で未就学児から参加できる体験型安全教育を開催している清永奈穂氏に話を聞いた。

日本は世界的に「安全な国」として認識されている。経済平和研究所による2020年の「世界平和度指数」では昨年と同じく9位に位置している。

「安全」という認識のもと、日本では小学1年から子どもだけの登下校がスタートする。

「社会基盤が不安定になってくると、幼児や高齢者などの社会的弱者が攻撃対象になります。犯罪は巧妙化し、これまでの防犯意識だけでは子どもを守れない」と話すのは、ステップ総合研究所所長代表の清永奈穂氏(以下、清永氏)。

同時に昨今は、SNSによる子どもの連れ出しや連れ去りが問題になっている。

未就学児の保護者にとって、SNSはまだ遠い存在かもしれない。しかし近い未来、子どもがSNSを使うことを止めることもできない。

同時に、昨今は、子どもの写真をSNSに投稿することの危険性など、保護者のリテラシーも問われている。

子どもに迫る危険をどのようにすれば回避できるのか。まずは清永氏が「私たち親世代では考えられなかった新たな手口が増えている」と話すSNSによる犯罪について見ていこう。

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清永奈穂(きよなが・なほ)/株式会社ステップ総合研究所所長兼、NPO法人体験型安全教育支援機構理事長。2018年4月から警察庁子どもと女性の安全対策検討委員会の委員を、2019年4月から内閣府子供・若者育成支援推進のための有識者会議の構成員を務める。二児の母。
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ネット社会がもたらす犯罪機会の増幅

未成年者の略取誘拐や性犯罪被害のニュースは後を絶たず、未成年者の誘拐は2020年1月~9月の間で221件認知されており、1日に一人の子どもが誘拐されている計算だ。

2019年の同時期は197件。コロナ禍で人々の外出が減ったにも関わらず誘拐件数が増加している背景には、SNSによる連れ出し、連れ去りがあるという。

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――子どもを対象とした犯罪は今、どのように変化しているのでしょうか。

金銭目的の誘拐ではなく、小児性愛者をはじめ、自分の性欲のために子どもを連れ去る事件が増えてきました。

インターネットの普及により、自分が欲しい情報を欲しいときに、簡単に入手できるようになった。潜在的な欲求がすぐに満たされることで、性的欲求はさらに増幅していきます。

最初は画面の中で見るだけで満足していても、声を掛けてみたい、触ってみたい、家の中に連れていきたいというふうにエスカレートしていき、抑えがきかなくなってくる。

特に今問題となっているのは、SNSです。

SNSで探せば、どこに住んでいるのか、年齢や趣味などは容易にわかってしまう。実際に、子どもの出歩きが減ったコロナ禍においても未成年者の誘拐が昨年よりも増加しているのは、SNSによって連れ出されるケースが増えているからといえます。

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――最近も小学生の子どもがSNSによって連れ出され誘拐された事件がありました。

会ったことのない相手でもオンライン上でやりとりをするうちに、優しくて自分と同じ趣味をもっている、信頼できるお姉さん・お兄さんという印象をもちます。

ゲーム上やSNSでは非常に親しくなるので、「出ておいでよ」と誘われたときも、知っている人に会いに行く感覚なんです。

明らかに犯罪の質、手法、接近方法は変わってきていて、自分から犯罪者のもとへ飛び込んでしまう危険が迫っている。

「知らない人にはついていかない」とか「知らない人の車には乗らない」といった内容を含めた防犯標語”いかのおすし”だけでは太刀打ちできなくなってきたのが、日本の現状です。

巧妙化する犯罪、無思慮化する犯人

――未就学児や小学生を狙った犯罪は、近年の手口としてどういった傾向があるのでしょうか。

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犯罪は非常に巧妙化していて、私たち親世代が想像するような無理やり車に連れ込むような手口は少なく、むしろ、この子と決めたら一人になるほんの一瞬の隙を狙ってつきまとい、相手が「No」と言わないような声がけをして連れ去ります。

2014年に起きた神戸長田区小1女児殺害事件では、交番もある大通りで声をかけ徒歩で連れ去りました。

ここで少女は声をかけられた。(撮影:清永奈穂氏)
ここで少女は声をかけられた。(撮影:清永奈穂氏)

大通りは普段人通りの多いところなのですが、木曜日の午後は病院が休診だったり交番のお巡りさんは巡回中で不在だったりと、人がパタッといなくなる瞬間があったんです。

なぜそれを犯人が知っていたのかというと、女の子を2時間半付け回し、どこなら声をかけやすいか選びながら一人になる隙を狙っていたから。

2018年に起きた新潟小2女児殺害事件も同じような手口です。

女の子を車でつけ、人気のない場所に女の子が差し掛かったところでランドセルに少し車をあてて、女の子が転んだ隙に車から降り「大丈夫?送って行ってあげるよ」と声をかけ車に乗せた。

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単に「お菓子あげるからおいでよ」というような声かけではなく、狙いを定め、連れ去る筋道を立てて接近する。

無理やり連れ去るわけでもなく、標的を見つけたら観察してチャンスをうかがう。非常に巧妙化しているんです。

さらに、犯人は自分が逃げることを考えないケースも増えました。

新潟小2女児殺害事件の犯人は数カ月前に別の事件で捕まっていて、ここで事件を起こせばすぐに捜査の手が伸びてくることはわかっていたはずです。それでも、自分の欲望を満たすことを先んじた。思慮がなく犯行に及ぶ者も多いのです。

京都アニメーション放火殺人事件や東海道新幹線車内殺傷事件も同じで、すぐに捕まることがわかっていても犯行に及ぶ。

多くの犯罪者が無思慮化していながらも、自分の欲望を満たすため、目的を遂げるための計画だけは非常によく考えているんです。

――SNSによる連れ出しも同じような印象があります。

SNSはさらにやりやすいですよね。犯罪者は、近づきやすいか、逃げやすいか、直感的に良いと感じるか、という観点でターゲットを決めていきます。ターゲットとして狙いやすいかを探るには、SNSは犯罪者にとって使いやすいツールです。

2017年の座間9遺体事件では、犯人はSNSで標的を見つけ、SNS上で100回以上やりとりをして狙いやすい相手かを探っています。

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それだけやり取りをしていれば、その子が好きなものや、どういう声掛けなら断らないか、好きなアイドル、行ってみたい場所など、いくらでもリサーチができる。

路上での連れ去りよりも、今後はSNSによる連れ去りが増えていくと考えられます。

ただ一方で、オンラインですから断ち切ることも容易です。

誘われても行かない、たとえ行くと決めたとしてもお母さんに行先を伝えてから行く、会ってしまったときでも人の多いところで必ず会い、そこからカラオケなどの個室には移動しない、相手に捕まりにくい距離を保つなどすれば、犯罪被害は自分で防ぐことができます。

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親が子どもの写真をSNSにアップする危険性

また、同時に気を付けなければならないのは、保護者が子どもの写真をSNSに投稿してしまうこと。やりすぎると、犯人にとっての恰好の情報収集になってしまうんです。

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私が代表をやっているNPO法人体験型安全支援機構で2020年に行った調査では、新生児から就学前児童のいる保護者のSNS使用実態を調べました。

その結果、使用しているSNSはInstagramが一番多く47.3%、Twitterが33.2%、Facebookが19.2%、その他が0.3%。

自分の子どもの写真や動画を投稿しているのは45.6%、自分の子どもと家族の写真や動画を投稿しているのは32.6%。そのほか、公園で遊んでいる写真や子どものお友だちとの写真も含め、「投稿している」と回答した数が、「投稿していない」数より圧倒的に大きかったのです。

多くの保護者が、一度写真をインターネット上に投稿すると永遠に削除できないという怖さを意識することなく、子どもの写真を投稿していることが分かりました。

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知らないところで自分の子どもの写真がSNSに出されていたという人もは4人に1人といわれ、特に水遊びや下着姿の写真は、児童ポルノサイトに掲載されたり、写真を加工して悪質な画像を作って流されるなど収集されたり悪用されるケースもあります。

はっきり顔の出ている写真、肌の露出が多い写真の投稿を避けるだけでなく、友人間で、シェアする際のルールを決めておいたり、場所が特定できるコメントはしない、SNSではなくアプリを使うのもおすすめです。

――SNSに投稿された写真から、住んでいる場所を特定されたりするのでしょうか?

写真の位置情報で居場所をつきとめたり、写真に写り込んだ学校や公園、街並み、看板などから住んでいる場所を調べる犯人もいます。

家の中の写真であっても、写りこんだ郵便物や窓や鏡の映り込み、学校の制服やスポーツのユニフォームなどでも特定されます。

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iStock.com/monzenmachi

デジタルストーカーとも呼ばれ、実際に誘拐の被害につながっています。

犯人が情報を求めればすぐに容易に得ることのできる世の中だということを、親自身が理解し、知識をもって配慮することが大切です。

海外でも多発するSNSによる誘拐と児童ポルノ

――海外でも、こうしたSNSによる子どもの被害はあるのでしょうか。

特にアメリカは子どもの誘拐が非常に多く、長年社会問題にもなっています。特に家の近く、ショッピングセンターなどで「ちょっとだけ」目を離したすきに連れ去られています。

全国子ども失踪・人身売買センター(NCMEC)の2008年の調査によると、アメリカでは年間約 5万 8000 人が何らかの理由で殺害されており、その74%は誘拐後3時間以内に殺害され、50%は被害者の家から3ブロック以内、約30%は半ブロック以内で起こっていると発表しています。

こうした背景がありながら、共働き家庭も多いため四六時中監視下に置いておくわけにもいかず、家の前で遊ぶ子どもも多くみられます。

そこにSNS経由で「家の前まで行くから〇時〇分に待ち合わせ」と声をかけられれば、子どもは一人で出て行ってしまう。

ロンドンの登校風景。(撮影:清永奈穂氏)
ロンドンの登校風景。(撮影:清永奈穂氏)

欧米で非常に問題視されている児童ポルノも、発端はSNSであることが多く、最初は顔だけでいいと言っていたものが、次はバストアップで、次は全身で、ちょっと袖めくってみようか、という風に、少しずつ露出を増やしていく。

水着写真を要求され躊躇すると「でも足の写真送ったよね、それはママはいいって言っているのかな」と脅してくる。もしくは、女の子のふりをして「私も送るから」と言ってきたり。

自分で撮影し自分が送った写真によって脅迫され、会わざるを得なくなる。ただ、無理やり連れ去るわけではないんです。ここは日本と同じです。

中編では、小学1年から子どもだけの登下校がスタートし、ひとりで留守番をさせることも多い日本とは対照的に、「14歳未満の子どもを一人にしてはいけない」と法律で定められているアメリカやイギリスの防犯対策について話を聞いていく。

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<連載企画>子どもの防犯新常識 バックナンバー

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

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