【防犯/中編】「子どもを一人にしない」だけで犯罪から守れるか

【防犯/中編】「子どもを一人にしない」だけで犯罪から守れるか

世界的に安全な国として位置づけられている日本の防犯対策とは?小学生をはじめとする子どもの誘拐や連れ去り、性犯罪被害のニュースは後を絶たない。この連載では、海外の防犯対策と日本の現状、親として認識すべき安全対策、子どもへの安全教育について紹介する。第2回目は、欧米の安全教育を研究し、日本各地で未就学児から参加できる体験型安全教育を開催している清永奈穂氏に話を聞いた。

前編では、日本で起きている子どもの誘拐がどのような経緯をたどり発生しているのか、そしてSNSにおける子どもたちの被害の実態について聞いてきた。

【防犯/前編】NOと言わさず連れ去り。清永奈穂氏に聞く巧妙なSNS被害

【防犯】NOと言わさず連れ去り。清永奈穂氏に聞く巧妙なSNS被害

中編では、小学1年から子どもだけの登下校がスタートし、ひとりで留守番をさせることも多い日本とは対照的に、「14歳未満の子どもを一人にしてはいけない」と法律で定められている州もあるアメリカやイギリス、中国の防犯対策について話を聞いていく。

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清永奈穂(きよなが・なほ)/株式会社ステップ総合研究所所長兼、NPO法人体験型安全教育支援機構理事長。2018年4月から警察庁子どもと女性の安全対策検討委員会の委員を、2019年4月から内閣府子供・若者育成支援推進のための有識者会議の構成員を務める。二児の母。

親の虐待とみなされる14歳未満の留守番

日本では小学1年から子どもだけの登下校がスタートし、ひとりでお留守番をする子どもも少なくない中、海外ではどのような子どもを守る防犯対策がなされているのか。

海外諸国では子どもを守る条例のひとつとして「一人で留守番させない」という内容が定められていたり、一般的なガイドラインとされているケースも多いという。

たとえば、アメリカの保健福祉省の「Leaving Your Child Home Alone」によると、イリノイ州では14歳未満、メリーランド州では8歳未満の子どもを留守番させることは違法だ。

法令化されていない州でも、子どもを一人にする場合のガイドラインが定められている。

イギリスでも具体的な子どもの年齢こそ定められていないが、通学の安全の責任は保護者にあり、また放課後もひとりで子どもを行動させることは少ない。中国でも特に北京や上海などの大都市では登下校は保護者や祖父母などが送迎し、放課後の習い事なども大人がついていく。

日本では、小学校入学と同時に一人行動が始まる。海外諸国の子どもの安全対策はどのような仕組みになっているのだろうか。

――海外での子どもの安全に対する防犯対策について教えてください。

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アメリカでは子どもの誘拐が非常に多く、30年前くらいから大変な社会問題となっています。

犯罪者を取り締まるためのミーガン法が1994年に制定され、性犯罪で有罪判決を受けた者は15年間住所などを登録、監視可能な状態に置くようにしました。また2000年には人身取引被害者保護法が制定され、児童への性的暴力に対する罰則の強化などが現在までも進められています。

子どもを守る条例のひとつとして「14歳未満の子どもの放置は違法」と定めている州もあります。年齢の部分は州によって異なり、アメリカ全土で定められているわけではありません。

ただ、一般的なガイドラインは引かれていて、13歳未満の子どもだけで街を歩いていると保護されるし、子どもだけでショッピングモールなどで遊んではいけない。車に子どもを置き去りにしたり、子どもだけで留守番をさせることを禁止している州もあります。

これらを守らないと、親にはペナルティが課せられ厳しく罰せられます。

子どもだけでいるところを発見した場合には通報する義務も大人には課せられているので、自分が罰せられないよう注意を払っている親が大半です。

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一瞬たりとも、目を離さない

――親に課せられるペナルティは厳しいのですか?

これも州によりますが、罰金のほかにも、虐待とみなされて子どもと分離させられることもあります。

ただ、親が恐れているのはペナルティの内容よりも社会的信頼の喪失や、親としての資格がないとみなされてしまうこと。

警察が家に来て注意されるだけでも、周囲からの社会的信頼は失われますよね。だから一瞬たりとも、目も手も離せないんです。

――「見える範囲だから大丈夫」という日本的な感覚での見守りは通用しないんですね。

通用しません。たとえばお祭りに行くと金魚すくいなど屋台にならびますよね。それもアメリカでは、子どもたちだけで並ばせてはいけない。

私は元犯罪者と一緒に研究を進め、どういった瞬間に子どもを狙うか、連れ去るかを調査していますが、本当にちょっと目を離した隙に連れ去るんです。

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そういった犯罪者の行動をアメリカの親はよくわかっているので、一瞬でも目を離してはいけない、という意識が徹底されているのだと思います。

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親の送迎とご近所の”ネイバーフッドウォッチ”

欧米では学校や習い事の送り迎え、放課後に友だちの家に遊びに行くときにも親が送り迎えをします。

より厳密な親だと、担任の先生に「今日は〇〇ちゃんの家に遊びに行きます」と手紙などでお知らせする場合もあります。

自分の許可の下に子どもを遊びに行かせていることを周囲に提示し、その上で子どもを送迎する。

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自分の子ども以外も一緒に連れて登校するロンドンの母親(撮影:清永奈穂氏)

ここまで徹底する理由は、顔見知りや別れたお父さんに誘拐されるケースが多いから。一人でショッピングモールや公園のトイレはもちろん行かせませんし、日本に比べると親は常に子どもが今どこで何をしているのか目を配っています。

――大人の通報する義務について、日本だと例え虐待を疑っても躊躇う場合も多いと思いますが、海外ではすぐに通報するのが常識なのですか?

すぐに通報します。

イギリスでも、たとえば駐車してある車の中に子どもがいればすぐに通報されます。ただし、警察に通報し親に厳しくするだけではなく、同時にソーシャルワーカーなどに伝え、子育てをフォローする仕組みも日本より進んでいます。

イギリスには古くからネイバーフッド・ウォッチという地域住民による見守り活動がありますが、カーテン越しにお互いに見守りながら、被害にあいそうな子どもや犯罪が起こりそうなサインを見逃さずに伝えあう文化は日本よりも根付いています。

イギリスも日本より子どもの性被害や略取誘拐が多いぶん、一人にしないこと、周囲の監視体制は徹底されています。公園なども親が見守りのしやすいようなベンチの配置、また不審なものが子どものそばに入れないようにする柵の設置など、環境設計の面からも工夫がされています。

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子どもやその保護者以外が入りにくいように工夫するロンドンの公園の柵。(撮影:清永奈穂氏)

被害を教訓に高めたシッターサービスの安全性

――日本ではシッターによる犯罪が取りざたされていますが、海外でも同じような事件は起きていますか。

起きています。ですから、シッター資格の取得には厳しい制度が設けられています。

まず、前科のある人はなれない。シッター試験を受ける以前に、前科の有無を調査されます。これはシッターだけでなく、子どもに関わる仕事の職員全員が確認される事項です。

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シッターサービスの会社によっては子どもに関する意識調査も行っています。

「●●の写真を見るのは好きですか」などといった、その人の興味関心を判別できるような心理テストをクリアしないと雇わない会社も多いです。

――海外の子どもの安全に対する意識は非常に高く感じます。

意識が高いというよりは古くからベビーシッターを雇う文化があり、制度を厳しくせざるを得ない歴史があって今に至っているんです。

一件でも事件が起きればシッターサービスの会社は立ち行かなくなりますから、子どもを守るためにも、会社を守るためにも、必然的に厳しくなるんです。

日本のシッターサービスはまだ歴史が浅いので、海外から10年ほど遅れをとっていると感じます。

防犯意識が脆弱なスポイルド・チルドレン

――「子どもを一人にしない」というガイドラインは、実際に防犯に効果的といえるのでしょうか?

犯罪機会を減らす、親の防犯意識を高く保つという点においては効果があるといえるでしょう。

しかし一方で、子どもを一人にしないことや周囲による見守りが徹底されているにも関わらず、ほんの一瞬の隙を狙って連れ去られるのは日本と同じ。

極端な例をあげると、親子が一緒にいても子どもがいる反対側を向いているだけで誘拐されてしまうんです。

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今、親の監視下にいた子どもたちが”スポイルド・チルドレン”(自身の危機に対する察知力、回避力が低下した子ども)となることを問題視したイギリスでは、国主導で子どもたちの安全教育を実践しています。

イギリスのイングランドでは2000年からPSHE教育(Personal,social and health education)という、子どもの健全育成のための「人格・社会性を培う心と体の健康・安全教育」がカリキュラムに投入されました。

この取り組みがスタートした背景には、交通事故による子どもの死亡率の高さがあげられますが、親の監視下にあるうちに自分を守る力を身につけさせようという活動も併せて始まりました。

安全体験型施設を造り声を出して逃げる体験を通じて防犯意識や守る力を学ばせたり、通学路の一部区間だけでも子どもたちだけで通学できるよう、見守り人員を増やし親の監視から外れる体験を積み上げたりしています。

 
体験施設で「一緒に行こう」と声をかけられ断る疑似体験。(撮影:清永奈穂氏)

親に庇護されていた子どもたちの防犯意識は脆弱で、突然一人で行動するようになれば被害にあうのは当然ともいえます。

スポイルド・チルドレンにさせないために、親や大人の監視下で守り通そうという考えは徐々に減りつつあります。

このような考え方はアメリカや中国でも同じようにあり、やがて一人で歩きだす子どもたちが社会で安全に暮らし、安心な社会を自らつくれるような安全教育が進められつつあります。

こうしたアメリカやイギリスの防犯対策と比べ、日本は意外にも、安全教育は進んでおり、その背景には子どもたちの「強さ」が注目されていると清永さん。

後編では、日本の安全教育の最前線と、今から親子で身につけられる防犯対策の新常識を聞いていく。

【防犯/前編】NOと言わさず連れ去り。清永奈穂氏に聞く巧妙なSNS被害

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【防犯/後編】日本の子どもは強い。人への信頼が安全教育に

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<連載企画>子どもの防犯新常識 バックナンバー

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

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