【中国の子育て】“教育は投資”子どもを全力で支える親の関わり
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さまざまな歴史や風土をもつ世界の国々では、子どもはどんなふうに育つのでしょうか。この連載では、各国の教育や子育てで大切にされている価値観を、現地から紹介。今回は、中国・海南島に住み、大学で日本語講師をされている林由恵さんに話を聞きました。
“教育は投資”親は子どもを全力でサポート
中国統計情報ネットワークの『中国統計年鑑』(2019年版)によると、中国の一人当たり消費支出に占める教育支出の全国平均は、食費や住居、交通費・通信費に次いで4位となっており、その金額は都市部になればなるほど高い傾向にある。
中国の海南島の大学で日本語講師をされている林由恵さんは、都市部と農村部で格差が大きいなか、中国では子育て世帯の収入における子どもの教育費の割合が大きいと話します。
「教育費にお金をかけるのは、富裕層だけではありません。一般家庭においても、子どもへの教育投資ニーズが高く、共働きのどちらか一方の収入をすべて子どもの教育費にするという家庭もあります。
なぜ、これほどまでに教育にお金をかけるというと、“教育は子どもの投資”という考え方があるから。中国の保護者は、子どもが良い大学を出てエリートになれば、教育にかけた以上の年収を稼ぐことができるというリターンを知っているのです」
習い事は早いうちから掛け持ち
中国の幼稚園は3歳から始まりますが、なかには、1歳半ごろから始まる幼稚園に入る前の早期教育機構に子どもを預けるという方もいると林さん。
「中国では、0~3歳児までの教育をしてくれる教室や機関のことを、早期教育機構と言います。人気があるのは、英語のネイティブな先生がいるところ。あとは、学校では教えてくれない学力以外の分野を教えてくれる『能力開発教室』なども人気を博しています。
中国では、早くからたくさん習い事をした方が、子どもの得意分野が分かっていいという考え方。ですから、子どもたちは、小さい頃からピアノや音楽系、ダンスやバレエなどさまざまな習い事をしていますね。
小中高になってくると、高考(ガオカオ)と呼ばれる日本でいうセンター試験に向けて勉強をしなければならないため、少しずつ塾の比重が高くなっていきます。
塾の費用は、1元を16円で計算すると、語学系の塾で、マンツーマンの場合は外国人講師だと1時間あたり約200元(3200円)、中国人講師で約100~150元(1600~2400円)、クラス授業でおよそ30~50元(480円~800円)と段階によって費用が違います。
芸術系の習い事だと、マンツーマンで1時間100~300元(1600~4800円)くらいが相場ではないでしょうか。中国は勉強系の携帯アプリも充実していて、1年間1000元程度(16000円)。好きな時間に好きな量の勉強ができるアプリは、私が在籍する大学でも、多くの学生が活用しています」
“自立心”より“勉強”が親孝行に
「学歴社会の中国では、子どもが家のお手伝いをしてくれるよりも、勉強をしてくれた方が“親孝行”であるという文化があります。
子どもたちは、家庭でも学業を優先するあまり、生活力が育っていないという社会問題もあります。信じられないかもしれませんが、中国では、英語はペラペラなのに、ごはんをうまく食べられない子どもも。
学歴至上主義の中国では、学力に対してはストイックに取り組みますが、一方で、生活力や個性というものはあまり重要視されない傾向にあります。ですから、日本の靴を揃える習慣や掃除の文化は、中国の保護者からすると、本当に驚かれると思います」
また、1979年に導入された「一人っ子政策」が2015年に幕を閉じた中国は、政府が子どもの数を制限するという枠組み自体は残したまま、現在は「二人っ子政策」として2人目出産を認めているものの、中国統計情報ネットワークによると、2019年の中国の出生率は、人口1000人当たり、10.48人。
出生人口は約1460万人となっており、前年と比べても減少傾向にあります。
「出生率が低いのは、従来の一人っ子政策に慣れていることや、子ども1人に対する教育費が高いことをふまえ、積極的に二人目を作ろうという人々が少ないからかもしれません」
祖父母が子育てを支える社会
「教育費を子どもにかける中国では、共働きが当たり前。女性は妊娠をすると、出産予定日の1~2週間前くらいまで働き、出産後にたくさん休む方が多くいます。
23の省からなる中国の育休制度は、それぞれの省によってルールが違っていますが、私の住む海南省や広東省などでは、基本的に女性が98日で、男性が10日。もらえるものはもらうという文化なので、男性陣も育休はしっかり取得していますね。
出産後、母親は育児も家事もせず、お風呂にも入らず休む習慣があり、産後1カ月間は、母親たちは思い思いにゆっくり過ごします。
富裕層の場合、月子(ユエズ)と呼ばれる産後ケアセンターで産後を過ごしますが、子どもの世話と3食が付いて、1カ月でおよそ100万円。まるでスイートルームのような部屋で至れり尽くせりの生活をするんですよ。
ユエズに行かない場合でも、この1カ月間は、家のことや赤ちゃんのお世話はせず、全て祖父母にやってもらいます。もともと祖父母との同居世帯が多い中国では、出産のために里帰りをするという概念はありません。
祖父母が遠くに住んでいる場合は、出産を機に祖父母が近くに引っ越してきたり、一時的に同居したりするパターンも。あるいは、祖父母がいない場合や来られない場合は、保母さんを雇って代わりに子どもの世話をしてもらいます。
こうしてたっぷり休んだあと、母親たちは祖父母に子どもを預けて仕事復帰をしていく。なかには、出稼ぎや勤務時間の関係で、祖父母の家に子どもを住まわせ、離れて暮らすという家庭もあります。
ですから、中国の子どもたちは、おじいちゃんっ子やおばあちゃんっ子がほとんど。一人っ子の場合、子ども1人に対して祖父母が4人なので、かなり手厚く、家庭ではすごく溺愛されているな、と思います。
とはいえ、祖父母を敬う文化が社会に広く根付く中国では、祖父母の存在は子育て世代にとどまらず、とても大きいですね。子どもたちも祖父母からの愛情を存分に得ながら、厳しい競争社会のなかで学び育っています」
<取材・執筆>KIDSNA編集部