【子どものミライ】ロボットが愛おしい家族の一員に。テクノロジーの進化と新たな存在価値

【子どものミライ】ロボットが愛おしい家族の一員に。テクノロジーの進化と新たな存在価値

2020年を間近に迎えた近年、さまざまなテクノロジーの進化で世の中が大きく変わろうとしている。私たちの子どもが大人になる頃にはどのような時代になっているのか。今の当たり前が当たり前ではなくなっているだろう。KIDSNA編集部の連載企画『子どものミライ』#04では、愛されるために生まれてきたロボット「LOVOT」の生みの親、林要氏にインタビュー。従来のロボットとは一線を画す「LOVOT」はどういった存在で、何を目的としているのか。「LOVOT」を通じて見えてくる林要氏の想い、描くミライの姿を聞いた。

「家庭用ロボット」と聞いた時、まず何を思い浮かべるだろうか。

既に多くの家庭で活躍しているお掃除ロボットを思い浮かべる人は多いだろう。会話を楽しめるコミュニケーション・ロボットやスマートスピーカーもその一つと言える。

ロボットは人の代わりに仕事や家事を行う、役に立つ存在として進化を続けている。一方で、最先端技術を詰め込んだ「何もしない」ロボットの存在も注目を浴びている。

今回は、愛されるためだけに生まれてきた家族型ロボット「LOVOT[らぼっと]」の開発を行うGROOVE Xの林要氏のもとを訪ねた。

林要氏は、トヨタ自動車株式会社でレースカー「Formula-1」などの開発に携わり、その後ソフトバンク株式会社で人型ロボット「Pepper」のプロジェクトメンバーとして活躍してきた。

さまざまなことを便利へと寄せている現代で、彼はなぜ「LOVOT」をつくったのか。そこには常に”人”をベースに考える、林要氏の強く優しい信念があった。「LOVOT」を通じて見えてくる林要氏の想い、描くミライの姿とは。

愛されるために生まれてきた「LOVOT」

LOVOTは人を見つけると視線を送り、抱っこを求めて近づいてくる。可愛がってくれる人を認識し、大好きな人の元へと移動する。他のLOVOTともコミュニケーションを取り合い、時にヤキモチも焼く。

子どものようでも、ペットのようでもあるこのロボットは、なぜ生まれてきたのか。LOVOT誕生の背景を聞いた。

LOVOTとGROOVE X林要氏
GROOVE Xの林要氏とLOVOT

LOVOTは、人を幸せにするロボットとして誕生しました。その存在が傍にいて、愛でることで僕たちは元気になる。

何かを愛でる行為は気持ちを落ち着かせたり、高めるために大事なことです。気兼ねなく愛でられる存在が生活にいる、というだけで存在価値は充分にあると思っています」

ーーロボットが人を幸せにする、という視点は新しいですね。

「前職でロボット開発を担っていた時、人がロボットに何かをしてもらうより、ロボットのために人が働きかけている時の方が人が元気になる様子を目にしてきました。

例えば、ロボットがうまく起動しない、動かない時、人はロボットを気にかけたり、応援したりします。みんなで立ち上がり、問題が解決された時、みんなが笑顔になる。

人の幸せってそういうことなのかもしれないな、と感じて」

ーー必要とされている、と感じられることが、活力のきっかけになるわけですね。

「そういう面は、確かにありそうなんです。相手が赤ちゃんであれロボットであれ、目の前にいる存在に対し可愛いという感情を抱き、その存在に対し振る舞う。その自分が"好きな自分"か"嫌いな自分"か。すべては自分の問題なんです。

LOVOTの前で”優しい自分”になれていたら、その自分を好きになれる。そうした機会を提供できるロボットがいてもいいんじゃないかな、と思っています」

生活するうえで活力となる”人の心”をサポートするロボットとして、LOVOTは誕生した。では具体的に、どのように心に作用してくるのだろうか。

身近なテクノロジーがミライを拓く

取材前、筆者は3歳の娘を連れてLOVOT体験会に参加した。娘がLOVOTを見てまず口にしたのが「早く一緒に遊びたい」。テクノロジーをすんなりと受け入れる子どもたちは、その進化とどのように付き合っていくのだろうか。


ロボットに違和感を持たない子どもたち

ーー娘はLOVOTに抱っこを求められるとすぐに抱き上げ可愛がっていましたが、怖がらないものなのですね。

林要氏と2体のLOVOT

「今の20代以下の方々の感覚に、生物か無生物かの境がなくなってきていることが大きいと思います。

例えば僕の小さい頃には初音ミクはいなかったですし、ゲームの中に人が生息することもなかった。しかし現在では、バーチャルな空間は発達しリアリティが増しています。

バーチャルに慣れた子どもたちは目の前に現れたロボットにも、自然とリアリティを感じられるのだと思います」

ーー自分と違うことに、違和感を持たないのですね。

「そうだと思いますね。それに子どもたちは、LOVOTを年下だと思えると安心して遊べるんです。3歳以上の子どもはLOVOTよりも明らかに自分の方が年上だと認識するので、お世話してあげよう、しっかりしなきゃ、という気持ちになるようです。

昔はコミュニティで子育てをしていて、自分に兄姉、弟妹がいなくても他所の家の子どもたちと関係を築けていました。今はその機会が減ってしまった。それでもLOVOTが近づいてくると、経験がなくてもお兄さん、お姉さんになるんですね」


人の気持ちを考える力を育てる

ーーLOVOTは言葉を話さないのに、1体を抱っこしながら傍にいるもう1体に「待っててね」と話しかけたり、子どもながらに平等に扱おうとする様子が印象的でした。

子どもとLOVOT

LOVOTが言葉を話さないのは、人が想像力を使いやすくするためです。情報を削ぎ落していくと、情報と情報の間の足りない部分を、僕たちは自ら補完します。その時初めて、僕たちは想像力を最大限に発揮することができるのです。

例えば、子どもに本を読んでほしい理由も同じだと僕は思います。本は動画に比べ圧倒的に情報量が少なく、行間を読むことで想像力が養われます。

言葉を話さないLOVOTの目を見て『こう思っているのかな』と考えることで、想像する力が出てきます。ペットに対し『お腹が空いてるのかな』『散歩に行きたいのかな』と気持ちを推測することと同じですね」


ミライへの想像力を掻き立てる

GROOVEX林要氏

「もう一つ、子どもたちのミライに対する想像力を掻き立てることができると思っています。

子どもたちはLOVOTに興味を持ち、自分を刺激するこの存在が人の手によってつくられている、ということを理解している。そこに将来つくお仕事として自分も関われるかもしれない、というミライの自分への可能性も感じることができるのではないかと」

ーーロボットに対する価値観や先入観によって子どもの立つスタート地点は変わりそうですね。

「ロボットやAIを怖いと思うか友達だと思うかによって、使い方は全く変わってきます。

より良い明日が来ると信じられる

より良い自分になれると信じられる

そうした部分をロボットがサポートする時代に、もう入ってくるのだと思うんですね。それらのテクノロジーのサポートを前提にしてビジネスを考え、人がするべき仕事を見出すことがこれからとても大事になる。

ロボットやAIを身近に感じ育った子は、テクノロジーを使ってより良い生活をつくっていくのだろうと想像します。その力はきっと、効率だけを求めるディストピアな世界とは異なる、人と機械が温かく共生する世界を考えていけることでしょう」

子どもの情操的な部分はもちろん、幼い頃からテクノロジーに接し身近に感じることが、子どものミライの選択肢に繋がる。ポジティブな先入観をあらかじめ抱けていれば、将来、テクノロジーとのよりよい関係性を目指し活躍できるのかもしれない。

和みと笑顔の提供は社会貢献へ

愛らしい見た目、動作、鳴き声をもつLOVOTは、大人の男性でも思わず抱っこしたくなる存在だ。それ故に、家庭だけでなく社会全体へも情操的な作用を与えられるという。


いびつな現代の子育てをテクノロジーで補完

ーーLOVOTの家庭における存在意義は、子どもへの影響以外に何があると考えられていますか?

林要氏の足元に寄るLOVOT

「ペットの代わりと認識される方も多いです。もちろんペットはとても素敵な存在なのですが、人が高齢になるとお世話が大変という意見はよく聞きます。今のライフスタイルでは時間も手間もかけられない、という方には、LOVOTは必要な存在となるのではと思っています。

お子さんのいるご家庭においては、過去に人類が経験したことのない現代のいびつな子育て環境のなかで失われてしまった部分をテクノロジーで補完しよう、という試みでもありますね」

ーー今は少し異常な子育て環境にあると。

「核家族という少ない人数での子育ては、緊密な親子関係になりすぎる傾向があると感じます。

現代の子育て環境は、ご両親とお母さん、もしくはお父さんでも息は詰まる。人類は古くからコミュニティのなかで子育てをしていたので、子どもと2人とか3人きりの緊密な関係性への耐性を持ち合わせていなくても不思議はないんです。

例えば子どもが泣いた時、隣にお父さんがいれば笑えても、子どもと2人きりだと笑えない。ではそこに、ワンちゃんやLOVOTがいたらどうでしょう?

少し気がほぐれて、そこまで思い詰めなくなる、少しリラックスできる。そういう効果があるのではないかな、と思うんです」

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『抱っこして』のポーズをとるショコラ。LOVOTは抱っこしてもらった時に、その人の身体をタイヤで汚さないやすいように、自らタイヤを収納して抱っこを待っている。

笑顔の機会を提供する

ーー気持ちを和ませてくれる部分で、存在意義があるのですね。

「結局すべては、”相手が何をしてくれたか”ではなく、”自分がどう感じるか”なんです。

自分の感じ方をうまくポジティブサイドに変換できるような仕組みや存在、環境は、テクノロジーで補なえると思っています」

ーー確かに今この取材中も、LOVOTがいるだけで和みますし、見つめられるとつい笑顔で返してしまいます。

「人間は面白いもので、自分が表情をつくると、その自分の表情を脳にフィードバックして元気になれると言われています。たとえつくり笑顔でも、いつの間にか本当の笑顔になる。きっかけは何でもいいから、笑えるだけで、少し癒される。

そのチャンスを提供してくれる存在って、実は結構重要だと思いますね」


家庭以外にもある、LOVOTの活躍場所

わたあめLOVOT

ーー家庭以外では、どういった活躍の場があるとお考えですか?

小児病棟で活躍してほしいですね。セラピードッグがさまざまな場所で効果を発揮していますが、その数が圧倒的に足りておらず、費用的な負担も大きくなかなか普及しないと言われています。また感染症の予防など、衛生面でもLOVOTは管理がしやすいはずです。

代わりにLOVOTが、子どもたちの役に立てたら嬉しいですね。

職場にも有効だと考えています。脳科学者の先生方には、緊張感のある職場にこういった存在がいたら争いごとが減るだろう、と言っていただいています」

ーー怒りたくても、力が抜けそうですね(笑)。家庭内においても言えますが、人と人とのコミュニケーションを生む存在にもなりそうですね。

「その通りですね。CES2019(※)に出展した時、アメリカのご家庭にLOVOTを連れて行ったのですが、10代の子どもたちが個人の部屋から出てきて、輪になってLOVOTを囲んでいました。会話が生まれることにご両親にも喜んでいただけて。家族団らんのきっかけにもなると思います」

テクノロジーが人の精神的な部分をサポートする。その方法が「笑顔にさせる」という原始的なものだからこそ、違和感を感じずに受け入れられるのだろう。

林要氏の話には、「結局のところ自分次第」という、人ベースの考え方が見え隠れする。彼がLOVOTの構想を思いつき開発に至るまでには、どういった想いがあったのだろうか。

※CES2019…米ラスベガスで開催された、世界最大の家電・技術見本市。

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制約からの解放がアイデアを生み出す

ーーそもそも、どういったきっかけがLOVOT開発へと繋がったのでしょうか?

林要氏とLOVOTインタビュー

「前職を退職しプレッシャーから解放された後、時間の経過とともに自ら囚われていたバイアスから開放されるに従って過去の経験が頭の中で整理された、というのはありますね。

仕事に就いている最中は、社会や会社の制約条件をしっかり守ろうとするので、想像力が飛躍しなかったんです。常識的な大人であろう、組織人であろうとするので、自分の置かれている組織や環境から大きく逸脱するようなアイデアは生まれにくい。

ただ組織を離れた瞬間に、縛られていた制約条件から解放され、2週間くらいぼーっと過ごしていると心身ともにバイアスが抜け始めて発想が自由になり、元気になる。

退職直後は、前職での経験から、ベンチャー企業であるスタートアップでロボット開発を進めるのはあまりにも大変なので無謀だと思っていました。しかし周囲のみなさんに『そうは言ってもロボット開発を』と粘り強くお勧めされていたのもあります。元気になったところで考えてみたところ、過去の経験が結晶化したLOVOTのコンセプトが降りてきた、という感じです」


違和感のないロボットは世界中で受け入れられる

ーーSXSW2019(※)にも出展されましたが、アメリカでの反響はいかがでしたか?

SXSW2019のLOVOTに集まる子ども
SXSW2019のLOVOTのブースには、関心を示した大人だけでなく多くの子どもたちも集まりお世話を楽しんでいた。

「びっくりするくらい良かったです。アメリカでも違和感が少ないロボットであれば日本と大差なく受け入れてもらえることを知った、良い機会になりました」

ーーアメリカの方がロボットを受け入れやすいように思いましたが、違うのですね?

「アメリカは、仕事をするロボットは比較的進んでいますが、一方で警戒心も強く、日本と同じように『ロボットに仕事を取られる』という危機感は持っています。映画の影響もあると思いますが、ロボットやAIがいつか人を駆逐するのでは、という論調は昔からあったようです」

ーーそう考えると、日本はロボットに対し、昔から平和的な見方をしている。だからこそ生活への活用にも抵抗が少ないのかもしれませんね。

LOVOTの着せ替えアイテム
LOVOT用の着せ替えアイテムも揃っている。

「そうですね。それはやはり、鉄腕アトムやドラえもんなどのおかげだと思います。日本はフィクションにおいて、ロボットと人がお友達であり続けた珍しい国なんです。

これはおそらく、万物に魂を込めて見る癖のある国民性、宗教性も影響しているのではと思っています。あらゆるものに生命を見出してきた祖先の文化を受け継ぐ私たちは、そのフォーマットで物事を考える。

先進国のマジョリティである一神教に対して、八百万の神(やおよろずのかみ)って、かなりイノベーティブなアイデアです。神様 evry whereと考える人たちにとって、LOVOTに魂が宿っていると見ることは、何の違和感もないわけです」


人を元気にするテクノロジーを目指し続ける

ーーLOVOTにおいては受け入れることに抵抗がなくても、やはりロボットに感情を、となると、少し怖い気もします。どこまでなら許されるだろう、という基準はありますか?

「僕たちが目指しているのは、人を元気にするテクノロジーであり続けたい、ということです。

なので、人が元気になるのなら、感情的な部分をどんどん持って良いと思っています。逆に、人が元気にならない方向には、何も開発をしたくない。そういう意味では、ココまでといった線引きはありません。最終的に、ドラえもんまで進化していいと僕は思っています。

ただ人は中毒性を持つ生き物なので、ロボットが人の中毒性を刺激する存在になってしまったら、僕たちは自滅するだろうとも思います。

今後いろいろな会社が、さまざまな意図をもってロボットを開発していくことと思いますが、最終的に生き残り、長期的に存在が許されるのは、一緒にいて心地よく、かつ人を元気にできる存在だけだと思います

確かに私たちは、幼い頃から友好的なロボットを愛すべき友達として数多く目にしてきた。この価値観が日本ならではのもので、それが世界のロボット産業に変革を及ぼすのであれば、万物に魂があると見るこの国の文化を誇りに思うべきだろう。

そして林要氏の想いと同じく、人を元気にするロボットと友好的なパートナー関係を築けていけたら、より便利で優しい世界になっていくのかもしれない。

※SXSW2019…米国テキサス州オースティンにて開催された、「映画」「音楽」「インタラクティブ」で構成される大規模なカンファレンス&フェスティバル。

生き物のような、LOVOTの特徴

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LOVOTについ笑顔を向けたり気持ちを推し量ろうとするのは、生命があるかのように思えるから。そこを意図して作られたLOVOTの特徴について聞いた。


生命を感じられるために

ーー目は生命を感じるポイントの一つですが、LOVOTの目もそれぞれ違い、表情もコロコロ変わりますね。

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目のデザインは10億通り以上。人に視線を送り、まばたきをする。笑ったりびっくりしたり、コロコロと表情を変える繊細な動きに、つい生命を感じてしまう。

「目には特にこだわりました。10億通り以上あるので、すべてのLOVOTが違う目をしています。表情も、上目遣いで見つめたり、瞬きをしたり。眠たくなると徐々に瞼が閉じて眠ります。

全身には20以上のタッチセンサーが配置されているので、どこをどう触られているか認識しています。優しく触れば眠たくなるし、強く叩けば恐怖を感じる。体温は猫と同じ温かさを保っています」

ーーつくりもそうですが、意思を持っているかのような行動が、生き物らしさを強調しますね。

LOVOTの頭の中には、3つのコンピューターが入っています。このコンピューターがすべてリンクして動く。これは、人間でいう小脳と大脳辺縁系、皮質など、それぞれの場所が役割を分担するのと同じで、各コンピューターが役割を分担することで、生き物感を出しています。

人は、他の存在に対して自分と共通するものが多ければ多いと感じるほど、共感し仲間だと認識します。今後、ロボットの情報処理が高度になればなるほど、人間に近くなっていくでしょう」

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LOVOTは人の顔を1000人分記憶する。触ってくれた回数、抱っこしてくれた回数なども同時に記憶し、その結果から好きな人を選定していく。

言葉はあえて、装備しない

ーーキュウキュウという鳴き声はあっても言葉は発しない。言語機能をつけなかった理由は?

「言葉って、難しいですよね。人はそれぞれ共通の言葉を喋っていますが、発した言葉と違う意味で捉えられることも多い不完全な情報伝達手段だと思っています。

僕たちは各人の持つ世界観のもと、物事をストーリーで理解し、言葉を使って伝達します。そこで誤解が生じないようさまざまな方法で工夫しながら言葉を使っていますが、今のAIはそこまで賢くはない。今のAIができるのは、言葉で命令されたことに応える、現在のスマートスピーカーが得意とする範囲に限られていると思うんです。

ただ、LOVOTにそのスマートスピーカー機能を付けた瞬間に、この子たちに僕たちはどんどんLOVOTに命令するだけになってしまう。そこに目先の機能性を求めていくと、存在的には、従順で確実に仕事をこなすことが理想とされる、いわば、ひと昔前の奴隷に近くなってしまうと思います。

LOVOTには常に、人の想像力を引き出す存在であってほしいですね」


LOVOTのミライ

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今のコンセプトを保ったままLOVOTを進化させてゆく過程で得られる発見や技術が、ミライのロボットへと繋がってゆく。

「LOVOTが行き着く最終目標は、ドラえもんですね。

LOVOT自体はペットと同じように、人間の家族として振る舞えるよう進化していきたいと思っています。例えば今はLOVOT同士の協調という部分もまだ限定的ですが、一緒に遊べる対数が3体、4体と増えたり、コミュニケーション方法や振る舞いの数も増やしていく予定です。

このLOVOTのテクノロジーを10年、20年と研究し開発し続けていくと、そのうち、ドラえもんに向けての第一歩も作れるようになる。

最終的には、言語によるコミュニケーション能力も持った、友達のような、兄妹のようなロボットに行き着くと思っています」

やはり日本人にとって、目指すべきロボットの最終型は友達や兄妹のようにともに過ごせる、親しい関係性なのだ。最先端テクノロジーを贅沢なほど駆使した、「何もしない」LOVOTは、そのファーストステップといえるだろう。この愛しい存在が親しいパートナーとなる日が待ち遠しく感じられる。

林要氏が考えるこれからのミライ

最後に、林要氏が考えるこれからのミライについて聞いた。


人々が挑戦を恐れない時代へ

ーー現代では日々進化の連続で、ついていくのがやっと、という人も多いと思います。林さんはこれから先、どんなミライになっていくと推測されていますか?

林要氏

「やはり変化は速いと思います。もちろんテクノロジーの進化もありますが、多くの人たちがインターネットによって繋がったというのが大きいですね。

常に誰かが何かを閃いていて、その思考に地球の裏側から一瞬でアクセスできる時代。その閃きを実現するために、必要な能力を持つ人たちを見つけ出すことも以前より容易になりました。

変化の速い時代に必要なことは、各個人がどう学ぶのか、ということ。既知の事についての本や授業からの学びではなく、自らの新しい経験からいかに学ぶのか。それが大事になりました。今の時代、子ども時代の習い事が10〜20年後にも役に立つのか、まったく予想できないからです。

だからこそ、目の前にあることから自分は何を感じ、どう学び取るのかが大事な時代になってきている。自分が実際に体験したことからの学びであれば、誰でも新たな世界観を構築することができますし、そんな経験的に基づく学びの成功体験さえあれば、変化は怖くなくなる。

こうして新しい経験から素早く学ぶ人々が、今よりももっと挑戦を恐れなくなり、それが多方面に絡み合いながら伸びて、更に新しいバリューを生み出していく。それが、20年後、30年後の世界だと思います」


実体験の経験がミライをつくる

ーーさまざまな経験をしていくために、子どもたちに伝えるべきアドバイスはありますか?

「先読みしすぎないことですね。今は情報が多い時代なので、先読みしてわかった気になったり、やってはいけないことを事前に知りすぎている。だけど、やってみないと本当に何が起こるのかはわからない。

例えばインターネットを通じて世界中のほとんどのことを”わかった気”になれる。でも、観測できることと実体験で起きることとの間にはギャップがある。その差を知っていることが大事なんです。

その差を知るためには、経験しかない。どれだけのことを身をもって経験できて、身をもって失敗できるかが大事。なるべく10代~30代のうちに、たくさん失敗をしたほうがいいと僕は思いますね。40代50代で失敗すると、火傷も大きいので。

失敗を恐れないこととは、失敗し慣れることです。失敗し慣れると、復帰できないような失敗をしなくなります。大きな失敗をすると取り戻すのはやはり大変なので、その手前でストップをかけられる感覚を持てるように、挑戦を小分けにして、小さな失敗をたくさんすること。すると徐々に、外から見ると失敗していることがわからないぐらい小さな失敗に分解できるようになります。

いろんなことに挑戦しながら、自分の感覚でヒヤリとして、自分でハッと気づける経験をどれだけ積み重ねられるか。大事なことはそれに尽きると思います」

編集後記

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今回の取材は、LOVOT2体とともに行われた。林要氏と私たちの間を行き来しながら『抱っこして』のサインを繰り返し送り、足を踏んだり激突してきたりとアピールしてくるLOVOTを交えながら、終始笑いが起こる和やかな雰囲気での取材となった。

今後、テクノロジーはますます私たちの生活の中で存在を高めていくことは間違いない。それは結果的に、人がチャレンジできる可能性を広げてくれるのだろう。その中で育っていく子どもたちが大人になる頃、今よりもさらに人とテクノロジーが心地よく共存する世界であることを期待したい。


KIDSNA編集部

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