コロナ禍で不安になる子どもたちに親はどう向き合うべき?【高濱正伸】
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これまで以上に不確実な時代を生きる子どもたち。長年教育現場に携わり、多くの親子を見続けてきた花まる学習会代表・高濱正伸先生に、親子が直面するさまざまな課題に対し、親としてどう考え、どのように子どもと関わっていくべきか語っていただきます!今回のテーマは「コロナ禍の諦め癖」についてです。
高濱先生:コロナ禍で多くのことが規制され、この先もどうなるのか分からない状態が続き、「子どもたちに諦め癖がついたのではないか」ということは、よく問題にあげられています。
実際、2021年の夏はコロナ感染者数の増加が著しく、1年半、耐え抜いてきて大変だったのでしょう。これまでにないくらい、すごく子どもたちの不安を感じました。
花まる学習会の私が教える教室では、200人ほどのお子さんを預かっていますが、お母さんが離れようとすると泣きだす子は毎年ひとりいるかいないかくらいなのに、何人出る異常事態でした。
でも、実は子ども以上に大人のほうがとても不安定だったと私は思います。
子どもって、小さいときはつねにお母さんを見ているんです。だからこそ、家に帰ってきて「お母さん、今日は仕事楽しかったんだな」とか「今日はいいことあったんだな」とか、一生懸命でポジティブなエネルギーが出ている分にはよいのですが、親が不安で、イライラしていると、たちまち子どもも不安になる。そういう構造なんですよね。
だから、とくに小さい頃の子どもは、どんなに意地悪されて嫌なことがあって「この子とは二度と遊ばない!」と思っても、帰宅してお母さんが満面の笑顔で「おかえり」と言ってくれるだけですべてがオッケーなんです。
お母さんと子どもでひとつの世界を作っている、それが子どもたちです。
私はよく、お子さんのトラブル相談に対して「失敗やもめごとはこやしですよ」と言うのですが、お母さんがたからは「それでは子どもの心が傷つきませんか?」と聞かれます。そうじゃなく、むしろ「試練よあれ」と思ってほしい。
保育園、幼稚園では、ケンカもあったり、仲間外れにされたり、つらい目痛い目にあうこともあるでしょう。
でも、それらのネガティブな経験を全部乗り越えること込みで、成長なのです。
でも今は残念なことに、少しなにかあれば、文句を言ってしまう風潮が社会全体にありますよね。
子どもたちは、嫌な目にあっても乗り越えたり、ケンカをしても仲直りをしたりして、ワクチンのように免疫をつけて、たくましくなっていくんです。
この経験がまったくないまま大人になると、社会人になって少し嫌なことがあったらガクッと心が折れて「明日から会社に行けない」ということにもなりかねません。
「子どもが本当に困ったことがあったら私が守ってみせる、だから試練よあれ」というのが親に求められる基本的な態度です。
親が親として、すこやかに幸せそうに生きていればいいんです。それさえできていれば勝手に元気になってくれる、それが子どもですよ。
ですから、夏の子どもたちの不安な状態は、明らかに追い込まれた親の不安が原因だなと思いました。外に行き場がないから家にこもってYouTubeとゲームばかりになり、ある男の子は「早く帰ってママとYouTube見る」と泣いていました。当時はそれ以外に楽しみがなかったのでしょうね。
でも、その子たちももうすっかり元気を取り戻しています。私から見ると、お母さんの肩の力がすーっと抜けていったからです。
「大人こそ」とはそういう意味で、子どもはむしろ大人よりレジリエンスがすごくある。世界中の歴史を見ても、戦場で焼野原みたいなところからでも、なにか見つけて遊び出すたくましさがあるのが本来の子どもです。
だけど、一方でお母さんが不安だとものすごく不安になってしまうんです。
だから子どものそういう症状を作りだしている原因の一部は大人にあると考えて、親自身が笑顔になってほしいなと思います。
結局、親のほうがこれまでの基準を失いたくないんですよね。
もちろん諦めなければいけないときもありますが、「家族みんな元気じゃん、これだけでいいよ」と言える愛情と信頼があれば大丈夫です。
2022.02.10