【防犯/後編】性被害に遭った子どもに絶対言ってはいけない言葉

【防犯/後編】性被害に遭った子どもに絶対言ってはいけない言葉

世界的に安全な国として位置づけられている日本の防犯対策とは?小学生をはじめとする子どもの誘拐や連れ去り、性犯罪被害のニュースは後を絶たない。この連載では、親として認識すべき安全対策、子どもへの安全教育について紹介する。第3回は、弁護士の上谷さくら氏に話を聞いた。

<連載企画>子どもの防犯新常識
前編では、子どもへの性犯罪が発覚しにくく、不起訴処分になることが多い理由と予防の考え方について聞いてきた。

弁護士の上谷さくらさんは、続けて「子どもが被害に遭ったらまず警察へ。スカートが短いからだ、なぜ抵抗しなかったの、など、絶対に子どもを責めてはいけない」という。

性犯罪の被害に遭ったことを娘や息子に相談されたら、親はなんと応えるべきだろうか。

性被害に遭った子どもに言ってはいけない言葉

――もし、子どもが性犯罪の被害に遭ったと相談してきた場合、何と声をかければよいのでしょう。

性被害に遭うことは、すごく怖くていやな体験です。保護者にそのことを知らせるために、相当な勇気を持って話してくれたはず。

だからこそ、「スカートが短いからだ」「痴漢なんて誰でも遭うものだから忘れなさい」「あなたにも隙があったのでは?」「なぜ抵抗しなかったの」など、子どもを責めることは絶対にしないでください。

まずは、「勇気を出して伝えてくれてありがとう」と最初に伝え、子どもに寄り添った会話を意識するとよいと思います。
上谷さくら(かみたに・さくら)/犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。
上谷さくら(かみたに・さくら)/犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。
衣服の乱れやケガなどから「何かあったのでは」と思っても、子どもが自ら話し出すまでは根掘り葉掘り聞かないでください。「大丈夫?心配してるよ」「いつでも話してね」「あなたの味方だから」などと声掛けして、子どもが安心して相談できるようにしてください。

ただ、本人が大丈夫と言っていても、犯罪行為が疑われるのであれば保護者から警察などに相談したほうがよいと思います。

犯罪行為に当たらなかったとしても、今後エスカレートする可能性はあります。「そういうことって気持ち悪いよね。もし私が同じことされたらいやだな」と、その行為は不快であると子どもに認識させることも大切です。
――親だからこそ、子どもは性被害を受けたことを話しにくいかもしれませんね。

保護者との関係性はとても重要です。子どもは保護者をすごく観察していて、保護者に伝えてもよいのかということを気にしています。

「いけないことをされたとわかっていたけれど、親に言えなかった」という子どもは多いんです。

「お母さんが悲しむと思って、心配をかけたくなかった」という子もいれば、「私の心配よりも世間体を気にする親だから、話を聞いてくれず終わりにされてしまうと思った」と、口をつぐんでしまった子もいます。

性にまつわることは大事なことだからこそ、日頃からコミュニケーションをとり、子どもが何を言っても受け入れる姿勢を見せて、信頼関係を築くことが大事です。
いけないことであれば、「それはよくないね」と話せばいいわけで、頭ごなしに「あなたが悪い」と決めつけたり、「忙しいから後で」と後回しにしないようにしてください。
iStock.com/fizkes
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親が心得ておくべき「証拠の残し方」

――子どもを守るために他にできることはありますか。

証拠をひとつでも多く残すことです。

保護者は「何かいやなことあった?」と、遠まわしに聞く。そのうえで少しでも性被害の疑いがあれば、とりあえず警察に行きましょう。

やってはいけないことは、保護者が根ほり葉ほり事実確認をすること。これはとても大事なことなのですが、あまり知られていないことでもあるんです。

保護者は「こんなことされたんじゃないの?あんなことされたんじゃないの?」と、心配であるがゆえに、本人の口から詳細に事実を聞きたい。

けれど、混乱している状態の子どもに、それを言うと「”こんなこと、あんなこと”もあったに違いない」と思ってしまうんです。あるいは、保護者が納得するように迎合した返答をしてしまう。
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実際、裁判のときに、核心部分の証言が揺らいでしまい、「子どもの証言の信用性がない」という理由で無罪になってしまうケースは多々あります。

たとえば、ある日の証言で「下着の中に手を入れられた」と言い、また別の日には「入れられていない」と証言してしまうと、信ぴょう性に欠けてしまいます。核心以外の記憶が曖昧でも、そこまで問題ではありませんが、核心部分はブレてはいけない。

子どもであるがゆえに前後関係などがはっきりしていなかったり、時間が経っていたりしても、被害者本人の核になる証言がしっかりしていれば有罪に持ち込むことができます。

さらに何らかの物証があるとより有罪の可能性が高まりますが、被害者の証言も証拠です。証言がしっかりとしていれば、それだけで有罪になることもあります。
iStock.com/y-studio
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――証拠の残りにくい性犯罪において、被害を立証させるためにはどのようなことができるのでしょう。

保護者の気持ちとしては、できるだけ早く気持ち悪いものを流してあげたいと思いますが、なるべくシャワーを浴びさせたり、口をゆすがせないでください。そのときに着ていた服も、なるべく触らずに残しておいてください。

体内、皮膚、衣服に、加害者の体液などのDNAが残っている可能性があり、それらは有力な物証になります。

「終わったらシャワーを浴びられるからね」と子どもに声をかけ、まずは警察やワンストップ支援センターの提携病院で証拠の採取をします。性病検査やアフターピルなどの処方を受けられ、公費で負担されるので、被害者が支払いする必要はありません。

その後、警察に行ってもケガが治っているため暴行脅迫を立証できないということで、立件できなかったというケースもありました。もし、病院で対応してもらえなかったら、ケガの跡を写真に残すなども有効です。
iStock.com/kazuma seki
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一般の産婦人科の場合は、性被害に正しく対応できる病院は少ない。普通はケガをしないような場所に傷を負っていても「この傷は時間が経てば治る」と言われてしまった子もいます。

その後、警察に行ってもケガが治っているため暴行脅迫で立件できなかったというケースもありました。ケガの跡を写真に残すなども有効です。

ただしDNAが採取できたとして、これだけで立証できるかというと、そういうわけでもありません。

たとえば、皮膚のDNAが加害者と一致していても、「ふざけて飛びつかれたときに引っかかれた」と証言されれば、その弁解を翻すためのさらなる証拠が必要になる。

DNAさえ残っていれば立証可能というわけではないものの、大きな証拠であることに変わりはありません。中にはDNAが採取された時点で、観念して罪を認める人もいます。
iStock.com/DNY59
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子どもの心のケアはできるだけ早く専門家へ

保護者に伝えにくいのであれば、スクールカウンセラーや心理士さんなど、子どもが相談しやすいところに相談するのがいいと思います。
子どもの被害はすごく深刻ですが、専門家のカウンセリングや心理的ケアを受けると、回復も早いんですよ。

被害にあってから心理的ケアを受けるまでの時間が長いほど、回復にも時間を要します。

異性との関係だけでなく、対人関係そのものに不調をきたし「何をやってもうまくいかない」と自分を責めてしまう。時間が経過すればするほど、原因がわからず自分を責める時間が長くなります。
専門家のケアを受け、原因を突き止めることで、「自分が悪いわけではなかったんだ」と納得することはできるんです。それでも何十年もかけて形成されてしまった自己否定などの負の感情をケアすることは難しい。

幼い頃に受けた性被害を思春期になってからフラッシュバックし、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症することもあります。交際相手と性行為をするときに症状が出たり、結婚するときに症状が悪化したり、妊娠を機に発症する人もいます。

一度被害に遭ってしまったら、人生のどこで発症するかはわからないんです。

だから、被害に遭ったときは、できる限り早く精神科医や心理士などの専門家に繋いでほしい。なるべくなら長年同じ先生に診てもらうことが安心感にも繋がります。

証拠不足で立件できなかったとしても、精神科医や心理士とは長期に渡って繋がりを持ち、心のケアをする場はいつでも確保しておいてほしいと思います。
iStock.com/bunditinay
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保護者に直接話せなくても、「私のことを心配し、心理ケアを受けさせるために動いてくれている」という姿勢は子どもに伝わります。

子どもの性被害は信頼していた人から受けることが多い。信頼していた人から被害を受けるから、社会を信用できなくなっているのです。

だから社会に対する信頼を回復する過程が、すごく大事になってきます。

保護者をはじめとして、弁護士や警察、裁判官、それから精神科の先生たちを含めて「社会があなたを守ってくれる」という信頼感を子どもに与えることが重要なのです。

少しずつ、けれど着実に子どもを守る社会へ

――子どもを性犯罪から守るにあたって、課題となっていることは何だと思いますか?

わいせつ事件を起こした教員の処遇は課題になっています。
iStock.com/xavierarnau
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現状ではわいせつ事件を起こしても、憲法第22条「職業選択の自由」との関係から、最短3年で教員免許が再交付されてしまいます。

都道府県ごとに懲戒となった教員の免許は再交付しないよう管理しているものの、処分歴を隠して別の都道府県の教育委員会に採用されてしまうと、後を追うことは難しい。

そのため今年9月、わいせつ行為などで懲戒免職となった教員のデータを検索できる文部科学省内のツールの検索可能期間を、3年から40年に延長すると発表がありました。

教員を新規採用する際に、このツールを確認すればわいせつ教員を採用せずに済むというわけです。ただ、結婚や養子縁組で姓が変わってしまうと、検索にかからないという抜け穴が残っていることや、懲戒処分になったことが官報に掲載されていなかったケースが相次いで見つかっており、課題は山積となっています。
iStock.com/HunterBliss
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――子どもを守るための国家的な仕組みの充実は、今後期待できるのでしょうか。

そうですね。検察内でも、子どもの精神的ケアの研修などが行われていたり、専門家を増やすなどの対策が取られ始めているようです。

ただ、国家的にも性暴力に対する施策は行っていますがまだまだ満足とはいえない。

支援や育成など、大変なところに税金を投入すべきだと思うのですが、お金にならないところにはなかなか予算がつきません。

たとえば、法務省や警察庁に予算が下りにくい現状ですが、長い目で見れば、犯罪が減ると警察官の数を減らすことにも繋がるはずです。犯罪が減ることで、日本を背負う子どもたちを守る。それは結果として国力にも関係してくると思います。

一方で、海外では、性犯罪の加害者にGPSを付けるという国もあり、日本でも、これまでは人権問題の観点からタブーとされていたGPSを取り付けることの是非も議論に上がるようになってきました。
子どもは無条件に守らなければならない存在です。

まだまだ不十分な部分は多いものの、日本の子どもたちを守るための取り組みも、少しずつ歩を進めているのではないかと思います。

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部
<連載企画>子どもの防犯新常識 バックナンバー
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2021年01月26日

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